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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第1章 アスタ・サーネス
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プロローグ1

諸事情のため編集しました。

タイトル旧“プロローグ”

 俺の名前は有野桂一(ありのけいいち)。約4か月後に成人式を迎える20歳の浪人生。

 県外の大学で2年生だったけど、同期の人たちとの交流が上手くいかず逃げるように実家に帰り、そして数か月前に自主退学をした。帰郷した当時は精神的にかなり疲弊していた。精神病院に通うほどではないにしろ、しばらくは人間不信になっていた。帰郷してから数ヶ月が経った今は多少なりと気持ちが落ち着いてきた。それを見計らって父は言った。


「お前には悪いがもう1度大学に行ってもらう。私にも私なりのプライドや地位などがある。分かるだろ?大学中退の息子なんて世間に話せられるわけがない・・・。」


 理由はどうであれ、父は俺にもう一度大学に行くチャンスをくれた。現実逃避して帰ってきた俺にもう一度大学への入学金を出してくれるようだ。父と母には心から感謝した。

 それから俺は次の大学に受かるように必死に自主勉強をし始めた。しかしここ最近、希望ずる大学の受験日が近付くにつれて、前の大学での出来事を思い出してしまい勉強に息詰まっていた。脳に刻まれた負の思い出、それはペンを握る手を微かながら震えさせる程に。

 当然このままじゃまずいと焦った。何とか打開策を見つけようとふと窓の外を眺めると、今日は雲一つない晴天の空だった。丁度いい気分転換になるかもしれないと思い、散歩しようと外出した。


 ・・・うん、ここまではちゃんと記憶がある。だけど、なぜだ?なぜか外出した後の記憶がない・・・。いや、あやふやになっていると言った方がいいのか。とにかく覚えていない。

 あの思い出のせいで、俺もとうとう気でも狂い始めたのか?・・・これ以上の自己嫌悪は止めよう、惨めに感じる。

 それより俺が今いるここは・・・どこだ?


 現在俺は、何故か謎の空間に立っていた。ここまでの経緯を思い出せない今、とりあえず多くの情報を得ようと周りを見渡す。

 ここは白一色の世界。360度、上や下、地平の彼方まで見えるくらい何もない。ここにいる2人の人間以外全てが白い。立っている地面と空が区別しようがないぐらい白い。何故かそんな場所に俺はいる。疑問に思っていることはまだある。

 どうしてなのか知らない男の子が目の前に立っている。見た目はかなり若い、中学生ぐらいだろうか。背丈は174㎝ある俺が少し顎を引けば目が合うぐらい差はある。容姿はかなり整っている、美少年だ。間違いなくモテているだろう。

 そんな謎の美少年と目線を合わせてしまい、2人の間が静寂が流れる。


「「・・・。」」


 ・・・初対面だよね?すごいジーっと見てくるんだけど・・・なんか怖い。

 それにしても服装、灰色のジャージの上下って・・・・正直、今時の子にしては少しダサいかなぁ。こんなにいい顔しているのにもったいない。あと髪の色も灰色って、全身が灰色づくしだな。染めたにしてはいくらなんでもこの年で普通はしないよな。海国の子か?


「・・・え~と、そろそろ話しかけてもいいかな?」


 ヤバい、美少年が話しかけてきた!小さい頃から人と対面して話すのは苦手だからなぁ。年下に緊張するのはおかしいけど。噛まずにちゃんと話せれるかな・・・。


「そんな緊張しなくてもいいよ。あと、美少年っていうのも止めてもらっていいかな?少し恥ずかしいよ。まあ見た目が良いってのは否定しないけど。」


 そう言いながら美少年は腕を組みながら笑った。年相応の愉快な話し方をしてくれたが、俺の心境は全く愉快とは無縁のものになっていた。その笑みに対して純粋な驚きと、恐怖だけが心を埋め尽くす。


 えっ・・・?な、何この子!?まるで心を読んだみたいな話し方をしてきたぞ!?い、いや・・・そんなことはありえない!きっと俺が思わず声に出して・・・。


「ううん、君は何も話していないよ。僕が君の心を読んで勝手に受け答えをしただけ。君が自分の記憶が少し抜けているなぁと思ったところから、僕の格好に対してダサいって思ったところまで全部ね。・・・君って理解するまで結構ごちゃごちゃと考える人なんだね。」


 美少年に発言に対して俺の顔は驚きを隠せなかった。直感からこの美少年はヤバいと分かった。あまりの不気味な発言に、俺の恐怖がより一層増した。すぐ逃げようと思考が巡るが、現状を振り返り確実な逃亡手段がない事を思い出す。非現実的な状況が続き、頭の中は軽くパニックになる。


 んっ、非現実的・・・?少しベタな考えだけど、これは・・・夢か?なら試しに・・・。


 これは一種の悪夢だと仮説を立てた俺は、ありきたりではあるが試しに自分の頬を力強くつまむ。


「痛ッ!?」


「ベタだねぇ~!しかも遠慮なく力一杯にするのがまた面白い!」


 こんな行動人生で1回もしたことがない。だからさじ加減が分からず、つい自分の頬を痛めつけてしまう。いや、これで現実と向き合うことが出来たから正解だったかもしれない。

 結果として、これは夢なんかではない。この空間も、先の発言も、目の前にいる嘲笑している美少年も、現実であった。

 力強くつまんだ右頬を両手で覆いながら、今この状況を脳内で懸命理解しようする。


 痛みはあるって事は・・・これは現実!?ヤバい、全く理解できない!?じゃあ、この場所は、この子は一体ッ・・・!?


「あはは、一生懸命考えているなか悪いんだけど、あまり時間を使いたくないから勝手に自己紹介をさせてもらうね。初めまして、僕の名前は転生の神!文字通り君たちの世界で言う神様だよ!・・・って、聞いている?」


 ・・・ん?えっ、今、何て?神様って言った?


「おっ、聞いてた!」


 頭の中で懸命に考えていたせいか、先まで抱いていた恐怖はいつの間にか無くなっていた。その代わり先の美少年の発言で脳内は更にパニックになる。口を半開きのまま美少年の姿をまじまじと見始める。


「あぁ~ごめん。いきなりこんなこと言われて信じられないよね~?でもちゃんと分かるように説明するから落ち着いてくれる。・・・ってまた考え始めている。落ち着きがない人だなぁ。」


 美少年は少し困った顔をして話す中、俺は脳内で少しづつ整理を始める。

 今まで体感したことがない記憶のあやふや、辺り一面が白一色の世界、そして心が読める自称神様との対面。更にここから、利き手の拳を強く握り身体の感覚を再確認する。感覚はある、非科学的だけど今のこの状況は俺の夢でもない。大パニックになっている脳内にある1つの仮説が生まれた。


 ・・・まさか・・・。


「・・・へぇー、自力で辿り着いた・・・いや、理解できちゃったんだ。今時の人はすごいな。お察しの通りだよ。神であるこの僕が、こうして君と対面が出来ているということは・・・。」


 組んでいた腕を解いてその手を腰に置き、少し悲しげな表情で真剣に話を続ける美少年。その言葉が言い終わるまで、俺は息を止めて美少年の目だけを見つめる。


「有野桂一くん、君は今日・・・死んだんだよ。」


 美少年、いや神様のその言葉を聞いて大パニックになっていた脳内は徐々に落ち着き始める。そう、俺が考えた仮説とは、自分はもう死んでいたということ。実にふざけている話だが、何故か神様の言葉を信用できた。


 ・・・そうか、死んだのか。あまり実感はない、そういうものなのか。でもなぜか納得できる。いや、諦め始めているに近いな・・・。

 死んだって自覚し始めているせいか、色々と未練とかが思い浮かんでしまうなぁ。やっぱり一番は、両親にろくな親孝行してあげれなかった事かな。せめて1回ぐらいは花とかあげればよかったかも・・・。それ以外は・・・別にいいか。


「随分すんなりと受け入れられるんだね。もっと疑ってくるのかと思ったよ。まあ僕からしたら納得そうしてくれた方が助かるけど!」


「変な嘘より、よっぽど信憑性がありますから。」


「・・・やっとその口で話してくれた。」


 神様は小さく笑った。今になってようやく口での会話が始まったから。相手が神様だからか、それとも自分が死んだという現実に直面しているせいか、俺はいつもより冷静に緊張もなく会話を始められた。こうして家族以外で明るい会話をするのは何時振りだろうか。


「えっと、初めまして神様。俺の名前・・・は知っていますか。・・・死後の世界って本当に存在していたのですね。」


「そうだよ。ここは君たちが言う天国!・・・まあとは言っても、今僕たちがいるここは本来死んだ魂が来るような場所ではないけどね。神達の間で言う休憩所みたいな?落ち着いていて良い所でしょ?」


 神様の発言に対してまたいくつか疑問を抱いた。先の様にまた思案を巡らそうとするが、心を読む能力を持っているのだからちゃんと口で聞いてみよう。


「本来死んだ魂はどこへ行くのですか?」


「先に死んだ順番に審判の神たちの所へ行って並んで、天国行きか地獄行きか決めてもらう。もし今から向かったら・・・君の番はだいぶ後になるけどね。」


 やっぱり天国もあれば地獄もあるのか。うぅ、ヤバい・・・絶対に天国に行ける自信がない。親孝行とかボランティア活動とかの善良な事をしておけばよかった・・・。


「じゃあ俺は今からその審判の神様の所に行くのですか?」


「いいや。君は審判の神たちの所に行く必要はないよ。」


 “行く必要はない”・・・何で?俺、死んだんだよな?ヤバい、本当に理解できない・・・。


「まあ、そう不安にならなくていいよ。実はとある神に頼まれてね、君の魂の担当を審判の神たちからこの僕に受け持つことになったんだ。だから君をこの隔離された空間に呼んだってわけ。ほら、さっき僕が転生の神って自己紹介したでしょ?・・・覚えている?」


 確かに転生の神だと言うっていたな・・・ん?転生の神様・・・転生って“生き返る”とか“生まれ変わる”とかの意味だったっけ?・・・えっ、まさかッ!?


「察しがよくてほんと助かるよ!そう、君は僕の力で君は第2の人生を明るく楽しく過ごしてもらいます!しかも特別に前世の記憶を残したままでね!」


「えっ・・・!?」


「ちなみに生まれ変わる世界は残念ながら地球じゃない。少し残念だと思うけど、ごめんね。そういう決まりだから。でも大丈夫!第2の人生ではそう思わないようなファンタスティックな世界に転生してあげる!」


 はっ、えっ、第2の人生?!ファンタスティックな世界へ転生?!しかも記憶を残したまま?!なんで神様がわざわざ俺なんかのためにそんなことを!?


 神様は笑顔で俺が思っていたことを口にした途端、両手で頭を抱えてどの質問を順番に聞けばいいか考え始める。神様はまだ話続けているが、全く聞かなかった。いや、また脳がパニックになり聞えなかった。


「ちょっとしたプレゼントだよぉ・・・って、お~い、もしも~し。・・・1回考え込むと周りが聞こえないタイプの人だな。う~ん、これ以上もう時間もないし・・・しょうがない。」


パチンッ


 神様は唐突に指を鳴らした。それが耳に入って両手を頭から離して神様の方を向く。俺と神様は目が合うと、神様は指で下を指し目線を誘導した。神様の足元は特に変化はない、さらに目線を下げながら顎を引いた。目線が俺の足元まで来るとようやく神様の意図に気付く。


 ・・・えっ!?ええええぇぇぇぇ!!


 目線を足元まで下げると俺の体は消え続けていた。消えるというより小さな光の粒になって散っていると言った方が正しい。しかもかなり速い速度で。さっきまで五体満足にあった身体がもう膝まで無くなっている。


「焦らすようなことをして本当にごめんね!実は前世の記憶を持ったまま魂を転生させたことが他の神たちのバレると後々めんどくさいんだ。それに君以外にも転生する予定の人が後にいるから。これ以上君に時間をかけるとその人の転生に間に合わなくなるんだ。本当に・・・ごめん!」


 神様は申し訳なさそうな表情をして両手を合わせた。そんな神様を見て、俺は少し冷静さを取り戻せた。


「・・・そんなことありません。俺なんかのためにわざわざ時間を設けていただいたこと自体、俺は嬉しかったです。それに神様は何も悪くありませんよ?むしろ時間を無駄に使った俺の方が悪いんですから。」


 俺は深く頭を下げた。ゆっくりと頭を上げると、神様はほっとした表情で微笑んでいた。有野桂一として、最後に会話した人がこの人で良かったと心底思う。あ、人じゃなくて神様か。正直、異世界や転生等色々と質問したかったが、これ以上俺なんかに迷惑をかけるわけにもいかないしな。


「そりゃ~いろいろと疑問はあるよね。でも大丈夫!なんで君が異世界に行く理由とかは転生後に君の頭の中にちゃんと理解できるように記録させておくから!」


 ・・・そういえばずっと心の声聞かれているんだったな。さっきのも聞かれたのか?ヤバい、すごく恥ずかしくなってきた・・・!


 赤くなった自分の顔を隠そうと左手を近づけたが、その時に俺は初めて自分の両手も消え始めていることに気付いた。どうやら足から体に沿って消えていくのではなく、下から順に消えていくようだ。だから下におろしていた手も指先から消え始めていたんだ。


「・・・あっ、そうだ!異世界や転生以外で質問があったら今のうちに聞いてね!生きている人と僕たち神が接触するのは天国では禁止事項だから、君とはもう会うことも話すこともできないよ!」


 てことは転生の神様とはこれで最後かもしれないというわけか。こんなにいい人、じゃなくて神様に会えたのになんだか悲しいな・・・。まあそれが神様のルールなら仕方ないな。むしろ神様と話せたという体験ができただけでもありがたいって思わないとな。異世界以外での質問か、特には・・・。


「あっ。」


「おっ、何だい?」


「そういえば、俺の死因ってなんですか?記憶が曖昧で覚えていないのですが・・・。」


 神様や異世界で頭がパニックになっていたからすっかり忘れていた。記憶を持って生まれ変われるんだから参考として聞いておこう。


「・・・えーと、言ってもいいけど・・・知りたい?」


 神様の表情と顔色があからさまに変わって目線をそらした。その顔を見た俺は何となくだが察した。死んだ、ということは自分の身に何かが起こったということだと。そしてあの顔色の変わりようから、たぶん俺の身体に何かしらグロイことが起こったのだろう。自分の身にそんなことが起こったのかと想像すると、少し気分が悪くなった。聞いて後悔したくない、この質問はなかったことにしてもらおう。


「あの・・・やっぱりいいです。」


「そう?まあ、その方がいいかもね。じゃあ他には?」


他には・・・俺の親はどうしているのか。こんな俺に親しくしてくれた数少ない友人は俺の死にどう思っているのか。そして、俺の初恋のあの女性ひとは今、どうしているのか。・・・いいや、どの質問もやめておこう。きっと転生した後、何となく後悔しそう。


「・・・色々と考えている中ごめんね。そろそろお別れだよ。」


 神様のその言葉を聞いた俺は自分の体を見ようと顔を下に傾けると、そこにはもう俺の体はなかった。恐らく今の俺は宙に浮く生首状態になっているだろう、想像するとかなり気持ち悪い。そう思っている間に神様との別れの時間が迫っていることに気づき、顔を上げてある一言を言おうとした。


「あの・・・神様・・・。」


 別れる前に神様にもう一度言いたい言葉があった。しかしこうして面と向かって話すことに急に恥ずかしく感じて、顔をまた下げ、口を閉じようとした。


 言わなきゃ・・・これだけは絶対に言わなきゃ!今言わなかったらそれこそ異世界での人生で一生後悔する!・・・いつもこうだ。誰かにバカにされるのが嫌で、恥ずかしくて、ちゃんと思いが言えない。

それで俺の人生は後悔だらけだった。


「・・・なに?」


俺は勇気を振り絞りゆっくりと顔を上げると、神様は笑顔で待っていてくれた。心を読む力で俺の言いたい意思を知っているだろう。だけど神様はあえて待ってくれていた。自分の口で言いたいという俺の意地を尊重してくれえた。その温かい笑顔に、その優しい心遣いに、俺の口を開かせてくれた。


 時間はない、だけど落ち着いて・・・。


「・・・ありがとう・・・ございました・・・。」


 ちゃんと、噛まずに言えた。自分にもう一度生きる機会をくれた神様に、この一言が言いたかった。その言葉を聞いてくれた神様は消えていく俺に手を振ってくれた。神様のその姿を最後に視界は白くなり、少しずつ意識が薄れ始めた。そして眠りにつくよう意識が無くなる。


 なんだろう、この感じ・・・。今までの眠りにつくのと少し違う。ヤバい・・・胸がスーっと・・・。


 こうして1人の青年の魂は、異世界へ旅立った。それが彼にとって幸福なのか、それても不幸なのか、まだ誰にも知る由もない。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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