第九十三話 キャッホーな奴らと残念なサプライズ
キキィ……と、やや耳に痛い音を立てて、スミレの部屋の扉が開かれた。彼女の部屋の扉の蝶番はちょっとサビでいるようなので、潤滑スプレーを塗るのをおすすめしたいところである。
「スミレちゃん16歳のお誕生日おめでとう!」丑光のその言葉を合図に、ミニスカ侍全員は手にしたクラッカーをパンパンと鳴らし始めた。
「いえぃ~い!1・2・3はスミレの日~」とこしのりが言った。
「おめでとさん、姉ちゃん、今日から結婚も出来る大人やで~」そういいながら室はタンバリンを鳴らした。
スミレはつっ立ったままであった。喜びと驚きのために感激して固まっているのかと想ったのだが、それとは様子が違う、と一番に気づいたのは根岸であった。根岸は、喧しく騒ぐ連中に「ちょっと待て!」と言って黙らせた。
「……お前ら、やっちまったな。よく見てみろ。ここにいるのは今日の主役か?」
「はぁ、何を言ってるんだ君は」そう言いながら丑光は扉のところに立っている人物を再度見てみた。「あぁ!君は……」丑光は口を開けたまま固まってしまった。
「ねぇ、こしのり。スミレちゃんってのは、その……もっとこう……胸部がふくよかな子じゃなかったかな。なんだか違って見えるんだけど……」こしのりにだけ聞こえるように田代が尋ねた。
「あぁ、そうだな田代さん。だってあそこにいるのは、スミレのソフト部の仲間で、俺達の隣のクラスにいる水野だもん。スミレじゃない」とこしのりは答えた。
「あれ……何、これ?びっくりしたぁ……」水野はびっくりしていた。まぁ当たり前だろう。
「水野さんじゃないか。それじゃあスミレちゃんは?」
「スミレは下で着替えるから先に二階に上がっといてって……私は遊びに来たんだけど」
「ちょっと何、何の音?どうしたのみずのん?」騒ぎを聞きつけたスミレは、急いで二階の自室に上がってきた。
「あっ」ミニスカ侍一同が言った。
「あっ」スミレもそう言った。「あんたら……ここで何してんだ!」
サプライズは、ターゲットにしていたスミレではなく、水野に仕掛けた結果となり、おまけに勝手に部屋に上がりこんだことついてはスミレからものすごく怒られた。ミニスカ侍達のサプライズパーティーの滑り出しは最悪であった。
「まったく、あんたらは……それにしても、女子の部屋にミニスカ男共が上がりこむのにOKを出した家の親もどうかしているわ」スミレのこの意見には私も賛成である。
「いや~スミレちゃんの部屋に上がるのなんて久しぶりだよね」丑光は和んでいた。
「そういやそうだな~」とこしのりが言った。
「僕らが小さい頃はね、スミレちゃんの部屋で『エキサイトセパタクロー』ていうTVゲームで朝から晩まで遊んだものさ。でもそれって体感ゲームでね、僕らは早めに疲れちゃうんだけど、この体力オバケのスミレちゃんはスパルタでさ~。それに付き合うのも大変だったよね」
「だな~、アレまだ持ってるの?」とこしのりが問う。
「ふふっ、やっぱり三人は昔から仲良しだったんだね」流れでパーティに参加した水野がそう言った。
「普通に和んでんじゃないわよ」とスミレは言った。
「そう言えは、留美たん以外の女子の部屋なんて始めて入ったなぁ~」とシスコン堂島が言った。
「私なんか、ダンボールで出来た家以外に入るのが久しぶりだよ」と田代が言った。
「わいもや、よその女の家にあがるなんて、嫁の所に通ってた時以来やで。お~女の匂いがしとるわな」そう言った室の発言は決してセクハラではない。彼は嗅覚がすごいからそう言ってるだけである。
「堂島と田代さんにもちょっとツッコミたいところだが、それより室は既婚者だったのか!」と根岸が言った。
「あたりまえやがな。嫁も子供もおるで」
室の口から新事実が飛び出した。彼は妻子持ちであった。
「あっ、それから姉ちゃん、コレ、プレゼントな。家の嫁からもよろしく言っといてってさ」そう言って室が出したのは大きな鮭だった。
「すご~い」水野が驚いた。
「へへっ、わいも仮にも熊やからな。鮭を取るのは特技を越えた、もはや本能やで、しっかり食って大きくなりぃな」
「わぁ……ありがとうね室。てか、ちょっと動いてないコレ……」普通に生の状態で机に置かれて、スミレはちょっと引いていた。そして鮭はすごく新鮮だった。
「は~い、それからコレが~俺のケーキだ!」堂島が自作のケーキを机に置いた。
「わぁ!鮭と並べるな!」スミレはそう言うと、とりあえず鮭を台所へ持って下りてまた戻ってきた。
「で、それ、まさかあんたの砂糖で作ったんじゃないでしょうね」やはりスミレもそこを疑う。
「あんたの砂糖って?堂島君の家って自家製砂糖を使っているの?」と事情を知らない水野が言った。
「いやいや違うのよみずのん、家も何もなしに、こいつ自身から砂糖が出るのよ」
「え?何それ?」
「おいおい、スイーツ大好き堂島さんをこいつ呼ばわりするんじゃない。砂糖はオヤジが選んだメーカーのを使っているから安心しろ。ん、てかそれだったら俺の砂糖が汚いみたいじゃないか」
「汚いとは言わないが、人の手から出る砂糖を食うのってちょっと抵抗あるだろ」と根岸が言った。
「わいは平気やで、お前の砂糖うまかったで」と何でも食う室が言う。
「ほほう砂糖を出せるのかい。それはお土産に頂きたいものだね」と食い物なら何でも欲しい田代が答えた。
「さぁさぁ、蝋燭を刺してっと……早くこの堂島ケーキを食べようじゃないか。包丁はどこだい?無ければこの格闘戦士丑光の手刀をお披露目してもいいよ」
「あんたそんなもんをケーキにぶち込んだら、ここから追い出すからね」
「冗談だよ~スミレちゃん」
堂島の作った素晴らしいケーキに16本の蝋燭が刺され、その先に火が灯された。
「よ~し、スミレちゃん、一息にふぅ~と行っちゃってよ」
スミレは豊富な肺活量を余すことなく発揮し、ふぅ~と一息に蝋燭16本の火を消してしまった。
「じゃあ改めてスミレちゃん16歳のお誕生日~」そこまで丑光が言うと、全員が「おめでとう~!」と声を合わせて言った。
「うん、皆ありがとう……」スミレは照れていた。そして嬉しそうであった。その様にキュンと来たのは水野で「スミレ可愛い!」と言って抱きついていた。
「うんうん、百合萌えだね」腕組をして頷きながら丑光はそう言った。
皆がスミレの16回目の誕生日を祝う言葉を送ったその時のことである。なんと、ミニスカ侍六人の穿く六枚のスカートが急に光り輝いたのだ。