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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第九十一話 ハートフルホームレスストーリー ~やさしい掟~

 ミニスカ侍達と小神兵こしんへいが戦った次の日、こしのりは六人目の仲間である田代の下に来ていた。ダンボールで出来た彼のマイハウスは、毒蝮公園を抜けたところにある林の中を少し進んだ所にあった。

「おっす田代さん。あれからどんなだい?」

「おや、こしのりかい。このミニスカを穿いてからというもの、体の調子もよければ仕事の出来も上々だよ」

「へぇそれは良かったよ。田代さん、今日はそのミニスカについて、色々と話すことがあって来たんだ。ちょっと長くなるんだけど、時間はいいかな?」

「他でもないこしのりが客として来てくれたんだ。聞こうじゃないか」

「そいつはよかった。コレ、羊羹ね。家のばあちゃんから」

「おお!これはこれはありがたいね。せっかくこんなに上等なお菓子があって茶が出せないのが申し訳ない」

「だと思ったよ。ほら、この水筒に熱い茶が入ってるからさ、羊羹と一緒にぐびっと行こうぜ」

「こしのりは、というかお婆さんはすごく準備がいいね。コレは礼を言わない訳にはいかないね。深く感謝していると伝えてくれよ」

「いいってことよ」

 二人は狭苦しいダンボールの家で羊羹をつつきながら話をした。こしのりは祖父が残した謎のミニスカのこと、そしてあの巨神兵と戦わなければならない運命が待っていることを新顔ミニスカ侍の田代に話した。

「これはこれは、2000年問題なんかで取り乱していたのがバカだと思えるくらいに大きな問題じゃないか」

「え、なんだって?2000年?」若いこしのりは2000年問題を知らない。

「う~ん、信じられない話だ……しかしね、こしのり、とりあえず今君の言ったミニスカの謎なら、確かに謎だって確信できる情報を掴んでいるんだ」

「何だって?」

「うん、実は私にもね、ミニスカの特殊能力が既に目覚めてしまっているんだよ」

「何だって!コレは早いぞ!田代さんが能力覚醒までの期間が一番早いぞ」

「まぁもう十二月が来るしね、最後に合流したメンバーとしては時間を待たずにさっさと能力が明かにならないと、次の展開に支障がでるもんね」

「え、何だって?何の話だい」

 田代はメンバーの中で一番大人なのである。

「まぁ、そいつを見せようじゃないか。こしのり、ちょっと外に出たまえよ」

 そして二人は天井の低いダンボールの家を壊さないように、四つんばいでゆっくりと外に出た。


「よ~し、では見ておきたまえ」そう言って田代は、手のてらを開いて空に向けて両腕を伸ばした。

 これを見たこしのりは「まさか、また砂糖が出るんじゃないだろうな」と言った。田代は「違うよ。まぁ待っててよ」と返した。

 田代が腕を伸ばして10秒程立つと、空に浮いた空き缶がこちらに向かって来るのが見えた。その空き缶は、田代の手のひらにピタッっとくっ付いた。

「おお!これは、磁石の力か!」

「そうみたいだよ。でも今の所は空き缶だけしか引き寄せることはできないんだ。ほら、また来たよ」

 次々と空き缶は田代に吸い寄せられて来て、気づけば十個程溜まった。

「この力のおかげで空き缶集めが楽でね、というか立ってればいいだけで、何も疲れない。で、これを集めて金に換えているのさ。まさに不労所得ってやつだね」

「成る程、仕事の方は上々な出来というのには、このカラクリがあったわけだ」


 その時、空き缶を追っ二人の男が田代の下に走ってくるのが確認できた。

「お~い田代さ~ん」男達は手を振り田代を呼ぶ。

「誰だあのおっさんは?」

「ああ、こしのりは知らなかったね。手前のニット帽のヒゲ男は吉田さん。後ろのチョッキを着た彫りの深い顔をしている男は安西さんだよ。彼らもまたこの街に住みながらも、家を持たない者達さ」

「へぇ、他にもホームレスの人がいたんだな」 

「いいかいこしのり、我々ホームレスの間ではね、この空き缶拾いにしっかりしたルールがあるんだ。まぁこんなのは見る人によってはただのゴミだ。でもね、我々にとっては金になる獲物なんだよ。街にはホームレスの縄張りがある。私たち三人はそれぞれ違う縄張りで暮らす人間だ。自分の縄張りの外にある空き缶を拾って金にするのは、我々の世界ではタブーなんだよ。人が所有しているマツタケが生える山に、余所者が勝手に入ってマツタケを取って帰ると罪になるアレと同じことなんだ」

「へぇそうなんだ。空き缶でも勝手にとっていったらダメなんだな」

「この空き缶は、我々三人のどの縄張りから飛んで来たのかわかないだろう。私はこの能力を発見した時に、あの吉田さんと安西さんに意見を伺ってね。この能力を使う時は二人の前で、そして集めた缶の売り上げは三人で三等分にすると決まったんだよ。皆で平和に暮らすにはルールを守らないといけないんだな」

「あれ?でも二人の目のない所で能力を使ったじゃないか」

「今回はこしのりに能力を見せるために特別にやったのさ、丁度空飛ぶ空き缶を見つけて二人がやって来たから君を紹介して、このことを謝らないとね」

 田代がホームレスの世界の掟をこしのりに教え終わった頃に、吉田と安西は田代の下に到着した。

「田代さん、約束したじゃないか、困るよ」吉田が言う。

「なんだいその子は新入りかい?」安西はこともあろうにこしのりを新顔のホームレスだと思った。

「すまないねぇ。こんな勝手をするのは今回だけだよ。こんなことをした理由を説明させてくれよ」そう言って田代は先程こしのりから聞いたミニスカ侍の話を吉田と安西に言って聞かせた。


「……なるほど、B級クソ映画みたいな話だが、あんたが言うことだ。あんたが正気な状態で言ってることなら俺は信じるね」まだ家とテレビとビデオデッキを持っていた時分に映画好きで通っていた吉田が答えた。

「ふむふむ、あんたがそのミニスカしか穿けない体質になった時に、これはおかしいと思ったが、もっとおかしな話が聞けたね。どうやら本当のようだね」安西も信じてくれた。

「まぁそういうことなんだ。世界がどうなるかっていう話なんだよ。あのノストラダムスの予言の危機から脱した時には、助かったって心から思ったのが懐かしいね。あの巨人の像があの恐怖の二度目を運んで来るのさ。こしのりの話を聞くと、今回のはあやふや予言ではなく、もう確約されたことだって話さ」声の調子を落として田代はそう言った。

「それより今日の収穫分だよ。これはルールを破ったお詫びに二人で分けてくれよ」次は明るい調子で田代はそう言った。

「ええ!いいのかい。ルールのことを言ってもね、集めたのはあんたの手柄じゃないか」吉田は遠慮気味に言う。彼は律儀で男らしい一面を持つ。

「田代さんや、あんたはもっとわがまま勝手にしてもいいくらいだと思うがね。でも……ありがとよぉ、その申し出を断る理由も余裕もないよぉ」ちょっと泣きそうになりながら安西が言った。

「あんたは夜中に勝手に缶を集めることだって出来たものを、俺達に前もって磁石の力のこと打ち明けてくれた。そして俺達にも分け前をくれると言う。ルールがあっても、そんな便利な力を手にしたなら、あんたみたいに律儀でいられないよ。あんたのそういう誠実な所を俺は尊敬するぜ」吉田はそう言うとニット帽を脱いではげ頭を下げた。吉田も安西も田代の人柄の良さに感動して目に涙を浮かべていた。

「おいおい、二人とも泣くんじゃないよ。貴重な水分が地面に吸い取られて勿体ないじゃないか。そいつは体内に残しておきなよ。それに、礼なら2018年を迎えた時にしてくれよ」田代は二人の肩に手を置いてそう言った。

 それをわきで見ていたこしのりは「へへっ、泣かせやがって。水分を無駄にさすんじゃねえよまったく」と言って両手で目を擦擦こすっていた。文句を言いながらも、彼は目の前の光景に満足していた。

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