第八十八話 ハイパーバトルは突然に……
室をふっ飛ばした小神兵が、こちらへの敵意を明らかにしたのを我先に感じたのは、元不良の経験を持つことから荒事にはいくらか慣れていた堂島であった。やらなければやられる。堂島は、自らが持つバトルセンスでそう察知した。それからの彼の行動は速い。堂島はジャンプし、小神兵の頭上に舞った。そこから彼の必殺の蹴りが放たれる。
「くらえ、このチビが!」
小神兵は破壊力抜群の堂島の蹴りを両手で受け止めた。微塵も応えていないように思われる。
「何!」と驚く堂島の顔をにやりと笑いながら見た小神兵は、軽々と彼の足を払いのけた。
蹴りを放った後は重力にまかせて地面に向かって落ちてくる堂島に向かって小神兵はパンチを放った。堂島は地面に足が就く寸前に腹に一撃もらって、再び宙を高く舞うことになった。
「ぐぼぃおぃえ!」一発くらった時、反射的に堂島の口から漏れた言葉はこんな感じに聞こえた。
堂島もまた室と同じく宙を舞い、背中から林の中へと突っ込んで姿が見えなくなった。
「堂島ぁあ!」こしのりが叫びを上げた。次の瞬間、小神兵はもうこしのりの目の前に移動していた。怪物小神兵は0.5秒とかからずに7、8メートルの距離を移動して来た。こしのりは目の前に迫った悪魔の微笑を視界に入れた瞬間、大きく目を見開き、金縛りにかかったように動けなくなった。やられると思った。
「こしのり!危ない!」こしのりの危機を察知した丑光は、自分でも意識せぬ内に友を守ろうと思い、こしのりを突き飛ばした。それと同時に小神兵の拳はこしのりへ向けて放たれていた。こしのりを突き飛ばしたことで、代わりに丑光が小神兵の拳が向かうコースに入ってしまった。
「丑光!」この時こしのりは、自分をかばって丑光が殺されてしまうのかと思った。
丑光の頬に小神兵の拳が決まる。と思った瞬間、拳は丑光の頬をスルリとすり抜けた。
「えっ!」こしのりが言った。丑光をすり抜けた拳は元通りこしのりを捕らえた。距離をとったために威力が少し弱ってはいるものの、こしのりの頬に一発が決まってしまった。
「ぐぼおぇ」の声と共にこしのりは、地面にワンバウンド、ツーバンドして転がっていった。丑光は壁抜け能力を発動したのだ。土の塊の小神兵も壁同様に能力の対象となった。
「あっ、こしのり、ごめん」丑光はとりあえず謝った。
「ミニスカの能力だな。そうだ。能力を使わずして我には絶対に勝てん」と小神兵は言った。
「そうか!能力か!」そう言って根岸は、とりあえず自分の能力である紙飛行機を出した。そして小神兵にぶつけてみた。紙飛行機はくしゃっとなって地面に落ちた。
「まぁ意味があるわけないよな」と根岸は思った。
「ふん、この程度か!」小神兵はそう言うと片足を大きく上げ、勢いよく地面に下ろした。ドンッと音がして、地面から大小交えた石が一気に噴出した。宙高く舞ったそれらは、根岸向けて降って行った。
「根岸君危ない!」丑光の叫びも空しく、根岸はそれに気づいても運動能力的に回避行動が間に合わない。
ドドドッっと大きな音を立てて石は地面に降り注いだ。
「ああ……根岸君……」丑光は根岸が死んだと思った。
しかし、大丈夫。降り注いだ石が起こした砂埃の中に立っていた人物は、なんと根岸家のメイドの土上であった。彼女は丈夫な傘を開き、主を攻撃から守っていた。
「ご無事ですか坊ちゃん」
「土上、お前か……」傘に守られた根岸が驚いて答えた。
「ミニスカを穿かぬ者の中で一番の強者のバトルメイドか、知っているぞ」小神兵は全てを知っていた。
「家の坊ちゃんを傷つける者は、誰であろうが許しません」閉じられた傘からは、美しくも気高き戦士の目が覗いていた。
主のピンチに駆けつけ、怪物を目の前にしても全く臆すことのない土上の勇姿に丑光は「かっこいい……」の一声を漏らした。