第八十三話 十人十色に対応できる順応性を求められるのがあなたのお仕事
「賞状?いらないよそんなもの。それを作る金があるんなら、俺に直にくれよ。一つ過程を飛ばして仕事が楽になるだろう」こしのりが言った。
「バカ言ってんじゃないよこしのり!」そう言って彼の母は息子の頭を叩いた。
「痛いなぁ母ちゃん」
「あの……お母さん、暴力はちょっと……」山岡が宥めた。
こしのりはミニスカが田代を選んだのを見届けた後に交番に来ることになった。先に交番に来たスミレが事件のことは全て喋り終えていたので、こしのりのコメントすることは上記にあるもののみであった。それにしても何と言うか、厚かましい奴である。
山岡と利根は、放火犯を逮捕したのはお手柄だと上から褒められたのだが、火事から子供を救った英雄と犯人逮捕に一役かった(らしい?)少年の警察に協力してくれた者の方は揃って取り逃がしたために少々の小言をもらっていたのだ。山岡はスミレに頼んでこしのりの家に電話をしてもらい、それによってこしのりの母が交番に来たのだ。それから少し遅れてこしのりも交番に来ることになった。
「あんたは何で逃げたのよ」母が言う。
「だってミニスカがさ」
「まぁお母さん落ち着いてくださいよ。息子さんはね、放っておけば街ごと燃やしたような凶悪な放火犯を前にして勇敢に立ち向かったんですよ。誇らしいことで叱られることなんて一つもないじゃないですか」さすがベテランの利根は、この手の揉め事くらいはすぐに静めてしまう。
「そうですか、家のこしのりが?」
「そうだよ、お巡りさんの言う通りだよ、なぁスミレ」
「勇敢?まぁそういうことでいいんじゃないの」
「なんだお前は、俺の行いに疑いを持つような態度じゃないか」
「それで、こちらの方は?」こしのりの母が、先程からこの場にいる謎の人物について問う。
「紹介が遅れました奥さん、私は谷口といいます。しがない漫画家をやっている者ですが、お宅のお子さんに仕事場の窓ガラスを割られましてね、これについては早急に修理に取り掛かって代金を弁償してもらいたいのですよ。何たって夜は冷える季節になりましたし、それにあんな穴が開いていると家に風が入るので、紙を扱う私の仕事には支障がでまくって困るのですよ」谷口さんは交番までついて来ていた。
「まだいたのかよこのおじさんは」
「まぁ家のこしのりが、人様の家の窓ガラスを!これは申し訳ないことをいたしました」
「いえ、私は窓さえ元通りになればあとはいいんですよ。弁償金を半額にしたいならそちらのお嬢さんとデートか……それか奥さん、あなたでも問題ありませんね」こしのりの母は谷口の御眼鏡にかなう女性であった。
「このおっさんめ、人の家の母ちゃんまで手にかける気か!」
「こしのり!何て態度だい、お前が悪いんだから謝りなさい」
「ごめんなさい」
「この度は警察の方々に谷口さんにまで家の子がご迷惑をおかけしました」
「おい、俺は今日手柄をあげたんだからな。何で謝るのさ」
交番はとても騒がしい。山岡と利根の仕事はスムーズには進まなかった。
「はぁ……こいつは困ったな」山岡が言った。山岡の肩にポンと手を置いて利根が言う「覚えておけよ、この街で働くってことは本当に色んな人を相手にするってことなんだ。今日会った人以外にも、この街にはまだまだ変な人がたくさんいるからな」
そう、ここポイズンマムシシティにはたくさんの変人が暮らしているのだ。