第八十一話 夜空に見えるは第六の流れ
民家を襲った火は消え、火を着けた犯人はお縄にかかり、我らがこしのりが犯人を捕まえるために茂み投げこんだ(捕まえるのに全く意味をなさなかったが)玉葱も無事に見つかった。事件が終わってこの話はこれで終わりと思いきや、この話にはもう少し続きがあった。この後にどんな重要なことが起こるのか、それは間もなく分かることである。
こしのりと丑光の二人はやっと茂みから出ることが出来た。「あ~あ、服汚れちゃった」とこしのりが言った。
「こっちは服が燃えてるんだからね、それくらい大したことないでしょ」
「う~ん、そう言えばスミレちゃんの服には虫食いにしては大きすぎる穴が開いているね。こうやって……角度を変えてみれば、ブラ紐くらいなら……あっ、見えたね」丑光は相変わらず暢気でナチュラルにセクハラめいた冗談を言ってのける。
「おい、見るな」スミレは玉葱を掴んで振りかぶる。
「わっ、冗談だよ。見えないってば~ごめんねスミレちゃん」
「君ねぇ、親しい間柄でももう大きいんだから、女の子相手にそれはセクハラだよ」山岡が注意する。
「はい、ごめんなさい」
続けて山岡が言う。「それじゃ君達二人には話を聞きたいから一緒にきてくれるかい?」
「え~腹減ったよ。それに見たいテレビがあるからさぁ」こしのりが文句をたれる。
「あんたねぇ、ことの重大さが分かってないの?」スミレは肘でこしのりに脇を小突きながら言った。
「じゃあそっちにあるDVDにこっちが指定した番組を録画してくれないか。それとカツ丼も頼んでよ。聞けば犯人に話をさせるために食わせるんだろ。だったら捕まえた方にも話をさせるために食わせてくれてもいいだろう。経費で何とかなるんだろ」
「署にDVDはない」利根が答えた。
確かにお手柄高校生だと思うが、ずけずけとこうも注文をつけるとは何て奴なんだ。それにちょっと話を聞いただけでは、こっちの女の子だけしか活躍していないみたいだし……と山岡は思った。
利根も山岡も職務経験上で犯人にカツ丼を食わせたことなんてない。もちろん犯人を捕まえた方にも食わせたことはなかった。
「あ、僕も一緒にいいですか。なんだかおもしろ……良い社会経験が出来そうなので」
「いや、君は帰りなさい」出会ったばかりだが、こいつを連れて行くと面倒臭いことになりそうだという勘が働いた利根は丑光の申し入れを拒否した。
「お巡りさん、忘れてないよね。窓ガラスのことがあるんだからその子を逃がしちゃだめだよ。それに弁償半額コースで話を進めるならそっちの女の子も逃がしちゃだめだよ」窓ガラスを割られた谷口さんが口を挟んだ。
「窓ガラス一枚で、放っておけば家一軒に留まらず地区ごと燃やしたような危ない奴をお縄にかけれたんなら安い物じゃないか。俺達が逃がしたらチャッカマン向は谷口さんの家だってきっと全焼させてたぜ」とこしのりが言った。
「それはそうかもしれない。しかしそれはそれ、これはこれだ。弁償してもらうよ」
「は~あ、スミレ、次の日曜日空けときな。デート、行くぞ」
「行かないから!」
警察の用も谷口の用もなかなか終わらない。放火犯逮捕に感謝すべき相手であるこしのりが、大人にとってはちょっと面倒臭い。
山岡も利根も谷口もスミレもこしのりもため息をついた時、蚊帳の外の丑光はいつの間にか星が見えるようになった空を見上げていた。そして夜空に浮かぶに相応しくないある物を見つけた。
「こしのり!アレをごらんよ」丑光は夜空に輝く、絶対に星ではないそれを指差した。
「え、あれはまさか!」驚きの声を上げたこしのりがその目に捕らえたものは、光り輝くミニスカートであった。ミニスカが根岸、堂島の下へ飛んで行った時は、彼らを突き刺すつもりででもいるのかと思う程に高速で風を切って空を飛んでいた。しかし今こしのりが見ているミニスカは、穏やかな自然の風になびかれるままにゆったりと夜空を散歩しているようであった。
「間違いない!ミニスカだ!六枚目の、我が家に眠る最後の一枚だ!」こしのりはミニスカを追って駆け出した。
「ちょっと君!」山岡が声をかけた。
「スミレ、ここは一人で頼む。丑光、お前も一緒に来い!」
「待ってよ。そういうことなんで僕はコレで、皆さんご苦労様です」丑光がそう言って敬礼をした。彼は警察官と敬礼するというやり取りをどうしてもやってみたかった。
二人の少年は光り輝くミニスカを追って闇夜に消えていった。
「仕方無いなぁ。すまないけど君一人で来てくれないか」山岡はスミレに言った。
「わかりました。でも、こっちの玉葱持ってくれませんか?今荷物持ちが逃走したので」
「君も大変だね」利根は変人を友人に持つ苦労を想ってスミレにそう言った。
「いえ、もう慣れました」スミレは順応が早い。




