第八話 熱射、逃げ出した朝に
暑さも盛りの8月11日のお昼のことである。
降り注ぐ真夏の光線がちょっとばかりのモザイクの役をなしてパン一姿の丑光を世間の目から隠してくれる中、彼はこしのりの家を駆け出て自宅へ舞い戻った。
丑光はトレパン消失の件についてはこしのりの提案通り、チーマーに追いはぎに合ったと母に言い訳しておいた。ここポイズンマムシシティのまさに街のポイズン的要素が固まった治安の悪い地区では、まだまだチーマーの類の根絶を完了出来てはいなかった。丑光の報告を聞いた彼の母は「庭に蔓延るドクダミと地域に根を張るチンピラの類は土地ごと掘り返さないでもしない限りはなかなか散らすことはできないわね」とコメントしていた。
パンツ姿で往来を闊歩すれば何らかの罪で警察にしょっ引かれるのだろうが、15歳の少年ならどういう扱いになるのであろうか。丑光はそんなことを思いながら帰路についていた。幸いなことにこしのりと丑光のお家はお隣さん同士であるから、彼がパンツ姿で公道を走ったのは距離にして10メートルも無い。その間、道では誰にも会わなかった。
騒ぎがこしのりの家で起こって良かった。これがもし1キロ程先の学校とか、丑光がこしのりの家の次によく出入りする隣町の井口君の家で起こっていたと思うとゾッとする。彼は自室に帰って落ち着くとそういったことを考えていた。
彼はその日、お気に入りのアニメを見て昼を過し、晩飯を食い、風呂に入った後は漫画を読みながら彼が授乳期を終えて以来ずっと好物にしているお菓子「乳ボーロ」をボリボリと食った。そして日付変わって1時頃、彼はやっと就寝した。丑光はお休み前の歯磨きを怠っていた。夜の歯磨きはちゃんとしておこう。
8月12日、朝の10時頃に丑光は目覚めた。かなり汗を掻いている。彼は変な夢を見ていた。彼の家の居間には日めくりカレンダーがある。彼が12月31日の一枚を破ると、その下からまっ黒の紙が現れて、それはどんどん大きくなって彼自身も居間も家も全てを闇に飲み込んでしまうという内容であった。
「昨日は道端に大きくてうまそうな大福が落ちているのをラッキーと思って拾い食いしようとしたら、何と人間の赤ちゃんだったというファンタスティックな夢で目覚めたのに、今日はなんて気味の悪い夢なんだ。ああ~大福食べたいよぉ」
彼は台所へ行き、前にスーパーで買っておいた大福を頬張った。
「朝は餡子を入れるに限る」
今日の丑光の格言でした。