第七十一話 ボーンエンプローイー
それから十五分後が経った。こしのりはとんでもない奴が我が家に舞い込んだもので、それを是非皆に見せたいと想った。色んな奴に連絡しようと思ったが、朝も早いということもあるので一番ご近所さんの丑光とスミレに連絡して部屋に来てもらったのだ。
「うわ!わわ!本物だ!骨だよコレは!これが死神か……もっと見た目が恐ろしいイメージだったんだけど、しかし恐ろしいからこそ是非見てみたいと思っていたんだ。いやいや長生きはするものだね」まだ十五年しか生きていないが、人生十五年なりに死神との出会いに感動しながら丑光は言った。
「朝早くに何をはしゃいでいるのかと思ったら、あんたはまたすごいものを拾ってきたわね」骨人の生の骨の手をさすりながらスミレが言う。
「あはは。お嬢さんに興味を持って触られるとはいやはやなんと……」骨人の魂透は興味を持ってもらって満足そうである。
「おい、透。これ西瓜だ!好きだろ」こしのりは西瓜を持ってきた。
「西瓜。西瓜は知っていますが、食べるのは初めてですな」
「え!死神ってのは西瓜が大好きで、畑から盗んででも喰うって聞くぜ」
「まさか!こしのりさん、私はこれでも会社員ですよ。盗みなんてするわけないでしょう」
「この名刺、本物かい。株式会社死神カンパニーと書いてあるよ」丑光が名刺を見て言う。
「信じられないけど、嘘でもないみたい。現に目の前にいるしね。ということは、この人は誰かの魂を連れて行くためにここに来たってことじゃない?」作品の登場人物の中ではかなり理解が早いスミレが言った。
「え、おい透。まさか俺じゃないよな。それとも家のばあちゃんとか?」こしのりが不安そうに言った。
「ムシャムシャ……はぁあ~うまい!西瓜ってのはこんなに甘くて美味しいんですね~」透は初めて口にする西瓜に舌鼓を打っているようだが、彼の口の中を覗いても舌が見つからない。
「うん、ご馳走様。では、そのことについてお話しましょう。今回私がここを訪れたのは、来る魂請負業務の事前実地調査のためなんですよ。今日は別に誰かの魂を連れて行くってことはしないんですよ」
「調査って言うと?」丑光が問う。
「それがですね。私達死神というのは、人の死期を事前に知ることができるんですよ。その人が死ぬ日に合わせて現場へ行き、その人の魂を連れてあの世、つまり霊界にある本社に帰る。そうすることで私は自身に加え、嫁と娘の生活をも支えているのです」
「ヘぇ……お前、妻子持ちなんだ」
「ええ、妻はそれはもう良い骨格をしていましてね。こっちの世界で言うと映画スターのヘッポビーンみたいな良い骨格の女でして、特に頭骸骨が良い。娘の方もばっちりそれが遺伝された……おっと、話がそれましたね。続きと行きましょう」透は家庭を愛する良き夫のようである。
「ゴホン、まぁそういう訳で社の独自の技術によって我々死神は人の死期が分かるんですよ。そこでなんですけど、この死期確定システム上にちょっとおかしなデータが打ち出されたんですよ」
こしのり達三人はここで更に集中して話を聞き始めた。
「もう来年のデータが出ているんですけど……あっ、コレは一応社の機密事項なので、調査のためとはいえ、なるたけ他言無用で行く方針なんです。ここで聞いたことは他所で喋らないでくださいね」社の情報を外部に漏らさない決まりについて透は話した。しかし彼とこしのり達では済む世界が違うので、喋ったところで問題がないような気もするが、こしのり達は一応ここで聞いたことは他所には漏らさないと約束しておいた。
「それと言うのが、今年の十二月三十一日の23時45分~来年が明けるまでの十五分間の内にこの街を中心に信じられない数の魂が天に昇るということになっているのですよ」
「何だって!」こしのりがそう言って立ち上がった。
「つまりそれは、年末から年始までの間にこの街の人々が一気に死に絶えると……?」丑光が不安そうに問う。
「ええ、そう理解してもらって間違いはありません。まぁこれより詳しいことは言えませんが、とりあえずこの街は地図から消されます。そんな勢いで崩壊が進みます。これは不思議なことです。私はこの商売を始めて長いですが、これまで一日でこんなに多くの人がお亡くなりになった例はないのです。システムの故障の可能性も考えられ、私が現地調査に来たんです。しかしこの街は有毒ガスで汚染されているとか、何かの病が蔓延しているとかいった状況は見られないのです。皆さん元気ですし、二ヶ月もしない内に全員が死ぬとは思えない。不発弾でも地面から出てきてドンとなるんでしょうかね」
「……この街が消されるのは絶対で、その他にもどこまで被害が広がるかわからないってことね」スミレが言う。
「はっ、そうだ。アイツ、巨神兵と初めて話した時、アイツは十五分もあれば世界をぶっ壊せるって言ってた。おいおい、だったらそのデータ間違いでも何でもないぜ。アイツが紅白を見終わった後にお手軽に世界をぶっ壊すんだ」
「そんなことってないよ。じゃあ例のアイドル達がたくさん集まってカウントダウンするあのコンサートは途中までしか見られないじゃないか」
霊界から仕事でやって来た死神魂透はこしのり達にとんでもない未来予想図を伝えに来た。いや、未来がなくなるという予想なので、未来破壊図と言ってもいいだろう。
霊界でも察知されたこの世の終わりを回避出来るのは彼らミニスカ侍しかいないぞ。
「大変な未来がやって来ることが分かったわけですけどね、私が以前世話になった八卦見の方がこう言っていました。『私の占いは当たるが、未来は変えることが出来る』とね……」絶望を告げに来た透の口から最後にはポツリと希望の一言が漏れた。今の彼の発言には、パンドラの箱の顛末のようなものが見て取れた。
「では、これで調査も出来た訳ですので、私は帰らなくては、残業手当が出るか出ないか微妙な所なのでね。何にせよ定時を過ぎての仕事は避けるべしですね」
「そうか、それよりもお前達の仕事内容をMHKとかで取り上げて放送したら面白いかもな」とこしのりは言った。テレビマンの方には穴場な題材だと思うので死神を見かけたら要チェックやで!
三人は玄関で透を見送ることにした。
「透、元気でな。またいつか会おうぜ」
「ええ、こしのりさん。あなたの魂を持っていくのは私が予約させてくださいね。あなたのような良い魂を持って変えれば査定の時に有利になりますからね。それと一番良いのはスミレさんのですね。あなたのは最高に質が良い。その時が来たら是非、お迎えに上がらせてほしいものです」
「え?まぁ死んだ後のことは知らないから好きにすれば」
「僕のはどうなんだい透!」丑光が自分の魂について聞いた。
「ええ、それはもう……」続きを言わずに透はニッコリ微笑んでいるのだが、なんといっても骨なので表情がよく分からない。
「え、何?続きは?」
「それでは失礼します。皆様お元気で」
透は会社に帰って行った。
「さぁあんた達はこれで本当に腹を決めなきゃね。しっかり頼んだわよ」
「今更だけど、怖くなってきたね」丑光はびびっていた。
その時玄関の外から「うわ~!」と言う叫び声が聞こえた。
「あっ、透の声だ」こしのりはすぐに玄関を飛び出て外を見た。
「あっ、こしのりか。なんやこいつは妙な格好して。ハロウィンならもう終わってんで」
「わぁこしのりさん助けて、何ですかこの大きな猫は!」
丑光が連絡しておいた室が送れて到着し、骨を、いや透の腕をしゃぶっていた。
「……」こしのりはそれを無言で見ていた。そして透は熊を知らなかった。




