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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第七話 本気だから怖いのだよ

 こしのりが一大決心をしてミニスカを穿いたことで、六話分使ってやっと最初の戦士が誕生し前話は終わった。

 そして続く二人目の戦士はラッキーなことに即見つかったのである。


「丑光、ミニスカが呼んでいる。さぁ、そいつに足を通すんだ。お誂え向きにお前は今パンいちじゃないか」

「え、僕にコレを穿けと言うのか……」

 丑光はそれまで巨神兵のこと、ミニスカのこと、そして友人こしのりの闘いへの決意、これら全てを目の前にしながらも、どこか自分には他人事な気がしていた。しかし、今こうして騒ぎの発端であるこのミニスカによって騒ぎの渦中へといざなわれている現状を前にすると、もう自分はこの件に関して完全な他人ではなくなったのだと気づいた。自分が世界の命運を賭ける聖戦の当事者の一人になったと実感して初めて丑光は恐怖を感じた。蔵の中は大盛りのかき氷でも、ものの一分でぬるい水に変えてしまう程にヤバ暑い。それだけの熱気の中で汗だくになりながらも、丑光の体は真冬の吹雪の中に全裸で放り出された者のようにブルブルと震えていた。


 そして丑光は騒がしく震える唇をゆっくりと開く。

「……嫌だ」

「何と?」

「嫌だと言ったんだ。僕はそれを穿いて怪物と闘いなぞしない」

「なんだよお前怖いのかよ~」

「ああ、そうさ。怖いさ!」

 丑光の様子がいつもと違うとこしのりはすぐに気づく。


 丑光は続ける。

「怖いさ!こしのり、僕はいつも思っていることがあるんだ。それと言うのが、ある人物がある人物へ挑戦を吹っかけた時にとりあえず一度は断られるとするだろう。すると挑戦者は『負けるのが怖いのか』と煽るだろう。それを聞いて一度は勝負を断った者が負けを怖がっていることへの否定として勝負を受ける。勝負開始までのこういう流れを僕は漫画やドラマで何度となく見たことがあるんだ。君もきっとこの流れをどこかで見たことだあるだろう。僕はコレを見ては『負けるが怖いのか』というワードになぜ人はああまで強い否定反応を見せるのかと不思議に思うんだ。敗北を喫するというのは何かを失うことだ。敗北から何かを得た、学んだなんてどこかのアスリートや勝負師が言うのを聞いたこともあるような気がするが、僕には彼らの言う事の意味はわからない。負けたらそれまでだ。今までは勝者、乃至ないしは無敗のタダの人と名乗っていた者が敗者と名乗ることになるんだ。それは怖いことさ。僕は本気なんだ。お菓子を食ってバカ言っているように見えても本気で今を生きている。だから今を失うのは怖い。本気だから怖いんだよ。『負けるのが怖いのか』と聞いて怖くないって返す奴は本気じゃないんだよ。勝負を軽んじ、自分も相手をも軽んじている証拠なんだよ。いろんな作品で見られる『負けるのが怖いのか』で挑発して勝負を始めるあの流れを最初に考えた人は何を思って生きているのか僕には全く理解できないね」


 丑光が胸にこみ上げる激情を言葉に変換し、一息で喋り終えた。これにはこしみつの心にも刺さるものがあった。


「丑光……お前は時に難しいことをさらっと言って俺を驚かせることがあるな。だが、お前のそういうところ、嫌いじゃないぜ。むしろ好きだな」

「こしのり……」

 ミニスカ姿のこしのりと下はパンツのみしか身に着けていない丑光は見つめ合う。


「だがな、お前にはコレを穿いてもらわなきゃ困る。お前の言う事はわかる。でも、お前が闘わないとお前はお前の世界を失うことになるんだぞ」

 こしのりは丑光に詰め寄り、丑光の両肩を掴む。


「丑光、一緒に闘ってくれ。お前、来年を迎えられなくなってもいいのかよ。来年が、2018年が来ないとお前が楽しみにしていた焚書黙示録のアニメ3期だって見ることなく死ぬことになるんだぞ。3期は放送時期未定だが、来年中には放送スタートするって言ってたよな。お前、ファンとして3期を見ずにこの世からおさらばしていいのかよ。それで本当にあの作品のファンなのかよ!」

「よしてくれよ!」

 そう言って丑光はこしのりの両腕を振り払う。


「どうせ3期を見終わってもその次の4期5期にもつれ込んで、それでも原作はずっと続いて物語の結末はいつまでも拝めないんだ。それを他の色んな作品で繰り返していつまでも僕にとってのこの世を未練を業界ごとグルになって作り出していくんだ。そうして奴らはいつまでも本やBDを買わせて僕の懐に氷河期を運ぶのさ。だから今年で全てが終わるならそれで丁度いいのさ。君に僕の苦悩がわかるものか」

 丑光はここまで言い終えると、全速で蔵を後にした。下はパンツのみの姿で。


「丑光お前……なんて幸せな悩みを持っているんだ。今を大事にし、本気で生きているんだな……」

 走り去る友人のパンツ姿を見ながらミニスカを穿いた男こしのりはしみじみとそう思ったのだ。

 

 この光景を実は二階の窓から見ていたこしのりの祖母は「青春じゃ……あやつら青春しとる……青春……それは何かも皆懐かしく、そして美しい。私が失って久しいものをこしのりと丑ちゃんにまた見せてもらえたね……」と一人ごちた。彼女はテンションが高ぶると元々ばあさんなのに輪をかけて年寄り臭い喋り方をすることがある。


「お母さん、さっきからご飯だと言ってるでしょう」

 こしのり母がばあさんを昼飯に呼ぶ声がする。

「良い物を見たから空腹も一時忘れていたよ。今日はカマスの塩焼きだったね。私は子供の時からあれが大好きなんだよ」

 そうしてばあさんは楽しい食卓へ呼ばれていった。

 

 筆者の本日のお昼の食卓にはキャベツと人参を炒めて醤油をかけただけのごく寂しいものしか並ばなかった……

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