第六十七話 シュワる~ to ラムネが~
遂に十一月に入ったある日の学校のお昼休みのことである。
こしのり、丑光、根岸、堂島の四人は、机を合わせて楽しい昼飯の時間を送っていた。
「お~い、ラムネ王子~」トイレから帰って来たこしのりが暢気に言った。
「はっ、何だそれは?」堂島が答える。
「はっは~、堂島君のことさ、あと金平糖殿下ともあだ名されているね」と丑光が言った。
「主に女子の間でそう呼ばれているみたいだぞ」と根岸が言った。
「ふふ、そいつは名誉な呼び名だな。俺の作った金平糖とラムネは受けが良いらしい」堂島は満足そうに言った。
「ふぅ、じゃあ今日も元気にレッツらマゼマゼタイムの時間だな」こしのりは聞いたことのない謎の時間を設け、納豆をぐるぐるとかき混ぜ始めた。
これを見て根岸は「おいおいまたかよお前は。お前以外に学校で納豆食ってる奴なんか見たことない。最初は抵抗があったこの匂いにもすっかり慣れたな」と言った。
「こしのりは昔から納豆が好きだよね。まぁ健康に良いしね。僕は好物のこれこれ~」そう言いながら丑光の開けた弁当箱の中はカルボナーラであった。彼のお昼は洋食になる確立が高い。
「それにしても根岸のそれは何だ。毎日花見の弁当レベルの豪華さだな」根岸のリッチぶりにまだ慣れきらない堂島が言う。
「ああ、購買のパンとかでもいいし、行きにコンビニで弁当を買ってもいいんだが、どうしても家の方針で持たされるんだよ」そう言いながら彼の明けた重箱の中は、豪華なおかずがそろい踏みの幕の内弁当のようであった。そして毎回、海苔や梅干や梅塩やケチャップにマヨネーズ等の何かしらを使ってご飯の上に土上プロデュースのハート印が描かれていた。今日は白飯の上に載せた昆布でハートが描かれている。
「君の弁当はクラスの皆、特に多くの男子が羨ましがっているよ。なんたって美人のメイドさんから毎日たっぷりのラブを注がれた弁当を食べているんだからね」
「いや、このハートは止めろといつも言うのだが、これがあいつのささやかな楽しみらしいんだ。味は抜群に美味いんだけどな」
「いやいやお坊ちゃまは愛されちゃって、いいもんだね~」そう言いながらこしのりは魔法瓶に入れたお湯で即席味噌汁を作っていた。お椀は家から持ってきた物を使い、その場で洗って乾かしてを繰り返し学校に常に置いている。
堂島は30センチを越すくらいの長さのフランスパンにタップリのレタス、トマト、キュウリ、ハムを挟んだのを大口を開けてかぶりついている。そして横に置いた水筒には自家製のコーヒーが入っている。
「丑光はパスタに何を振りかけてるんだ?」堂島のその問いに丑光は「これはナツメグを振っているんだよ。なんかスッとする感じがして良いんだよね。僕的にコレとパスタは良く合うんだよ」と返した。
「堂島君のそれも美味しそうだね。リア充OLの昼飯みたいじゃないか」
「リア充OLが何なのかよく分からないが、このパンは家で焼いたやつなんだ」
「え、堂島の家はスイーツショップじゃないのか?」根岸が聞く。
「ああ、そうなんだが、お菓子作りを極める過程でパン作りも通るんだ」スイーツ職人が修行の過程でパンにも手を出すのがよくある話とは決して言い切れないが、とりあえず堂島家ではそうらしい。
「へぇお前パンも焼けるのか~すげ~な。どうだろうか、納豆は作んないの?」こしのりが納豆ご飯をかき込みながら言った。堂島もさすがにこれには「作るわけないだろうが」と答えた。
四人四様にして多岐にわたるジャンルの飯を広げ、四つが混じって何とも不思議な香がクラスに漂っていた。
それを見ていたスミレは「あんた達、本当に自由ね」と言った。
「やあやあスミレちゃんじゃないか、君の今日のお昼は何だったの?」
「昨日のおでんの残り」丑光の問いにスミレはそう答えた。
「そうだ、皆良かったらこいつを食えよ」そう言って堂島は瓶に詰めたカラフルなラムネを皆に勧めた。もちろん彼の手作りである。
「う~ん、シュワる~」両目を閉じて眉間に皺を寄せて丑光が言う。これが彼の最近のお気に入リアクションである。
「おいしいね」スミレもパクついていた。
堂島はボスの身に納まっていただけに、それなりにがたいが良く、初対面の人なら強面に思えるかもしれない。そんな彼がこうして華やかなお菓子をクラスに持ちこんで、皆の舌を美味さで唸らせている。その意外なギャップが良いと特に女子の間で評判であった。
ミニスカ侍四人とスミレは皆してラムネを食って「シュワる~」をユニゾンしていた。今日もポイズンマムシシティは平和である。