第六十五話 スイーツミニスカ侍と泣き虫の軍団
「いや~頭から豪快にかぶりつかれるなんて、君はとことんまでにミニスカに愛されているんだね」と丑光が言った。
「俺の時も穿いてくれと言わんばかりにミニスカの方から俺に突っ込んできたが、頭から強引にかぶりつくまではいかなかったな」と根岸が言った。
「なんじゃこりゃ!」そう言って堂島はミニスカを下にずらす。
「あっいけない!それを脱いだら」と言ってこしのりが止めに入ったが遅かった。
ミニスカを脱いでしまった後、堂島のズボンは程なくして光の粒子となって消えた。そして堂島はパン一姿となった。
「きゃ」可愛らしい声をあげて目を覆うのは堂島の妹留美である。同じく女性の身であるスミレと土上は、男のパンツ姿を見たくらいでは動じなかった。
「あれ!俺のズボンどこに行った?」
「あちゃ~遅かった。いいか一度そのスカートを穿いたら、もうそいつしか穿けなくなる。下のパンツは大丈夫だけど、それ以外の物を穿いたらさっきみたいに消される。どうしてもズボンを穿きたいって時には俺達みたいにズボンの上にミニスカを穿くんだ。とりあえずミニスカが一番上にくる状態で一緒に穿いていればセーフなんだ」こしのりが丁寧に説明した。
「なんだって!そんなのまるで呪いじゃないか!」
「いやいや、まさかの五人目の仲間が見つかるとはね。しかし、あれは留美ちゃんの下に行くと思っていたんだ。やっと女子の仲間が出来ると思ったらまた男か……」丑光が悔しそうに言った。
「まぁ、どんまいやな。男五人で頑張ろうや」そう言って人ではない熊の室が丑光の肩にポンと手を置いた。
「しかしまたどうして堂島がミニスカ侍に選ばれたんだろうか。そこらへんどう思うよ丑光」こしのりが問う。
「それはね、ガラケー仲間の君達が通じ合ってハイタッチをした時、こしのりを介してこしのりのミニスカもまた堂島君に対してシンパシー的なものを感じたんだろね。そして堂島君はミニスカ侍としての資格を得たってわけさ。間違いないね」丑光がそう言うのだから、その解説で間違い無しで通すことにしよう。
「ガラケーが俺達を繋いだ訳か。歓迎するぜ堂島!」
「なったもんは仕方ないか。まずは打倒巨神兵だな。スイーツ職人の道はそれからだ」
こうして家出少年の堂島は不良グループのボスからミニスカ侍へと華麗なる転身を行ったのである。
「そういうことだ。お前達とはこれでさよならだぜ。今までありがとうな」堂島は振り返って『子子子子子子子子子子子子』の仲間達に言った。
「うぐぅご……へへっ、せいせいするぜ、アニキはさぁ、俺の家に泊まった時には鼾がうるさいし、歯ぎしりもまじでヤバクて寝相も最悪でさぁ、アニキと暮らしていて一度だって良く寝れた事なんてなかったのさ……へへっ、これからは穏やかな夜が来るぜ」不良の一人は涙を流しながら言った。
「アニキ、あんたのコーヒーに砂糖入れすぎなところとか、カレーは甘口じゃないと絶対ダメとか言うところはガキっぽくて嫌いだったさ!でもあんたはいつだって俺に優しかった。俺がネット詐欺にやられそうになった時は助けてくれたよなぁ~うぐぅお~」綺麗な心で汚い涙を流すのは堂島の部下の一人である。
「ドゥージマ、グッドラック」マードックも大粒の涙を浮かべて言う。
「ボス、俺がエッグベネディクトを作れるようになったら食いにきてくれよぉ」山口も涙を浮かべて言う。
「ボスよぉ。俺は最初あんたのことが気にくわなった。飯の時はくちゃくちゃ音を立てて噛むし、麺類を啜らずにやたらとすぐに切る独特の食い方も正直見ていてイライラしたさ。でもアンタ、家の猫が家出した時に必死になって探して見つけてくれたよなぁ。俺はあんたの優しさに触れたあの時程自分の心の狭さを恥ずかしく思ったことはない。本当はアンタのことが大好きだったのさ~」内は涙を流しながら大声で言った。
「へっ、知ってたさ。お前らの気持ちなんてのはな。俺を嫌うのも好くのもお前らは態度で一つも隠せていない。あばよ、最高の連中」堂島は彼らに背を向けて片手を上げて見せた。そしてバイバイの形に手を振った。そうして堂島は新たな一歩を踏み出すべく廃工場のある高台毒蝮ヶ丘を下っていった。
彼の歩む後方から響く野太い男共の泣き叫ぶ声はしばらく止むことはなかった。後ろから聞こえる声を耳にして堂島もまた目に涙を溜めていた。