第六十四話 その閃光は彼の頭を喰らう
堂島の引退表明も無事終わった。宴もそろそろお開きにしようというところである。
そこでこしのりが言う「おい、これだけは言っておく、何の罪もない深町を襲ったことは謝れ」
こしのりの同級生の深町君が『子子子子子子子子子子子子』のメンバーに襲われた例の事件のことをこしのりは忘れてはいなかった。この時、深町君を襲った五人のメンバーは後日必ず謝罪することを去りゆくボスと次代のホープのマードックに誓った。ちなみにその内二人はスミレが暴れてばたんきゅーさせている。あと一人もスミレから受けたダメージが残り、お昼に毒蝮高校の校門で倒れた。
「意外、あんた友達想いなのね」スミレが言う。
「なんだ、幼馴染のお前がそれを言うのか、俺はこういう奴って知ってるだろ」
「いやいや、同じく幼馴染の僕でもこしのりがそんなに友人想いだとはちょっとびっくりしたよ」丑光も言う。
「ところでだ。お前達は何でズボンの上からミニスカなんて穿いているんだ」堂島が今さらながら問う。
「おにいちゃん知らなかったの?この人達はこの街を救うミニスカヒーローなのよ」
「は?」堂島は珍しく妹がおかしいことを言っていると想った。
「人呼んでミニスカ侍さ」自らをミニスカ侍と命名した丑光が得意げに答える。
「どういうことだろうか……」堂島は訳が分からないでいる。
「仕方ないな~お兄ちゃんに説明してあげる」
それから留美は堂島に彼らミニスカ侍とあの巨神兵のことを説明した。
「俄かに信じられん」堂島は言う。そばで聞いてたその他の不良共も皆納得が行ってないようだ。
「巨神兵のLINEグループとやらも見たが、それって本当は誰かの悪戯じゃないのか」
「仕方ない。証明してもらおう」丑光はそう言って、巨神兵にその存在の説明を頼むとLINEで伝えた。
するとすぐ返事が帰ってきた。
「なになに、工場の入り口に証拠の品を放つ。皆さん入り口から離れて。とのことだよ」
「何が起こるって言うんだ、ばかばかしい」そう言いながら堂島は工場の奥に行く。それに他の皆も付いてくる。
それから20秒程経って巨神兵からのダイレクトメッセージが届いた。
抜群のコントロールで巨神兵が飛ばした石は、斜め45℃くらいの角度で工場入り口に投げ込まれた。石のサイズは直径5センチくらい。石は紙で包んで、途中で開かないようにテープで止められていた。
「なっなんか落ちてきた!」ビックリしながら堂島がそれを拾って紙を広げた。
紙にはこうあった。
(これで信じてくれたかいドゥージマ 登録お願いするよ あなたの巨神兵より)
そして堂島に友達申請するがごとくに巨神兵のメールアドレスが記載されていた。
「なっなっなんてこった。コントロールの良さが鬼がかっている!」堂島は大変驚いている。
「では、あの巨神兵は本当に意志ある侵略者で、お前達はそれと闘って2018年を運ぶ戦士であり、時の遣いってわけだ」堂島は何だか興奮気味で饒舌になった。
「まぁな」こしのりが軽く答えた。
「だったらお前、スタミナ不足だろ。もっと食って、運動しろよ」堂島からこしのりへ的確なアドバイスが送られた。
「では、一つ返信してやろう」堂島は自分のガラケーにこしのりのガラケーの電池パックをはめて、久しぶりにガラケーを起動させた。そして巨神兵にメールを送ってみた。
「おっ、もう帰ってきた」
(聞かせてもらったよ。君はとんだうっかりさんだね。スイーツの修行も来年が明けないと全くの無駄になるね。君はどうするんだい 巨神兵)
「何を!こんな奴はミンチにしてやるぜ」
「おいおい君、奴は肉じゃなくて石だぜ」丑光がつっこむ。
「しかしガラケーの電池パックとか久しぶりに見たな」根岸が覗き込んで言う。
「俺はガラケー仲間に会えて嬉しく思うぜ。なぁガラケー同志よ」こしのりはハイタッチを求めて片手を上げた。
「へっ、お前は面白い奴だよ」堂島はそう答えてこしのりとハイタッチを交わした。
その時である。そろそろ17時を過ぎて暗くなり始めた空に一筋の光が走った。それは遠くの空から間違いなくこの廃工場目掛けてやって来る。
背の高い内が一番にそれに気づく「おい、なんかスゴイ光がすごい速さでこっちに、うわ~~」
内の一声でそれに気づいた皆は蜘蛛の子を散らすように駆け出した。
「え、何々?」皆と違う方を向いていた堂島はそれに気づくのが遅れた。
そして光は、彼が気づくまでもなく彼を射抜いた、かのように思えた。
工場内のあちこちに逃げて隠れた皆々は、堂島がどうなったのか恐る恐る覗いた。
とにかく堂島がものすごく光っている。ほとんど見えない。しかしこしのりは、闇の中でも光の中でも目が利いた。彼はばっちり視界に捉えた。頭からスポンとスカートを被っている堂島の姿を。
「あっあれは新種の変質者!」こしのりは思わず頭に浮かんだ感想をそっくりそのまま口にした。
ミニスカはまるで頭から堂島を食うかのように蠢き、彼の顔を通過し首の下にまで下がっていく。ミニスカは自在にサイズを変え、彼の肩だって通過できるくらいに伸びる。これなら巨人のウエストでも納まりそうだ。そのまま彼の胸の下、臍の下も通過しとうとう本来ミニスカを穿くべき場所である、腰の部分で動きが止まった。その時、一層光が強まった。
「うわ~まぶしい~」皆が口々に言う。
そして光が収まり、十月の17時の時間帯に相応しいであろう野外の明るさに戻った。
「あ、あ~ボスが!」
「そんな~兄貴が!」
「オーノー、ドゥージマー、ユアープリティーボーイ」最後の一声はマードックによるものである。
一瞬のことであった。光のスカートにかぶりつかれた彼はなんと、五人目のミニスカ侍へと変化を遂げていたのだ。
「あ~~!何だコレ!いつの間に!」堂島は穿いた覚えのないスカートを見て取り乱す。
「ウソ……お兄ちゃんがミニスカ侍なんて……これは商売に使えるわ!ミニスカ侍の作ったスイーツなんて絶対にインスタ映えするって注目されるわ!」留美は逞しすぎる妹であった。