第六十三話 三つの力、一つの心
「そういう訳だから俺はここを出て行く」堂島が言う。
「ちょっと待ってくれよアニキ。何も出て行くことはないだろう」
「そうだぜ、ボス不在じゃまた困ったことになる」
「いや、俺はスイーツ職人になるんだ。妹と家に帰らねばならん」
ただの突き指を一生付きまとう負傷と勘違いしていた堂島は、その勘違いがわかってからというもの、唐突に進路を決定した。彼はこれまで怪我という怪我の経験がなかったので、ただの突き指が大事に思えたのである。ある程度の怪我になら慣れておいた方が後々役立つのかもしれない。
「しかし、後任のことは考えた方が良いな」堂島は自分の去った後、チームをまとめる者のことを考えた。
「よし、内」
「おうボス」内が一歩前にでる。
「山口!」
「あいよボス」山口も一歩前に出る。
「それからマードック」
「オッケーボス」マードックが二歩前に出る。
「チームはお前ら三人でまとめるんだ。歴史でも習った三頭政治ってやつだ」
名もなき不良の一人が言う「ボスは一人のはずですぜい」
「まぁ聞け。内は腕っぷしじゃピカイチ、それにここに身を置いてから歴も長い信用できる人物だ。何かあったらまとめ役に持って来いだろう。腹が減ったら戦に限らず大方のことが満足に行えないのだから、美味い飯を作れる山口はここの重要人物だ。そしてバーナード、こいつは俺達国産とは違って世界を広く見てきた見識がある。今はヤクザだって四大(四年生大学)出の時代だ。何に限らず集団で事を成すならある程度はおつむがいる。ここぞって時にバーナードの国際的知識は役に立つ。」
「しかし、三頭なんてのは前例がないぜ」不良の一人が言う。
「絶対的な一人なんてのを置こうってのがそもそも間違いなのかもな。現にお前達はこんなにまとまっているじゃないか。それでもボスがいるって言うならこの三人だ。三人で補い合って、完璧なチームの頭を張るんだ」堂島は集まった者皆を見ながら言った。
「ボスの言う事だ。俺は構わない」内が言う。
「どっちにしろ、俺はフライパンを振るうだけだ」山口が言う。
「オッケー、ボス」マードックが言う。
「おいおい、もう俺はボスじゃねぇ」
「ソーリー、ミスタードゥージマ」
「ミスターもいらねえよ」
「オッケー、タダのドゥージマ」
「へっ、お前には期待しかしてねえよ」マードックの肩にポンと手を置いてドゥージマもとい堂島が言った。
宴を中止して突如始まった堂島のチーム脱退式を、部外者のミニスカ侍四人とスミレと土上と留美は黙って見ているしかなかった。ちなみに部外者の内、室は腹も膨らんだので横になって鼾をかいていた。
「何かいきなりはじまっちゃったね」丑光が言う。
「なぁ、もう帰っていいんじゃないか俺達」根岸が言う。
「てかさ、マードックって誰だよ」こしのりが良いことをつっこんでくれた。
彼の説明がまだであった。マードックは宴の時に追加でやって来たメンバーで、戦闘には参加していない。生まれはここではないどこか遠くの国で、日本には何をしにやって来たのかもわからない。とりあえず黒人なのだが、あとは謎な男。しかし、生まれた国が違うという壁を全く感じさせないその陽気で人懐っこい性格でチームに完全に溶け込んでいる。役200人いる軍団の中で唯一ブレイクダンスができる。
「ドゥージマ、アトノコトハワシラニマカセナ」どういうわけか彼は一人称にワシを用いる。