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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第六十二話 便利だからって機械に頼りすぎるといざという時に困る

 廃工場の宴が一瞬途切れたのは、堂島の妹留美が不意にこの場を訪れたからである。実は丑光がLINEで連絡を取って留美にこの場を教えていた。しかし、兄妹の再会が想った程穏やかなものでなさそうだと見て取った丑光は「なんかヤバイ」と思って口を閉ざしていた。それまで騒いでいたその他の者も急に大人しくなって兄妹それぞれを見るばかりであった。

 感動の再会かと思いきや、この兄妹には少々複雑な事情があるようだ。


「お兄ちゃん、何で家に帰ってこないの。長い間どうして連絡をくれなかったの」

 帰れなかったのは指を痛めたショックで、好きだった菓子作りが出来なくなったからである。菓子を作れないのに菓子店にいるのは堂島には辛いことであった。

 そして連絡のことではあるが、これは簡単なことで携帯電話の電池が切れて充電できなかったからである。なんせ彼の所有するのは今時古いガラケーである。『子子子子子子子子子子子子ねこのここねこ ししのここじし』のメンバー約200人の内で現在ガラケーを所持する者は彼を除いた他にはいなかった。よって、仲間から充電器を借りることも出来なかった。だったら、人の電話を借りて連絡すれば良いではないかと皆様はお思いになるだろう。その説明もしておこう。堂島は高校生にもなって実家の電話番号を知らないなんて事はなかったが、実家に電話して両親に出られると気まずい。だから実家には何としてもかけないことにしていた。しかし、妹の留美たんにだけは無事であることを連絡したい。ここで問題が発生した。家の電話ならともかく、携帯電話の長い電話番号は、最初の一回目だけ入力して発信すると後は機械が番号を記憶するので自分で思い出して入力することはない。発展した機械技術が仇となり、堂島は妹の電話番号を宙で入力することができなかったのだ。だから、人から電話を借りても結局番号がわからないまま留美には電話できないのであった。このような時にこそ、便利になったからとそれに胡坐をかいて危機を招く人類の怠慢を感じる。堂島は機械に頼りすぎというのも良くない思った。


「俺は指がこんなになってしまって、あそこにいても何もできない」堂島は辛そうにそう言った。

「だめよお兄ちゃん、お菓子作りが好きなんでしょ」

「もう止せ、俺の指はな俺の指はもう……」

「違うわお兄ちゃん、お兄ちゃんの指はもう直っているのよ!」

「え!」

 留美の口から放たれた意外な言葉に対して「え!」を言ったのは堂島だけでなく、その他数人の口からも聞こえた。


「お兄ちゃんはあの日。病院に行った日に、先生の話を最後まで聞かずに病院を飛び出したでしょ。あの後にわかったのよ。お兄ちゃんの指は確かに怪我をしていたけど、大したことないって」

「え、じゃあこれ何なの?俺の指」

「それはね、突き指よ!」

「はっ?」

「もう五ヶ月も前よ、とっくに治っているわ。その証拠に痛まないはずよ」


 内が口を開く「ボス、その指は確か車にぶつけられそうになった妹さんをかばってそうなったとか。それで突き指……?」

「車って言ったって、あれは本の小さい男の子が、子供用乗り物の車に乗っていたのよ。別にそれに当たっても怪我はしないわ」留美が言う。

「え、何これ、おいお前コレどうなってんの?」こしのりが堂島に聞く。

「あのガキは留美をこうとした、例え玩具の車でも危ないのは危ないだろ……だから俺は……」少々混乱気味に堂島が言う。

「おい、ちょっとお前、その封印のグローブはずしてみろよ」こしのりが言う。


 堂島が封印の黒手袋を外すと、その下に現れた彼の両手両指は包帯でグルグル巻きにされていた。

「それもとってみ」こしのりが言う。

 堂島は結構時間をかけてクルクルと包帯を解いた。場にいた全員が堂島に注目していた。

「で、両手をパーにして俺の方に向けてみ」

 こしのりに言われた通り堂島はこしのりに手のひらを見せて両手をパーにした。

「よし、ワン、ツー」そう言いながらこしのりは開いた堂島の手のひらにワンツーパンチを軽く打った。

 これには場にいた堂島の部下共は一瞬冷っとした。堂島の傷んだ指を気遣ってのことだ。

「わっ、お前いきなり何を!」堂島は手を引っ込めてそう言う。


「あ、お前何しやがる」

「ボスの手がどうなってるか知ってんだろうが」不良共が口々に言いこしのりに敵意を向けたがそれも一瞬もこと。

「いっ……たくな~い」堂島が言う。痛くないそうである。


「でしょ、お兄ちゃんは早とちりしただけで指は何ともなってないの。だから家に帰って前みたいにお菓子が作れるのよ」

 何と言うことだろうか、指を痛めたことで自分はもうお菓子作りの道を断念するしかないと思って家出までしたのに、それは全て堂島の勘違いであったのだ。ちなみに堂島がスミレにクッキーをあげたことがあったが、あれは材料のことなどを指示しつつ山口にほとんどを手伝ってもらって作ったものであった。

「ハッハ…・・治っているのか!俺はまた菓子が作れるぞ!」

「……お前なぁ……何だそりゃ!」こしのりが声を荒げて言う。「じゃあ最初から家出することもないし、この軍団に入ることもなかったんだろうが!お前を探す依頼を受けて俺達が巻き込まれたコレもなくて良かったことになる。こんな落ちなのに、お前を探して妹と引き合わせるのに一体何文字何話つぎ込んだと思ってるんだ!」

 これには根岸と丑光もうんうんと頷く。スミレは口を開けてこの事態を見ていた。

「ハッハ、お前らスマン。で、何文字とか何話って何のことだ?」堂島は微笑みながら言った。


 この意外な事態に彼の部下達は呆然としてボスを見るのみであった。

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