第六十一話 必見!漢(おとこ)堂島一人語り
君の名は?とお前が聞いたなら、俺は迷わず俺の名は堂島と答えよう。そう、俺は堂島。ポイズンマムシシティ最強の不良チーム『子子子子子子子子子子子子』の頭を張っている男だ。
俺の実家は街で人気の菓子店『スイーツ堂島』。俺はそこの息子だ。そこそこに厳しい職人気質の父親、息子にも娘にもかなり甘い母親、天使がどこかに羽を置き忘れたままに世に光臨したがごとくマジプリティな妹の留美たん、そして俺を合わせた四人家族で極々平和に暮らしていたのだ。
そんな家族に亀裂が入った原因は、この俺の家出に他ならない。俺が家を出たのは五月の始めくらいだったと思う。
俺の妹の留美たんは、中学三年生で女子バスケットボール部に所属している。何も俺は身内の贔屓目のみで妹を可愛いと言っているわけではない。実際にバスケをする妹のことを、練習をサボってエロい目で追いかけている男子バスケ部員もたくさんいて、クラスでも恋文をいくつかもらうくらいにモテているのだ。この現状について、お兄ちゃんとしては心配と怒りの入り混じったダークネスな感情を抱くことしかできない。
妹はお付き合いしている猿(この場合は男のこと)はいないと言うが、こういうことは極めてデリシャスじゃなくてデリケートな問題なので、例え信頼すべきお兄ちゃんであってもそう簡単に話せることではない。なので、本当のことはわからない。このことを考えると俺は胸を締め付けられる想いがするぜ。
学校の休みの日には、バスケを頑張る妹の練習に付き合って、公園で若さ溢れる青春汁(この場合は単に汗のこと)を共に流し合うこともあった。
俺は部活こそ所属していないが、バスケの腕は大したものだと思っている。バスケ部の助っ人として試合に出て見事勝利を収めたこともある。そういう経歴があるため、俺は妹のバスケの練習相手に持って来いの人物だったのだ。しかし、そんな公園で悲劇が俺を襲ったのだ。
公園で俺が妹にボールをパスした時、妹はボールに目が行って全然気づいていなかったが、妹の横から車が突っ込んで来ていたんだ。俺はダッシュ一番に駆け出して、妹を守ろうとして妹の体を押し飛ばした。すると、妹の代わりに俺が車にぶつけられた。今こうして語っているのだから俺は死にはしなかった。しかし俺は、この腕を、大事な大事な指先を痛めて、その自由を失った。とっても痛いんだ。
病院に行って医者に診てもらったら「これは酷い……」と言われた。
俺は医者のジジイのその言葉を聞くなり、全てが嫌になって勢いのままに病院を飛び出て、そのまま家には帰らなかった。
それからは街外れの廃工場に寝泊りすることにして、しばらく鬱屈とした生活を続けていた。そしてある日、俺と同じく廃工場を住みかにする連中が現れた。それが『子子子子子子子子子子子子』のメンバーだった。
そう、俺がこのチームに加わったのは今年の五月で、加入して五ヶ月しか経っていない。あの時の俺は色々ストレスを抱えて荒れてたものだから、勢いまかせに俺に突っかかってくる連中を叩きのめしたんだ。当時はチームの前ボスが引退したばかりで、ボスの公認があやふやな状態だった。そんな時に俺のようないかした奴を見つけたので、奴らは俺をボスに祭り上げたってわけだ。ここだけの話、次期ボスの座を争って内部でいくつかの派閥に分かれてクソ面倒臭い事態になりかかっていたとかも聞いたことがある。そんな時には意外にも意外に、どの派閥の者でもない完全なる新人にまかすことで「じゃあ、いいか」となって本格的に騒ぎが起こらずにことが済むなんてこともあるのだ。勉強になったね。
そんな訳で今日に至るのだ。俺はチームメンバーの家に順番にやっかいになって寝る場を確保していた。そして飯は山口が食わしてくれたりしたものだから、生活面でも色々助けられた。不良だなんて聞こえの悪い連中だが、付き合ってみると意外にも陽気な良いやつらだった。皆がわいわい話しているのをクラスの端っこの方で暗い目をして「リア充爆発しろ」とか念じている雑魚な根暗生徒よりもコイツら不良の方がよっぽど安全で健全な人間だと思う。人は見た目で判断できないんだよな。大人しそうな奴の方が危なかったりするからな。あんな不良共だが、付き合ってみて色々と得る物もあった。
俺は、菓子店の息子だから、こう見えて菓子作りをやっていたんだ。作るのは好きだった。あんなに可愛いのに作るのはダメな妹に菓子を作ってやると「おいしい」と言ってすごい喜んでくれた。しかし、指が痛むのを機に、俺は封印の黒手袋をはめて今日まで過してきたんだ。今は菓子を見ると、どうしようもなく切なくなる。