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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第六話 おとし玉をもらえる内が人生の華

 こしのりが祖父の妄言とくらいにしか思っていなかった巨神兵は確かに存在し、しっかりとこちらに破壊の意志を示してきた。こうなってはもう闘うしかない。

 まだ齢15の彼にとってここで死ぬには早すぎる。まだクリアしていないたくさんのゲームをクリアすること、第一話で蔵の中を探したが結局まだ出てこないゲーム「デスクリマロン」をきっと探し出してプレイすること、大好きなアニメ「スリーピース」の結末はどうなるか、作中で明かされていないこの世の果てに眠るお宝スリーピースとは結局何なのか、こんな具合で彼にはやりたいこと、知りたいことがまだまだたくさんあった。

 死ぬには未練が残りすぎているので、今死んだらきっと化けて出てやる。巨神兵によって地球ごと破壊されたとしたら、惑星を変えて火星あたりに化けて出てやる。彼はそこまで考えていた。


 彼は大いなる決心をした。スカートを穿く。これしかない。

 

 巨神兵と対面しメル友になったその日はやっぱり暑いし疲れたので二人は家に帰ってすぐ休んだ。

 その明くる日である8月11日の朝、こしのりと丑光はこしのり宅こしのり自室の卓を挟んで向かい合って座っていた。卓には醤油煎餅と熱~くて渋~い日本茶が置かれている。


「ボリボリ……いやぁコイツはまた美味だね。先月虫歯を治してからというもの、痛みを伴わずして硬くておいしい物を喰らえることがどれだけ幸せなことかが実に身に染みてくるね」

 醤油煎餅をボリボリと喰らいながら、先月は同じ物を食って歯に痛みを染みこませていた丑光は今ではその身に幸福を染みこませている。丈夫な歯がある幸せを私達は忘れてはいけない。


「そうだな。同じように今まで世界が平和だったこと……このことがどれだけ幸せだったことか、世界の滅亡が迫った今になってやっと身に染みてきたってとこだな」

 こしのりがいつになくシリアスムードで言う。


「こしのり……君……闘うのか?」

「ああ、そうするしかない。これは一応はじいちゃんから託された使命でもある。俺はな、来年を迎えたいんだよ。来年だけじゃない。向こう50、60年くらいは続けて無事に正月を迎えたいんだよ。そしてずっとお年玉をもらいたいんだよ。このままだと今年もらったのが人生最後のお年玉だったことになる。そんなのは嫌だ」

「そうかい、こしのり……しかし、君がお年玉を貰えるのはせいぜいあと数年だろう。その内にはおとし玉を上げる側に回るぜ」

「それは考えていなかった……おとし玉っていつまでもらえるんだろう。30くらいまでいけるかな」

「いやいや君、30はないだろう。嫁や子供がいたっておかしくない歳じゃないか。それにその歳ならもう立派に稼ぎもあるだろうさ」

「じゃあ、25までかな」

「まぁ家庭によるだろうね。僕の兄さんは今年20歳だけど親戚がくれると言うから今でももらっているよ」

 今はおとし玉を何歳までもらえるかの話をしている場合ではない。しかし筆者としても世間様ではその辺がどうなっているのかちょっと気になるところなので、よろしかったら何歳までおとし玉をもらっていたのか皆様から意見を頂たいところである。


 一通りの緩いトークを終えて二人は謎のミニスカートのある蔵へ向かった。


「うわ、ここは埃っぽいということを忘れていたよ。あれ、そう言えばあの入れ物光ってないじゃないか。どういうことだろうね」

 先に蔵に入った結構おしゃれさんで服が汚れるのを気にする丑光が言う。


「ん、どれどれ」

 こしのりがミニスカの入っている葛篭つづらに近づくと中から光が少しずつ漏れてきてどんどん光は強くなってくる。


「ちょっと待ちなよこしのり。勘が良いのに定評があるこの僕が推理したところによると、そのスカートの光方は君に反応してのことだよ。君が近づけば光る。そうでなければ普通のスカートなんだ」

「何、勘の良い丑光の言う事だ。ちょっと試してみよう」

 そう言ってこしのりは試しに葛篭から遠ざかってみる。すると光が弱くなる。そして近づくとまた光が強くなる。


「ビンゴだぜ、丑光さんよぉ……」

「ああ、全くだよ。実際のビンゴじゃリーチ祭りを起こすだけで決してビンゴに上がれないこの僕だが、今回の推理ばかりはビンゴだぜ」

 ここで明るい彼のちょっぴり暗い過去を明かしておこう。丑光は小学校の時、毎年恒例の子供会のクリスマスビンゴに6年間参戦し続けたものの、いつも最後まで上がれず残りカスのような景品しかもらったことがないのだ。


 こしのりは初めて祖父の残した不思議なミニスカートを手に取った。

「これが、とんでもないパワーを秘めるというスカートなのか。よし穿くぞ」


 こしのりは中学生の頃、お隣さんで同級生のスミレちゃんに悪戯をされたことがあった。と言ってもこしのりも悪かった。こしのりが先に仕掛けた悪さの仕返しを受けたのだ。スミレちゃんは少々勝気すぎるところがあるが、これといった理由なしに人の困ることを行うような悪い子ではなかった。

 こしのりがプールの授業で更衣室にズボンを脱いで置いている間に、スミレちゃんがこしのりのズボンを穿いて逃げ、代わりに自分の制服のスカートを置いて教室に帰ってしまったことがあった。授業が終わって着替える時にズボンがスカートにすり変わっていたことに気づいたこしのりは、パンツ一丁でうろつくわけにはいかないのでとりあえずスカートを穿いて教室まで帰ったということがあったのだ。それが人生でスカートを穿いた初めての日であり、同時に最後の日であった。彼は今、その最後の日を更新しつつある。


 こしのりは床にスカートをおいてそしてスカートの真ん中に立ち、スカートをぐいっと上に持ち上げて今穿いている短パンの上から更にスカートを穿いた。その瞬間一際ピカツと強い光が放たれた。そしてすぐに光は消えた。

「穿いたけど……・特に何も起こらないな」

 

「どうだいこしのり、何かすごくパワーがみなぎってくるとかないのかな?」

「いや、これっぽちも。むしろちょっと腹が減ってきてパワーダウンって感じかな。さっきの煎餅もお前ばっか食ってたしな」

「ああ、ごめんよ。虫歯が治って久しぶりに不自由なく噛めるからさ、嬉しくなってついつい欲がでちゃったんだよ」

「とりあえず一旦部屋に帰って何か食うか」

 そう言いながらこしのりはスカートを脱いだ。するとそこで初めておかしな反応が見られた。



「おい、こしのり。君、そのズボン見てみ」

「あ?俺のズボンが何だって?」


 こしのりが先ほどまでスカートの下に穿いていた短パンが裾部分から上に沿って粒子状になって消えていくではないか。


「わああ!!何だコレは!!!どうなってんだズボンが消えていくぞ!」

 10秒と経たず彼の短パンは粒子となり天井に舞い上がり、そして彼の下半身はパンツ姿になった。


「こしのり、君のズボンはどこへ行ったんだい?さっきまで穿いていたじゃないか」

「俺にもわからない。どうするんだよコレ。あれ結構気に入ってたのに」


 丑光がわずかに考えモードに入り、その後静かに口を開く。

「待て待て、コレは絶対にそのスカートを穿いたために起こったことだ。よし、僕の推理が正しければきっと……」

 そう言いながら丑光はが自分が穿いているトレパンを脱いで見せる。


「こしのり、これを穿いてみてくれ。そうすればきっと謎は丸っと解ける」

「……わかったよ」

 何が何だかわからないが、丑光のとっさの時に下す判断には結構な信頼をおいているこしのりは彼の言う通りにトレパンを穿いてみる。


「穿いたぜ」

 こしのりがトレパンを穿いて間もなくして、トレパンの裾の方から始まってこしのりの腰にむけて生地がどんどん消えていく。


「やっぱりそうだよこしのり。君は間違いなくミニスカートに選ばれた適合者だ。その証拠がコレだ。君がそのミニスカート以外の物を穿くとそれは消え去ってしまうんだ」

「何ぃぃい!!それじゃ俺は今後ミニスカしか穿けないのか!」

「そうだな。しかしもう一つ聞いてくれ。君がズボンの上からミニスカを穿いた時はズボンは無事だったろう。これも多分当たっていると思うのだが、スカートの下に穿いているなら他のものを身に着けてもOKなんだよ。そしてズボンを消しても下着のみを残すのはTPO的なアレだよね。いい配慮だよ」

 見事な分析を持って丑光が言い終えたその時、丑光の携帯が鳴った。


「うん?……おい巨神兵からメールだぜ」 


以下巨神兵のメール内容 

(一人目の適合者ゲットだね。おめでとう。答え合わせをしておこう。今の推理は全て大当たりだよ。)

「やったぜ。さすが丑光名探偵。て、待てよ。アイツは僕たちが見えているのか。そう言えば耳が超良いって言ってたね」

「おいおい、喜ぶのも良いけどお前もパンツ姿になってどうすんのよ」

「ああ、そうだった!どうしようパンツで帰らなきゃいけないじゃないか。それにトレパン消失はお母さんに怒られちゃうぜ。どうしよう」

「まぁ、そこは俺のズボンを貸してやるよ。トレパンの事はチーマーに追いはぎにあったとかなんとか適当なことを言ってればいいだろう。それにしてもこれからは巨神兵を倒すまでミニスカ生活かよ~」

 こしのりは仕方ないのでパンツの上からミニスカを穿いた。

 

 二人が蔵を後にしようとしたその時、二人の後ろから再び強い光が発せられた。二人が振り返ると葛篭の中の二枚目のミニスカートが明々と光輝いている。


「そういやスカートは全部で六枚あったな。という事は……おいおい丑光さんよぉ、選ばれし二人目が見つかったみたいだぜ」

 そう言ってこしのりは丑光を指差す。


「まさか…・・な」

 丑光は蔵の中の蒸し暑さのために頬に汗を伝わせている。そして、光り輝く二枚目のミニスカを目の前にしてゴクリと大きな音をさせ唾を飲み込んだ。

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