第五十九話 信じる心はプライスレス
ミニスカ侍達の廃工場での闘いは遂に終わった。
表でだいたい十五名が伸びており、工場内ではこしのり、丑光、内が伸びている。意識があるのは根岸、室、スミレ、堂島、そしてカセットコンロの火の番をしていた山口のみである。時刻は、16時を過ぎようとしている頃であった。
「おいお前、そいつのことをそんなに心配している割には、随分のんびりと闘いを見物していたな」堂島がスミレに言った。
「何て言うか、あんたのこと、信用してたから」スミレはそう答えた。
「と言うと?」
「さっきくれたクッキーはあんたが作ったんでしょ」
「えっ!」これには堂島は驚いた。
「あれは『スイーツ堂島』のクッキーと同じ味だった。あそこの息子なら作れてもおかしくないわ。あと喧嘩で手を使わなかったのは、あんたがパティシエだからでしょ」
「……」堂島は黙っている。
「優しい味のクッキーを作る人なら大丈夫と思ったの。それに本気で攻撃を当てにいってなかったでしょ」「ふん、知らん」
「でもね、ウチのこしのりも別に本気じゃなかったわよ。こいつは本気であんたをぶっ飛ばそうとはしなかったもの」
「良くわかるんだな」
「女の勘は鋭いのよ、それにこいつのことは昔から知ってるから」
彼女は、友人のピンチを素麺を啜りながらまったり見るような薄情な女ではなかった。そんな態度に出られたのは、こういった考えがあったからなのだ。
「それにしてもこいつは体力がないから……もっと鍛えないとだめね」スミレは微笑みながら言った。
「やれやれ、これで終わりか」根岸が言う。そういえば彼は、紙飛行機を飛ばして以来特に何もしていない。
「もうおしまいかいな。わいはまだまだ暴れ足りんで」室が言った。
「坊ちゃん、どこもお怪我はありませんか」どこからともなくメイドの土上が現れた。
「うわっ、何だ急にお前は!忍者か」
「いいえ、私はずっと坊ちゃん達の行動を見守っていましたよ。私は坊ちゃんのボディガードの役も担っておりますので、このような危険な場で坊ちゃんにピンチが襲い掛かった場合は私がお助けに入ろうとスタンバイしておりました。あそこの木の上で」土上は工場入り口前の木を指差した。
「すると、俺達があそこで隠れて工場内を覗いていた時からお前は見ていたと」
「ええ、もちろんでございます。私をこの場に呼ぶことをこしのり様が提案した際に、坊ちゃんが私の身を案じて『家のメイドをこんな危険な所に呼べるか』と仰ったのも聞いていました。あれには少々の喜びを感じずにはいられませんでした」
「お前なぁ、いたんだったら早く出てきてこの場を片付けてくれればよかったものを」根岸は顔を赤くして言う。
「ええ、そうすればことが速いでしょうけど、それはここに集まった方々の問題なので、めったなことでも起きない限りは介入しない方針で見守っていました」こういう訳で、闘うメイドさんの職業理念は割りときっちりしている。何でもかんでも手出しをしてはいけないのだ。
そして室は土上を見て思った。「なんておっぱいのデカい女なのだ」と……。
この時、倒れていた不良が一人また一人と意識を取り戻して堂島の元へとフラフラ歩いてきた。
「アニキ、戦況はどうなっている?」
「どっちが勝ったんだ」
「わぁ、熊が小さくなってるし、メイドがいるぜ」
復活した不良達は口々に言う。
「あっ、あいつら二人とも伸びていやがる。ということはボスが勝ったんだ」こしのりと丑光が倒れ、立っているのは堂島だと確認した不良の一人が言った。
「ああ、まぁそういうことだ」堂島が答えた。
「きゃっほ~い、アニキの勝ちだ!」
「うぃ~~!!俺達の勝利だぜ」
今度は口々に勝利の雄たけびを上げ始めた。
不良グループの闘いは、途中で何人倒し、何人倒されようが、最終的な勝敗はボスの首の有無にかかっている。彼らは自分達のボスと一騎打ちを張ったこしのりを敵側のボスと考えていたので、この場合はこしのりを討ち取った段階で、他がどうなっていようが彼らの勝ちなのである。
「宴だぁ~!!ボスをたたえて勝利の宴だ!」
「山口、また何か作ってくれよ~」
「あいよ~」山口は答えた。彼はまだ火の元を離れることが出来なかった。しかし彼はそれで良かった。自分の料理を喜んでくれる仲間がいるのだから。