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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第五十八話 力の限りを尽くした君を笑う奴を私はきっと許さないだろう

 逃げる逃げる。脱兎のごとく廃工場内を所狭しと駆け巡るこの男は、我らがミニスカ侍の一人こしのりである。

 後ろから追いかける堂島が言う「おい待てコラ!」

 こしのりは、この状況で待てと言われて素直に待つ奴はアホだと心から思った。

 ジャンプ一番堂島は、得意の飛び蹴りを放った。彼は特に何かのトレーニングを積んだ訳ではないが、常人を凌ぐ跳躍力を有している。こしのりがちらりと後ろを振り返ると堂島の靴裏がどんどん迫ってくるのが分かった。

「こいつ、いつまで宙に浮いてやがる!」確かに堂島の滞空時間は長かった。

 こしのりは先程までスミレの周りを囲んでいたダンボールの壁の残骸から、一つの箱を拾い上げて盾にした。しかし破壊力抜群の堂島の蹴りに対して、ダンボールのやわな盾は全く役に立たなかった。箱はあっさりへこんでしまい、こしのりは蹴りの威力に押されて後ろに飛ばされた。

 こしのりが尻餅をついたのと同時に、堂島は床に着地した。その時こしのりは、確かなことを確認した。堂島は頬から汗を流し、肩で息をしている。

(いくら街一番の不良グループ『子子子子子子子子子子子子ねこのここねこ ししのここじし』最強のボスと言えども、所詮は不良だ。長くバトルが続けば、そうそう体力が持つわけがない。逃げ回ったのは効果的だったな)こしのりは、こういったことを考えて逃げ回っていたのだ。

(何も正攻法でやりあう必要はない。向こうはヤンキー、こっちはパンピー。経験値に差が出る部分は、あれこれの小細工でカバーだ)

 彼の恐ろしい特性は、食うか食われるかのこの緊張状態においても、戦闘を有利にすべくこれだけ冷静に頭が回ることだ。彼が暴力は嫌いだが決して苦手ではないと自覚できるのは、彼の持つこのバトルセンスがそうさせるからである。

 こしのりは倒れたまま、辺りに散らばる空のダンボール箱を掴んでは堂島に投げる作業を五回繰り返した。投げた箱は順番に堂島に蹴り落とされ、堂島にダメージを与えることは叶わない。最後の一箱を堂島が蹴り落とした時、その箱の影に隠れてこしのりが走幅跳びをするようにして突っ込んで来た。

「何!」いきなりのことにさすがの堂島も驚いたが、彼の持ち前の反射神経でこしのりのアタックもひらりとかわされてしまった。 

 こしのりは着地すると堂島の方を見向きもせずに前方へと駆け出した。

「こいつ、まだ逃げるか!」疲労のためにスタートが少し遅れたが、堂島もこしのりを追って駆け出した。

(よし、付いてきているな。それに奴も疲労が溜まっているようだ。もうこれで決める)こしのりは最後の賭けに出る腹を決めた。

 こしのりは壁に向かって走っている。このままだと壁に激突してしまうが、彼は方向転換しようとはしない。

「バカめ、逃げるに疲れて方向転換も出来なくなったか!」堂島もこしのりを追って真っ直ぐに駆けて行く。

「ここだ!」こしのりはそう言うと壁に向けて飛び上がった。

「何っ!」堂島は、飛び上がったこしのりの動きを目線で追った。

 こしのりは壁に片足が設置すると、壁を蹴って更に空中高く飛び上がった。

(いつかビデオで見た、アイドルバンド『KOUBE』の長身ドラマー竹丘君のやってた壁を蹴って空中でくるりと回るアレを見よ)

 こしのりは、壁を蹴り上がり空中でクルリと後転した。この時彼の体は綺麗に伸びきっており、弧を描くようにして地面に下りていった。

 堂島はこしのりの動きを追って、天上方向に顔を向けていたために、ブレーキをかけるのが遅れ、少々強めの勢いで壁にぶつかった。その時、こしのりは足から着地を決め、完全に堂島の後ろを取った形となった。

(しまった!後ろを取られた!)堂島がそう思った時、こしのりは頭で描いたプラン通りならこのバトルの締めとなるはずのラストアクションに既に入っていた。

「取った!終わりだ~~!」こしのりは堂島目掛けてとどめの握り拳を放った。

(やっやられる!)後ろを振り返りながら堂島は思った。

 しかし次の瞬間、堂島が受けたのは、丸顔の彼の結構柔らかい頬にポカリと決まった軽い一撃であった。

「えっ!」堂島は、痛くも痒くもない一撃をもらって呆気に取られた。

 こしのりのパンチはするりと堂島の頬を抜けてそのまま下に落ちていく。バタリと音を立ててこしのりは堂島の前に倒れた。


「そういや忘れてた……体力がないのはこっちも同じだったわ……まいった、降参だ」

 こしのりは、元々体力がない上に廃工場まで随分歩き、お腹も減っていたことから体力の限界が迫っていた。さき程の壁バックちゅうで彼の体力は尽きていたのである。

「……」いきなりの参ったに驚き、堂島はしばらく口を開かない。

 それから五秒程経った。

「フフフ……フフ……」どういう訳か堂島が笑い出した。

「ハ~ッハッハハハ~」そして次には爆笑し始めた。

「いやはや、こんな面白い奴はそうそういるもんじゃないぜ。お前気に入ったぜ!ハッハッハ~」堂島は満足げにそう言いながらまだ笑っていた。


「こしのり~大丈夫。立てないの?」それまで良い身分で見物していたスミレだが、倒れたまま起き上がらないこしのりを心配して駆け寄ってきた。スミレは堂島の方を見た。

「ハッハハ、安心しろ。もう何もしやしない。これで終わりだ」


「こしのり、ねえ、どうしたの?」スミレは尚も心配して声をかけた。

「水を……それと、俺にも素麺……大盛りで……」こしのりはそう言って事切れた……というのは嘘で、少しの間眠りに着いたのだ。

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