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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第五十七話 目には七味を、歯には青海苔を

 逃げる逃げる。脱兎のごとく廃工場内を所狭しと駆け巡るこの男は我らがミニスカ侍の一人丑光である。

 丑光が振り返ると、後ろに迫るは怪人(うち)。体力のない彼が、止まればミンチにされるという恐怖のみで全力で走っている。

「おい待て!もう止まって観念しな!」後ろに迫る筋肉達磨(内のこと)が発する一言について彼はこう思った。なぜ、逃げる者を追う者は「待て」と言うのだろうか。逃げる方はもちろん、言った方だってそれで止まると思うわけがない。それなのに追う者が自然に「待て」の一言を発してしまうのはどう理由付ければ良いのだろうか。これは将来、大学院にでも入れば良い研究材料になるのでは?そして自分は博士になれるのでは?危機的状況にひんしても、好奇心旺盛な彼の脳はこのようにしてフル回転していた。ある意味逞しい奴である。


 カンカンと足元から音をさせ、丑光はいつしか階段を上っていた。階段の上には足場があり、その上には滑車が見える。恐らく何かを吊るしてここで作業するのだろう。

 丑光は逃げるに必死でそれまで、ある事を忘れていた。それと言うのが、自分が高所恐怖症であることだった。階段を上りきってから彼は景色がおかしいことに気づいた。ここ、絶対に高い。彼はそう思ったのである。そして高所恐怖症の彼を更に恐怖の底に叩きこむ新たな発見があった。階段上の作業場の床は金網状の作りが施され、床に目を落とせば下のフロアも丸見えになっている。元々高所な上に下が透けているとなれば、泣きっ面に蜂状態で彼はちょっとだけ内股になり硬直状態に入った。もうこうなったら地球が割れでもしない限り丑光は動くことが出来ない。

(積んだ。万策尽きた。)丑光は心からそう思った。彼は全てを諦める覚悟を決めて、後ろから迫るハンターにミンチにされることを受け入れるしかなくなった。

 あれ、おかしいぞ。彼はそう思った。待てども後ろから内が来ることはなかった。丑光は恐る恐るゆっくり首を回して階段を見下ろした。

 すると、階段の丁度真ん中あたりの段で内も止まっていた。両手で左右の手すりをがっちり掴んでいる。そしてあんな大きな体の男がプルプルと震えていた。

「まさか……」ミニスカ侍一勘の良い彼はそれに気づいた。そう、内もまた高いところがダメなのだ。

「しめた!」ここから丑光は悪の顔になる。

(ここで決める。こっちもそうだが、向こうにとっても不得手な場へと闘いを持ち込むことが出来た。平地に戻れば九十年間挑み続けたところでこちらに勝ち目はない)彼はどこまでも自分の弱さを信じていたので、このイレギュラーな一瞬こそが勝利への唯一のチャンスだと確信した。

「おい、こっちを見ろ!僕はここだぞ!高い所を見ることさえ出来ない弱虫なのか君は!」丑光が階段下の内に向かって叫んだ。

「何をぉぉ……」内は呻きながらも顔を上に向け丑光を視界に捉えた。

「今だ!喰らえ!レッドシャワ~!!!」丑光は声の限り叫び、ポケットから取り出した小ビンの中身を階段下にぶちまけた。これには下のフロアで飯を食っていたスミレ、根岸、室、おまけに山口までもがマジでうるさいと心から想った。

「うおああああぁあああ!!!」内がまるで怪獣のような叫び声を上げて両手で目を覆った。

「痛い!痛い~!そんでからい~!!」内は両手で目を覆って首を左右に乱暴に振り、狭い階段で地団駄を踏んだ。そんなことをしているものだから、内は階段を踏み外して階段の下へ転落してしまった。内は動かなくなった。気絶したか、死んだかのどっちかである。


「あいつさっき何を撒いたんだ。何だか赤い粉みたいに見えたが」素麺を食い終わった根岸が言った。

「やった!やったぞ僕の勝利だ~!」丑光は勝利の雄叫びを上げた。勝利の喜びで高所に対する恐怖も一瞬は取り払われ、体の自由が利いた。彼は勝利のジャンプをした。しかし、それが間違いだった。ジャンプの着地にミスって、彼もまた内同様に階段の一番下まで転落してしまった。丑光も内の横で動かなくなってしまった。気絶したか、死んだかのどっちかである。


「あちゃ~、やっちゃったな丑光」素麺を食い終わってゲップをしながら室が言った。

「ちょっと丑光大丈夫、死んでない?」さすがに心配してスミレは近くに駆け寄った。すると、先程丑光が中身をぶちまけて空になった小ビンがコロコロと床を転がってスミレの足に当たった。スミレは小ビンを拾い上げた。スミレは小ビンを見て、先程丑光の放った謎の技の正体を知った。

「七味……」スミレは読み上げた。そうレッドシャワーの正体は七味であった。人体に打撃を加えるような野蛮な真似は丑光の好むところではなく、というか無理だったので、怪我なしで相手を黙らせるために彼が選んだ武器というのが、ある意味科学兵器とも言えようアイテム七味であった。七味を目に喰らって平静を保っていられるような人間は、多分地球にはいないと丑光は考えたのである。

「そういやこいつ、コンビニで七味を買っていたな」スミレの後ろから歩いて来た根岸が言った。

「コイツ……最低ね」気絶している丑光を見下ろしながらスミレはそう言った。

 口を開けて倒れている丑光の歯には青海苔がついていた。彼はここへ来る前、コンビニで焼きそばパンを食っていた。

※いくら怒り心頭に発したとしても、お友達の目に七味を喰らわすことは絶対にしないでください。

  紅頭マムシとの約束だよ!

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