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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第五十四話 日本の夏には素麺を啜るのだ!

「ダメだな。お前とは同志になれないぜ」堂島がそう言ったのと同時にこしのりの横をスッと何かがかすめた。こしのりがそれに気づいた瞬間、こしのりが背にしていたダンボールの壁が崩れ始めた。

「何っ!」こしのりが振り返るとダンボールの一つだけが明らかに潰れている。

(こいつ、今の間にダンボールを蹴ったのか、速くて足が見えなかった)


 ダンボールの壁は積みあげた右端の部分を堂島に吹っ飛ばされた。声のする方向でスミレが壁の向かって左側にいることがわかっていた堂島は、崩れたダンボールにスミレが潰されないようにあえてその部分を蹴り飛ばしたのだ。

「女はもう帰っていい。お前にも用はないから連れて行ってやれ」根岸には全く用がなかった堂島は彼にスミレを連れて帰れと命じた。

「じゃあ、そうすっか」根岸は意外にも薄情だ。

「ちょっと待ちなよ。人をこんな所に閉じ込めておいてアンタはそれで済ます気?」久しぶりに壁の外の景色を拝んだスミレが言った。

「何だ、素麺のおかわりが足らないのか。おい山口、追加頼むぜ!」

「あいよボス」山口は活き活きしている。

「じゃあそういうことだから」そう言ってスミレは山口の方へ歩いていった。ついでに根岸も。


「全く肝の据わった女ですね」うちが言った。

 先程の尋常でない蹴りの速度を警戒してこしのりは戦闘態勢を取った。

「おいお前、お前はアレか、留美をねらっているんだな」丑光を見て堂島が言う。

「違うよ」それ以外を答えると絶対にマズイことになると丑光は睨んだ。

「おい、俺達は留美の兄貴を探すことを依頼されているんだ。こうして見つけたんだから、留美のところへ帰ってやれよ」

 気安く妹の名を呼ばれたことでイラっとした堂島はこしのりに向けて素早い一撃を放った。しかし、構えていたこしのりもしっかり反応した。こしのりの右腹を目掛けて飛んで来た堂島の足を、こしのりは右側の脇をしっかり閉めて腕に力を入れて防いでみせた。彼のバトルに対する駆け引きも大したもので、避けることも可能であったがあえて喰らって防ぎきった。そうすることでそっちの攻撃はこちらには効かないということの証明になるからだ。何に限らず争い事で勝敗を分かつには、実力の他にも精神面が作用することもある。こしのりの判断は勝負において精神的優位に立てる良き判断であった。


「あいつ、ボスの蹴りを防いだぞ」

「す、すげぇ」

 周りの不良共が騒ぎ始めた。

 しかしこしのり、実はすごく痛かった。彼はこれから飛んでくる攻撃は全てかわすことに決めた。

 

 その時、廃工場の表で大きな音がした。何やら騒ぎが起こったようだ。

「おい、表で暴れている奴がいるぞ」

「なんてデカくて毛深い奴だ!」

 不良共が口々に騒ぎ出した。

「わぁあ!コイツは毛深い男じゃない。熊だぁ!」熊を見たことのない者は、ちょっと毛深いだけの大きい人と一瞬思ったりもした。しかし、冷静な者が冷静に見ればそれはちゃんと熊だと分かった。表で暴れていた熊は、何を隠そう我らがミニスカ侍の一人というか一匹のむろであった。


「室だ!室が到着したみたいだよ」不良に囲まれて、下手をすれば明日の朝陽は拝めないかもしれないと思う程にビビッていた丑光が元気を取り戻して言った。

「おい、お前ら全員でかかれ。熊の一匹二匹くらいで天下の『子子子子子子子子子子子子』が縮み上がってんじゃねえ」堂島が部下共に命じた。


 堂島と内を残し、不良共は皆表へ向かった。残ったこしのり、丑光と堂島、内でやり合う状況が整ってしまった。

 火の面倒を見ないといけない山口は工場内に残っていた。そしてその横でスミレは素麺のおかわりを食っていた。ついでに根岸ももらって食っていた。


「こうなったら、俺達がやり合うことになるな」雰囲気まかせに堂島はバトル開始の狼煙となる一発を放った。今度は丑光の方に彼の素早い蹴りが飛ぶ。

 攻撃に反応したこしのりは丑光の前に出て、両手をクロスさせて堂島の蹴りを受けた。先程、もう蹴りは受けないと決めた矢先にまた受けてしまった。堂島の攻撃の後となってはこしのりの腕もジンジンと痺れた。

「こしのり!大丈夫かい」

「ああ、無事だ。おい、バカ兄貴の相手は俺がする」

「いいだろう!」そう言うと堂島はこしのりに飛びけりを放った。こしのりはバックステップを踏んでそれを避ける。そのまま二人は場を移動しながらのスピード感溢れる攻防を続けた。


「おいおい、あいつは素人にしてはすごいな。ボスの攻撃を受けるし、避けるしで対応してやがる。となるとこっちの奴も意外とやるのかもな」内が言う。

「え、僕かい。僕もやるのかい?」丑光が答えた。


「うまい。俺は素麺というものを知ってはいたが、食った記憶がない。こんなにうまかったのか」根岸は素麺の食レポを始めていた。

「おいおい、素麺の味を知らないなんてこの兄ちゃんは記憶喪失なのかい?」山口が言った。

 根岸家の日々の食卓には、一般家庭の食卓に並ぶ料理とははかなり異なる物が並ぶ場合が多い。その中に素麺というメニューが登場することはまずありえない。よって、日本の夏といえばコレと言える程にポピュラーな素麺は根岸にとって珍しい食べ物であった。

「素麺もたまには悪くないでしょ」スミレがご機嫌に言いながらおかわりを食い終えた。

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