第五十一話 YES! フェミニスト
こしのり、丑光、根岸の三人が推定年齢50代後半~200歳のカリスマ占い師スミレ(通称毒蝮の母)の店で占いをしてもらっていたその時、本作のヒロインであるスミレは、ポイズンマムシシティ南部高台の毒蝮ヶ丘にある廃工場に監禁されていた。
ここ毒蝮ヶ丘は、土地代や建物の家賃が高いことで知られ、街の中でもちょっとしたお金持ちの方が多く住んでいる場所である。そういう高級感ある地域なのだが、住宅地を少し離れた場所にはまだ舗装も何もされていない砂地が広がる場所がある。ここもいずれはたくさん家が建つ予定だが、それはまだまだ先のことである。その砂地の真ん中にあるのが、スミレの捕まっている廃工場である。平日に不良がたむろし、人質を取って立てこもるのにこれほど条件の良い場所はそうそうお目にかかれるものではない。
それでは、本作の中でも少ない女性登場人物のスミレ氏が今頃どうなっているのか見てみようではないか。
「遅い!あいつら本当に遅い」これには私も同感なのだが、自分の救出に向かうのに時間がかかりすぎなミニスカ侍達に対してスミレは怒っていた。
「今何時だと思ってるのよ。あいつらのことだから、どうせどこかで油でも売ってるのか、それかまさかとは思うけど、家に帰ったってこともありえる」ミニスカ侍達は、捕らわれのヒロインからの信用がとにかく薄い。
「全くだ。なんて奴らだ。もう15時になるぞ。朝にウチの者五人が女を捕まえに出かけて、何とかここへ連れて来たのが11時くらい、そして昼に学校に使いを出して奴らをここへ呼んだんだ。あれから三時間くらい経ってまだ助けに来ないなんてどうかしてる」
時間のことなどを詳しく説明してくれたこの人物は、堂島という男である。不良グループ『子子子子子子子子子子子子』のボスである。彼は帽子を深く被り、両手に黒いグローブをつけている。
「仲間を、しかも女を見捨てるなんて、男としてどうかしている」不良をしていてもフェミニストの堂島は怒りを込めて言った。
「姉さん、あんた、男に大事にされてないのかい?」不良の一人が言う。
「知らない。とにかくあいつらがいい加減な連中ってことは言えるわ」捕まえた方も捕まった方も怒っている。
「で、この状況、どうにかならないのかしら」スミレがそう言うのも無理はない。彼女は今工場に捕まっているが、体を縄で縛られるでもなければ、手錠やガムテープで拘束されているわけでもなかった。体の自由を奪われることはなかったが、彼女の捕まり方がちょっと変わっていた。
彼女は綺麗に拭かれたパイプ椅子に腰掛けている。しかもお尻にはフカフカクッションもかましていた。しかし彼女の四方は、工場に置いてあったたくさんのダンボールで囲まれている。彼女の四方には高さ3メートルくらいのダンボールの壁が出来上がっている。彼女からは不良共のことは見えないし、その逆もしかりである。ダンボールの壁の外側にはドラム缶が置かれ、不良共がそこに上ることで壁の中のスミレの姿を確認できるようになっている。
ダンボールで周りを囲まれると意外に暑い。良く見るホームレスがダンボールを被って寝るのは理にかなっていることで、実はあれで寒さを防ぐ効果があるだ。しかし、今は十月なので昼にこれをされると暑い。
「ねぇ、暑いんだけど」スミレがそう言うと、二つのドラム缶にそれぞれ一人ずつ不良が乗り、上から団扇であおいであげるのだ。
「上からあおがれるって、何か変な感じがするんだけど」
フェミニストな堂島は、捕まえた女の子にも紳士的な対応を心がけている。こんな所に連れ込んで暑さで倒れられてはいけないので、こうして部下に団扇であおがせているのである。学校の制服スカートを穿くスミレ相手に、下からはもちろんのこと、対等な目線で扇いでもスカートがめくれてその下の素敵な薄い布が見えてしまうかもしれなので、堂島はこうして上からあおぐのを考えたのだ。
そして、彼女が脱水状態にならないようにダンボールの壁の上からジュースを渡してあげるのだ。グループで所有するクーラーボックスには、良く冷えた各種様々なジュースを取り揃えてある。
「ああ、美味しい」
こんなに待遇の良い人質はそうはいないだろう。