第五話 史上最大のメル友
お茶を飲み終えて一息ついたこしのりと丑光の二人は次の行動に移る。
「え~と、コレコレ、じいちゃんの手紙に書いていた呪文だ。これを巨神兵の前で唱えたら何かがおこるとか言ってたな」
こしのりはリュックから呪文の写しを取り出した。
「待ちなよこしのり。こういうのには準備がいるんだよ。呪文ってのはただ言えばいいわけじゃないのさ。まぁ見てなよ、魔術とかそこら辺のことに造詣の深い僕がサクっと呪文用の環境を整えてやるからさ」
そう言って丑光はここに来る途中にその辺で拾って杖代わりにしていた棒で地面になにかをガリガリと書き込んでいく。
「書けたぜ。あとはこれの中央に蝋燭を置いてと……そしてこのマッチで火を灯して……完成だぜ」
丑光は悪魔光臨でもするかのような魔法陣を地面に書いて、その真ん中に蝋燭を一本置いて火を灯した。彼にはやや中二臭いところがあり、この手の魔法陣などを書くのはお茶の子さいさいなのである。
「さぁ、こしのり この蝋燭の前に立ってその呪文を唱えるんだ」
こしのりは呪文を書いた紙を持って蝋燭の前に立ち遂に呪文を口にする。
「虻蜂取らず。俺はお前の熱きシュートを取らず!」
ドシン!
こしのりの近くにまた石が落ちてきた。
「え……なんか落ちてきたよ」
こしのりが言う。
「また、紙が一緒だ。読んでみよう」
丑光が石の下に敷かれた紙を拾って読む
(さっきも落としただろうが、呪文とかもういいよ。気づけよ上だよ)
二人は上を見上げる。巨神兵の顎が見える。
「……コレ、もしかしてアイツが喋っているの?」
こしのりが言う。
「……・ポイね……」
丑光が答える。
「う~ん、まだ分からない。よし試してみよう。お~いお前は巨神兵なのか~」
こしのりは巨神兵を見上げて大きな声で言う。
すると、またドシンと石が落ちる。こしのりが拾って読んでみる。
(そうだよ)
「はわわぁ…・・コイツはえらいこっちゃ……」
こしのりの手は震えている。
「はわわぁ……確かにえらいこっちゃ……」
丑光はもっと震える。
それから五分。
「落ち着こう、つまり奴は呪文とか無しの段階で俺達にコンタクトを取ってきたわけだ。するとじいちゃんの残したこの呪文は一体なんだったのだろうか」
「さぁね。僕の書いた魔法陣と家の仏壇からちょろまかして来た蝋燭も意味なかったわけだし、もう何でもいいよね」
「しかし、これでいよいよじいちゃんの話が本当だってことになったワケだから大変だ」
「そうだね。こいつが本当に破壊神だと言うなら君はあのスカートを穿いて闘わないといけないのではないか?」
「ああ、そういやあのスカートはあのまま蔵の中に閉まったままだな」
「今でもあれは光っているのかな?」
「さぁ、わかんないよ。でもあんなに光っているスカートなんて穿きたくないな。せめてケミカルウォッシュとかだったらな」
「君のおじいさんの代にケミカルはないでしょ~」
「それを言うならミニスカだってじいちゃん達の時代には早いんじゃないか」
「まぁ、アレは元々宇宙人がくれたんだろう。だったら地球の流行とか関係ないよね。その当時は宇宙人側でミニスカが流行りだったんだよきっと」
二人はこんな調子で恐らく自身の最大の敵になるであろうボスキャラを前にして、胡坐を組んで地面に座り緩いトークをし始めた。
ドシン!
二人の前にまた石が落ちる。
「お、また落ちてきた」
順応の早いこしのりにはこのやり取りももう慣れたものである。こしのりが紙を読む。
(我を前にしていつまで緩いトークをしておる 我を恐怖の巨神兵とわかってのことか)
「そうだよこしのり、コイツは恐怖の巨神兵なんだぞ。ゆるりと話こんでいる場合ではない」
「よし、丑光。奴に攻撃の意志はあるか聞いてみるぜ」
こしのりは巨神兵に向かって大声で言う。
「お~い巨神兵 お前は本当にこの世界を滅ぼすと言うのか」
こしのりが言い終わるとすぐ様ドシンと石が落ちて来る。
(さっきからうるさい。普通の喋り声で全部聞こえている。我の聴力をもってすればパリの痴話喧嘩だって聞こえる。)
「はぁぁぁ……コイツすげぇ~」
こしのりは驚く。
再びドシンと音がする。
「次は何だ?」
丑光が紙を拾って読む。
(いちいち紙に書くのメンドイからここにメールして それに石もあんまり無いんだ※※※※※※※※※※.co.jp)
「よし、メールしてみよう」
こしのりがガラケーに打ち込むとすぐに返信が来る。
(登録完了したよ。そっちも登録してね)
「わ、すごい。アドレス帳に巨神兵が入るとかレア 僕も送ってみよう」
そして丑光も巨神兵とメル友になった。
「ていうかどうなってんのコレ。巨神兵がメールってあれの上に誰か住んでるのか。あ、またメールだ」
こしのりの携帯に巨神兵からメールが来た。
(我はこの世界を滅ぼすために地球に来た。世界は必ず破滅させる。それは確かだ。しかし今は動かん。)
「何、今は……ではいつお前は動き出すと言うのだ」
(正確には今年の紅白を見てからだ。つまりお前達は来年を、西暦2018年を迎えずして滅ぶことになる。)
「え……紅白?何故に……」
(話しておこう。我はとっくに破壊活動を終えている予定だったのだが、この星でたまたま見た紅白歌合戦というお祭りが実に気に入った。今年のを見たら始めよう来年のを見たら始めようと思っている内にずるずると後に回して今日に至るのだ。しかしもう容赦はしない。何故なら去年を持ってスーパーアイドルグループMAPSが解散してしまったからだ。彼らを失ったことで紅白への未練が、この星への未練が絶たれた。最後に彼らを失ってから一年目の紅白がどれだけ空虚なものかその様を見届けてこの星とおさらばしようと思うのだ。ちなみに我が動き出して本気を出せば15分と掛からずこの街どころか地球だって消してみせることができる。)
「何、奴が破壊活動を渋っていた理由が紅白を見たいがためだったと言うのか。MAPSが解散していなかったらもう少しの間は無事だったのか。丑光今日は一体何月何日だったかな?」
「今日は8月10日だよ。こしのり、僕達に残された時間は少ないよ……」
遂にこしのりと丑光は史上最大の強敵巨神兵との対面を果たし、メル友になった。そして人類の残り少ない未来のカウントダウンが始まってしまった。