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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第四十五話 泥棒の忍び足と秋が訪れる足音には敏感な私のお耳事情

 第二回ミニスカ侍ミーティングが開催された日から二日が経過した。10月も中旬を向かえ、季節はいよいよ秋めいてきた。まとまりが悪いミニスカ侍達を仕切ってスミレが提案した留美の兄探しに素直に従った彼らは、各自で捜索活動を行っているが、特にこれといった情報は手に入っていなかった。そんな状況の中でこれからの季節、栗や銀杏を拾えると思うと丑光の心は嫌でも高まるのであった。

「とうとう来たね、秋」丑光が口にする。

「ああ、朝の内はちょっと冷えて、このスカートを履いても前ほど暑くないぜ」こしのりが答える。

 二人は制服ズボンの上に宿命のミニスカを履いて登校中であった。いつも通りの早すぎず、遅すぎずのだいたい授業開始五分くらい前に学校に到着する予定で彼らは動いている。

「ややっ!土の上に型紙を切ったのが刺さっているな」目ざとい丑光がそれを見つけて言った。

 土に刺さったそれを見てこしのりが言う「なになに、あっ、田代さんの名前が書いている。ここに拾った銀杏を埋めているんだな」

「ああ、例のカリスマホームレスの彼だね。全く仕事が速いや。あ~僕も銀杏飯が食いたいよ。おいしいから拾って家へ持って帰っても下処理が面倒だし、あとは臭いからということでお母さんに嫌がられて、結局作ってもらえないんだよね。僕はその時思ったよ。四の五の言わず銀杏飯を作ってくれる女性をお嫁にもらうべきだってね」銀杏を通して未来の嫁選びのポイントを抑えた丑光であった。

「そうだな。銀杏くらいで文句を言うような嫁じゃ困るよな」こしのりもこれには同感であった。

 二人はこのように全く勝手な理想のお嫁さん像を語っているが、実際、銀杏の扱いはとても面倒で大変なのだ。女性にあまり無理を求めてはいけない。


 学校の一次元目のチャイムが鳴った時、二人はちゃんと着席していた。

 図書館で借り溜めていた本を読破した後、根岸少年は学校に通うようになっていた。彼は確かにヒッキーをしていたが、多くのヒッキーとはヒッキーを始めた経緯が違うので、学校に来てからガチなコミュ症によって円滑な対人関係を築けないとか、学業に遅れを取るといった問題は抱えていなかった。というか皆勤賞のこしのりや丑光よりもよっぽど学校に、というか社会に適した人材であった。なんせ彼には多くの知識と教養が備わっているからだ。学校に登校してみれば、今までいなかった人間が急に登場したものだから当然クラスの注目を集めた。そして彼は、彼に興味を持って集まってくるクラスメイト達を上手いこと捌いていた。彼は少々自信家で偉そうな態度を取ることがあるが、それが良い具合に調子が押さえられたもので、決して周りを不快にさせない。むしろクラスの女子なぞにはそのくらいが丁度良い男らしさみたいに感じられて好印象を与えていた。引きこもりをする人間にしては図々しい物言いの中に毅然とした態度が見て取れることで、決して心の弱い人間ではないと周りに認識されていた。


「根岸君はさ、学校に出てきた日にあれだけ机の周りを人に囲まれながらも全く怯むことなく皆の問いかけにハキハキと応じたじゃないか。そしてあれから数日経って、すっかりクラスに馴染んでいる。まるで皆勤賞の者のように思えるくらいの馴染みっぷりだよ」離れた席の根岸の方を向きながら丑光が言う。

「そうだな。確かにあいつは馴染んでいるな。まぁ今までクラスに顔をださなったけど上手くやっていけるかどうか、とかを気にするような性質の奴じゃないよな」こしのりが返した。

「あれ、そう言えばスミレちゃんがいないね。こしのり、スミレちゃんを今朝見かけたい?」

「そう言えば見ていない。部活の朝練だってとっくに終わってるはずだ。今日は休んでるんじゃないのか」

「え、あの健康優良児のスミレちゃんが休みだって。それは俄かに信じられないな」

「おいおい、スミレだって人の子だぜ。十月の朝に腹でも出して寝てたら風邪くらい引くんじゃないのか」

「言われてみればそうかもね。彼女は昔からちょっと寝相が悪かったからね。しかし休むならLINEで何か言ってくれればいいのに」

 LINEと聴いて、グループに参加していないのを気にしているこしのりがちょっと不機嫌な態度を示した。


 そして、学校の昼休みに入った。

「おかしい。今日はどうしたのかLINEで聞いてもスミレちゃんからの反応がない」スマホを見ながら丑光が言った。

「風邪で寝てるんだろうが、アイツも子供じゃないんだからほっとけよ。いいから飯にしようぜ」そう言いながらこしのりは納豆をぐるぐるとかき回している。

「おい、こしのり学校で納豆なんて食うなよ、臭うだろうが」根岸が突っ込む。

「何がよ、なんか問題あるかよ」

「だから、そのニオイな。ホラ見ろ、あそこの女子がなんか嫌そうにこっちを見ているだろうが」

「何だって、おいそこのお前、何だコレが欲しいのか。分けてやるぞ」そう言ってこしのりは席を立ってこっちを見ている女子の方へ駆け寄って行った。彼はこういうテンションで周りにちょっかいをだすこともあったりなかったりその日の気分で変わる。

 こしのり、丑光、根岸の三人は机を合わせて仲良く昼飯を食い始めるところであった。

「心配性だな丑光、さっさと食おうぜ」そう言って根岸が開けた重箱の中には土上どのうえのお手製の料理が詰まっていた。白飯の上に振られた梅塩は綺麗なハートの形になっていた。

「うっ……土上の奴……よく分からないところでお茶目を出してくる……」

「君はまたメイドさんに愛されているね。羨ましいよ。だいたい学校のお弁当が重箱ってタダ者じゃないよね」

「わっ、これは豪華なおかず達、そしてきっと美味しいメイドさんのラブが詰まった一級品だな」まだ納豆をぐるぐるかき回しながらこしのりが言った。

「あ、こしのりお帰り。納豆減ってるじゃないか」

「ああこれね、こっちを見ていたあいつ、本当に納豆好きでさ、三分の一分けてやった。代わりにこの竹輪をゲットしたぜ」

 こんな感じでお昼休みには生徒同士のおかず交換が頻繁に行われている。おかず交換は他所の家庭の料理が味わえる貴重な機会なのである。

 こしのりが椅子に座り、ご飯に納豆をかけて、いざお口に運ぼうとしたその時である。スミレと同じソフトボール部に所属する隣のクラスの水野さんがやって来た。

「ねえ、今日スミレはどうしたの?連絡がないのよ。部にも学校にも無断で休んでるのよ。これっておかしくない」

「うむ、確かに……まぁ待て、全てを考えるのはこいつを食い終わってからだ」納豆ご飯をもぐもぐしながらこしのりが言った。


 






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