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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第四十四話 宵越しの「わからない」は持たない

 今回のお話は、いつにも増して作品の本筋を外れた内容である上に、前話、次話のいずれとも繋がりが無いので別に読まなくても大丈夫です。

 2017年10月中旬のある日の午後のことである。

 こしのりの自室では、暇な二人の少年が会話をしている。一人は部屋の主であるこしのり、もう一人は部屋の主でもなければ家の住人でもないのにも拘わらず異様な在室率の高さを誇るお隣さんの丑光である。


「ねえねえこしのり、最近LINEでキョンちゃんのヤツがさ、こんなおかしなことを呟くんだよね。ちょっと見てよ」

「おい、そのキョンちゃんてのはもしかしてこのLINEグループ創設者のあの巨神兵のことじゃないだろうな」

「ああ、そうだよ。楽しいLINEで巨神兵なんて呼ぶのも何だか物騒だし、もっと簡単お手軽でキャッチーな呼び方がないかなって皆で話し合った結果、キョンちゃんがいいよねってことになったのさ」

 LINEグループに参加していないこしのりは、丑光の言う皆の中には入っていない。


「お前らわかってるのか、仲良くお話してるコイツは俺たちの、というか人類の敵だからな」

「もちろんそれは忘れていないさ。しかしコイツときたら中々楽しいヤツでね。こうして皆と気軽にお話してるってわけさ」

「で、さっき言ってたキョンちゃんのおかしな呟きってのは何なんだよ」

 皆から仲間はずれにされてご機嫌斜めなガラケー所有者のこしのりが問う。


「ああ、それがこれなんだよ、ちょっとどういう意味か謎なんだよね」

「ふむふむ、マジまんじと……」

「そうなんだよ。まんじってなんだい」

「さぁ、なんだったかな……あっ、丑光がいつだか貸してくれた漫画にさ、主人公が死んで霊界に行った後に、探偵になって働くって話のがあったじゃないか。途中から霊界探偵ものからガチバトルものに代わったあの何とかって漫画、覚えてるだろ」

「ああ、もちろん覚えてるさ」」

「あの漫画にさ、額に卍って書いてある坊主のキャラが出てきたんだよ。あれが何か関係していないかな」

「おでこに書くおしゃれマークってことなのかな」

 二人はそんなことを考えていたが答えは出ない。


「なぁ、物知りの深町に聞いたらいいんじゃないか」

「ああ、それならもう聞いたんだよ。さすがの深町君でもこればかりは知らない、というか知ろうとも思わなかったみたいだよ」

「そう言えば深町のヤツ、例のローリングドラム缶事件の後遺症がやっと治って、今は学校に来れるようになったんだぜ。よかったよな」やや説明口調でこしのりがチーマー暴動の被害者深町少年の今を語った。

「本当だね。彼のいない僕たちのクラスなんて右脳を失った頭の中みたいなものだからね」

「分かりにくいし、何だか気持ち悪い例えだな」


「そうそう、このきんつばを食い終えたら根岸君の家に行こうと思ってたんだよ。そこで彼にでも卍の謎について聞いてみようか。なんたって彼は平成の世では絶滅危惧種となっている文学青年だからね、日頃から本なんて読んでる者には嫌でも知識が身につくからね、何か知ってそうじゃないか」こしのりの祖母が出した今日のおやつはきんつばであった。それをパクつきながら丑光はだらだらと語った。

「へ~何の用で根岸の家に行くんだ」

「ああ、実はね彼に借りた本を返しにいくのさ。失礼にも彼がね、お前はアホだから本を読むべきだと言ってこの本を僕によこしたわけさ」そう言って丑光は根岸に借りた本をこしのりに見せた。

「へ~。で、これどうなのよ。面白いわけ?」

「そいつがさっぱりなのさ。かしこまった言葉使いで遠まわしの表現をする本で、内容がさっぱり入ってこない。まぁ書き方が難しいんだな。時代を牽引するのはラノベなんて言われている今の世に、そんな数世紀前の本が、しかも僕たち若者に流行るワケがないよ。頑張って30ページくらい読んだんだけど、宿屋で偶然にも行きずりの若い女と相部屋になって手出ししない男は意気地がないと言ってることしかわからなかったよ。まぁ僕ならどこの誰だかわからない女に簡単に手出しなんかしないし、それを意気地なしと言うならおかど違いだし、何様だよ、としか思えないね」

「はぁ、そんな本かこれは。知らない女と相部屋ってのは確かにないわ~」

 根岸少年が丑光に勧めた名作は、こうして不名誉な品定めを受けたのである。


 きんつばを食い、熱いお茶を流し込んでから丑光が言う。「では行こうか、君も暇なら付いて来たまえよ」

 そして二人は根岸家に向かった。


 二人はメイドの土上どのうえに通されて根岸家二階の根岸少年の自室内に入った。根岸の部屋は壁も床も天上も全て白い。部屋は広く、十畳くらいあるように思える。部屋には大きな本棚があり、その中には本がぎっしり詰まっている。

「やあやあ、ありがとう。この本を返すよ。それにしても、知らない女の人と同室に泊まるなんて、そんな珍体験は時代が平成になった今でもまずありえないことだよね」

「これを読んで最初の感想がそれかよ」

 なんせ序盤の30ページ分しか内容を知らない丑光は、そこまでの感想しか根岸に語ることが出来なかった。

「しかし、君のとこのメイドさんみたいに綺麗な人が相手なら、ちょっとどうしようか考えてしまうね」

「あのなぁ、家の土上が寝ているのをどうかしようものなら、とりあえず骨を折られて痛みの中夜明けを迎えるだけだぞ」

「それもそうだね、土上さんは骨折マスターだったね。僕は辛いのと痛いのは勘弁さ」


 その時、コンコンとノックがあった後、部屋の扉が開いた。

「皆様、お茶とお菓子をどうぞ」メイドの土上の入室である。

「坊ちゃん、先程の言い方ではまるで私が病院患者量産マシーンのようではありませんか」

「お前、何で聞いてんだよ」

「丁度お部屋の前を歩いていてお声が聞こえましたので。それから丑光様、私は寝込みを襲う相手を、辛さも痛さも感じない方法で撃退することも出来ます」

「はぁ……それは……逞しいメイドさんですね」

「それではごゆっくり」土上は退室した。

「相変わらず独特の雰囲気の人だな」こしのりが言った。


「それで丑光、根岸に例のことを聞くんじゃないのか」

「ああ、そうだったね。根岸君に聞きたいことがあったのさ」

「ふむふむ、何だ、言ってみろ」

「最近、キョンちゃんを始め、多くの女子高生の間で流行っている言葉の『マジ卍』とは何だろうか」

「う~ん、確かに最近良く聞く言葉だな……・ちょっと待てよ」そう言って根岸は本棚を漁った。

「あっ、これだ。この本を見ろよ」根岸が本棚から探した一冊をこしのりと丑光の二人は見た。


「あっ、これは卍だ!」丑光が言う。

「確かに、まごうことなき卍」こしのりも続く。

 根岸が取り出した本のタイトルは「卍」であった。


「コイツは、大昔に書かれた本だ。この作家は女という生き物に焦点を絞って、その本質を描く特徴的な作風を……まぁ難しいことは止しておこう。とにかくだ、恐らくはこれを読んだ最近の若者が、SNSか何かでこれの魅力を広めたんじゃないか。レトロゲームやチェキなんていう掘り起こす必要もなさそうな人類の古びた遺産が再ブレイクしている昨今だから、こういった昔の本にまた火がつくのもおかしい話じゃないだろう。それでテンションが上がった時に、何となく最近読んではまった本のタイトルである卍を口にするんだろうよ」根岸は世のブームと照らし合わせて見事卍が流行る理由を推理してみた。

「なるほど、言えてるね。さすが根岸君、何でも知ってるね」

「何でもだなんて止せよ、俺は知ってることしか……いや、この先は言わないでおこう」

 何だか納得しきっている二人を見てこしのりが言う「いや、あってるのかソレ」

 

「丁度いいや。この間学校で出された、課題研究のテーマにこれを使おう。謎についてのテーマとその答えはもう見つかったんだから簡単にことが運ぶぞ」

 唐突に丑光の課題研究テーマは「マジ卍って何?」ということになった。


 そして後日の学校の昼休み、丑光は担任の羽島に呼ばれて職員室に来ていた。

「丑光、確かにこれは画期的なテーマにして突飛な分析だと思う」羽島は言った。

「でしょう先生。個人的には会心の出来だと思うんですよ」目を輝かせて丑光が言った。

 羽島は両手で頭を抱えてこう返した「ただ、これは違うと思う」

「えっ……」丑光はフリーズした。 


 以上、今日の謎は今日の内に片付けるを心情に生きる丑光少年の青春の一ページでした。

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