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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第四十三話 とりあえず形だけでやってるような会議ならさっさと止めちまえ

「は~い、前回のミーティングは脱線に脱線を重ねた末、皆でソガジュピターをして遊んで解散したという平和で間抜けな結果に終わったので、早いスパンではあるけど、二日ぶりで第二回目になるミニスカ侍ミーティングを始めたいと想います」

 前回=一昨日の反省をきっちり行ってから、第二回目のミーティング開始の挨拶をしたのは我らがこしのりである。今回もミーティング会場はこしのり宅二階のこしのりの自室である。丑光、室、根岸の三人も揃っている。


「いや~それにしても昨日は白熱したよね。根岸君なんかお坊ちゃまなのに、あんなにテレビゲームに夢中になっちゃうなんて驚きだよね」丑光が言う。

 これに根岸は「あんなに古いゲームなんて家にはないから珍しかったんだよ。しかし、古いなりに面白かったぞ」と返す。

 横向けの姿勢で寝転んでいる室が「ははっ、ゲームに夢中になるあたり、まだまだお前らも子供だよな」と言った。彼はミニスカを穿くことでリアルの熊からゆるキャラのような可愛らしい見た目に変身しているが、熊の年齢ではおじさんであるので、こしのり達十代の若者などはまだまだガキに見えているのである。


「それよ、それ!あんた達のその無駄話がいけないのよ」

 ここで登場したのは、ミニスカ侍達の事情を良く知るスミレである。前回のミーティングを反省して、四人いて誰も司会として話を回せないのが、円滑に議題を進められなかった原因ではないのかと気づいた一同は、冷静なる第三者を置こうと決めたわけである。そこで白羽の矢が立ったのがしっかり者のスミレちゃんであった。


「だいたいね、こしのり!それから丑光!あんた達は昔っから全く中身のない会話を、これといって盛り上がる訳でもなくだらだらといつまでも続けるでしょ。今回は最初からゴールを決めて、その上で話を進めるの。わかったわね!」


 一同、しばらく声が出ない。


「じゃ、じゃあ始めようか」こしのりが口を開いた。

「話はだいたい決まってるじゃない。巨神兵を倒しにいくのか、仲間集めをするのか、留美ちゃんのお兄さんを探すのか、でしょ」こしのりの後にスミレがすかさず言った。

「……うん、そうだね」こしのりがそう返した。


「仲間は待ってても出てこないし、探すにも方法が分からない。これを第一目標に動くのは時間を無駄にしかねない。四人で巨神兵に殴りこもうにも、正直言ってあんた達四人で何ができるの?としか思えない。ここでだらだらしてるなら留美ちゃんのお兄さんをなんとかした方がいいんじゃない」

 スミレに話をまとめられてしまった。


 こしのりが口を開く。

「……そうだね。そうなると思ってここに留美を呼んでま~す。はい、入って」


「こんにちは。なんだかすごい話合いになってるんですね」

「おっ、本人登場や。わいは室、こうして会うのは初めてやな。よろしく~」

「わぁ本当に熊さんだ~。モフモフしてる~」

 初めて見る一応本物の熊に少女はすっかりアゲポヨになっている。なお、こしのりを覗いたこの場にいる者達は皆LINEで繋がっているので、会ったことがなくてもお互いを認識している。


「うんうん、こうして女子に触られるのは初めてだが、なかなか悪くない気分」

 室はご機嫌である。


「いらっしゃい。皆揃ったからおやつにするね」

 おやつの乗ったお盆を持って普通に部屋に入って来たのはこしのりの祖母である。孫達の、というか若い連中を見ると仲間に入りたがるこの婆さんは、おやつを持ちこんだままこしのりの部屋に居座るつもりでいた。


「今日は最中じゃないか。いやコレが美味いんだよね。歯とか口の中のどこかしらに生地がくっ付くのを熱いお茶で喉へと流し込むあの瞬間がすっきりしていいんだよね」丑光が食う前からレポートをはじめた。彼は発祥の地を問わずスイーツなら何でも大好物である。


「熱いから気をつけてね。あら、あんたは初めて見る子だね」

「留美と言います。よろしくお願いします」

「ふふ、留美ね。私がかつて数々の名前を使い分けていた頃、三番目に多く使っていた名前が留美だったよ。お爺さんと知り合った頃の私は留美だったのよ」

「はぁ……数々の名前を……」

 接客で会話に慣れた留美でも、こんなおかしなことを言ってくる婆さんには一体どう返したものかと困った。


「おいおい婆ちゃん、また訳のわからないことを言うなよ。それにこの前、三番目に多く使っていたのはルリ子だって言ってたじゃないか」

「そうだったかね。なんせ新世紀が明ける以前のことじゃからよく覚えてないよ」


「モグモグ……じゃあそういう事で明日から留美ちゃんのお兄さん探しってことで。写真とか持って街を駆けずり回りなさい」最中を美味そうに頬張りながらスミレが言った。

「はいはいスミレちゃん、美味しいお茶をどうぞ」

「ありがとうおばあちゃん」

 こしのり祖母からお茶を受け取ると、スミレはそれをごくごくと飲む。


「おい、さっきの物言いといい、食いっぷりに飲みっぷりとまで豪気な女だな」

「ああ、君の家のお母さんやメイドさんとは随分タイプの違う女性だと想うけど、スミレちゃんみたいなのも見ていて悪くないだろう」

「それにしても、この四角い菓子が最中か、初めて食うんだけど」

「わいもこんなん食うの初めてや、なんせ熊だしね」室が口を挟む。

「何だって?熊はともかくお坊ちゃまは最中を食べない内に義務教育時代を終えたのかい。君、それは損だよ。こんなに美味いのに。ささ、良い経験だから味わって食べるといい」

「うまい!」根岸と室は同時に言った。


 今日は世界の行方がどうなるかという大事なミーティングをするために皆が集まったのだが、こともあろうにミニスカ侍でない外野の、しかも女子の一言でミーティングはさっさと決着がつき、今は皆で菓子を食いながらわいわいと楽しくお喋りをしている。

 

 これを見てこしのりはこう呟く。

「おいおい、俺の部屋はお茶会の会場かよ」


「ちなみに私の守備位置は外野でなくピッチャーだからね」

 ソフトボール部のスミレが誰に聞かれるでもなくそう口にした。

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