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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第四話 自販機のジュースも良いけどやっぱりおばあちゃんの淹れたお茶が一番

 運命の崖を後にしたこしのりと丑光の二人がたっぷりと体を休めて迎えた次の日のこと、二人は遂に巨神兵と対面する決心をしたのだ。蔵の中で光輝くスカートを発見してから二日後のことである。


 巨神兵がある場所もまた二人の天敵である坂道を上った先にあった。かつて学生マラソンで鳴らした物語の筆者からすると屁でもないちょっとした坂道が、若さの盛りである齢15の少年のくせして不摂生のために体力がまるで備わっていないこの二人にはかなりしんどいのである。我が紡ぎし物語の登場人物がこうも情けないとは、私の心の痛むところである。


「なぜ坂?」

 誰に答えを求めるでもなく丑光が不満を漏らす。


「ホント、なんでだろうな。山に登る理由がそこに山があるからと答えるクライマーの話をどこかできいたことがあるが、彼らはその前になんで坂道を登らなきゃいけないのかと考えないのだろうかという何だか不思議な疑問が浮かび上がってきたぜ」 

 こしのりは疲れのためか、哲学的とも言えなくは無い、深いような浅いようなことを考えていた。彼は割りと論理思考なのである。覚えておきたまえ。


 まだまだ日中は鼓膜を裂く程の勢いで蝉が鳴きまくる時期である。割りと細身の二人でも五分ばかり外につっ立っていれば滝のように汗をかく。そういうわけで二人は汗を頬に伝わせ顎から落としそれぞれの滝を作っている。


「熱い、熱い。今が夏という設定を忘れていたよ」

 丑光が設定とか言う。


「設定とかいうなよ、お前」

 こしのりがフォローを入れる。


「こしのり、僕はね。いつぞやのパソコンがネット接続出来なくて死ぬほど暇だった日に、お父さんが枕代わりに使っているとある作家のとある本を読んだことがあるんだ。その本はね、友人同士の男二人が比叡山を登っているところから始まるんだ。あれを読んだ時に僕は男二人で山に登るなんて、そんな暇の潰し方があるかねってほとほと思ったわけんなんだよ。それを受けて今の僕らはどうだい。あれと同じことをやっているじゃないか、僕は悲しくなってきたよ」

 丑光の愚痴はどうでもいいが本を枕代わりにはしてはいけない。そして彼らが登っている坂道は比叡の山と比べると俎板まないたのようなものである。


「わかるぜ、その気持ち」

 本当は何もわかっていないが、コイツ面倒臭いと思ったこしのりは適当に返事をしておいた。


 それから丑光が愚痴を言う事10分間の後に巨神兵の前についた。


 巨神兵は街の中央に位置するやや土地の高いところある。巨神兵の周り1キロ程は道路も無ければビルもない。巨神兵の周りは砂地が広がるばかりである。普段から人はほとんど近づかないが街を象徴する一応の観光スポットではあるので巨神兵のすぐ側に自動販売機が一台のみ置いてある。街に置かれている全ての自動販売機の中でここの売り上げが最も少ないという結果が出ている。


「いや~ 一仕事してしまいましたな~」

黄ばんだタオルで汗を拭き拭き丑光が言う。コイツは今のところ愚痴を漏らす以外は何もしていない。


「やや!こしのり氏 ここに見えるは清涼飲料水の無人販売機ではないか。カラカラに干からびたお口の中を冷たく甘い水で潤わせたいものだね。どうだろうか半額ずつだして分けっこするというのは」


「ダメだな。俺にはおばあちゃんが持たせてくれたこの冷たいお茶がある。これがあるのに飲み物を買ってお茶を腐らせたりしたらおばあちゃんと茶摘農家の方々に申し訳が立たない。……しかしどうしてもお前が自販機のジュースが欲しいって言うなら半額出すのは良い。だが、分け前は半々じゃダメだ。俺が3分の2頂く。それならいいぜ」


 丑光のうざい口調にちょっと腹が立つが、こしのりの提案もかなりエグい。


「こしのり氏……そなたも悪い策士よのぉ……」

「どうする。俺は別にどっちでもいいんだぜ。ばあちゃんのお茶だって美味さと冷たさではそっちのジュースには引けをとらないぜ」

 こしのりは保温に優れるはチーター魔法瓶に冷たいお茶を入れている。


「くっ……キツイなぁ……今月はゲームやアニメのブルーレイボックスを購入したために金もピンチなんだよな。全額払って全部ジュースを飲むか、半額払って3分の1飲むか……ああ、我ながらなんて小さな問題で頭を悩ませているんだ」

 丑光は頭を悩ませたために先ほど拭いたばかりなのにまた頬に汗を伝わせている。


「ふふ、悩んでいるな丑光。お前は何時だって悩んでいる。学校じゃ悶々丑光なんて不名誉な呼び方をされているのは知っているか」

 そう言いながらこしのりはここまで背負って来たリュックから何かを取り出す。そして下を向いたままぶつぶつ悩んでいる丑光の頬に取り出した何かをピタっとくっ付ける。


「ひゃああ!冷たい!」

 丑光はびっくりして叫ぶ。


「これお前のだよ。ばあちゃんに頼まれたんだ。丑ちゃんにも飲ませてやりなってさ」

 丑光はこしのりが頬に押し当てたそれを受け取る。


「はぁぁぁ……コレは……チーター魔法瓶じゃないか……おばあさんは僕の分もお茶を用意してくれたのか、そして君はここまで重たいのにコレを持ってきれくれた……」


「丑光、一緒にばあちゃんのお茶を飲もうぜ。自販機のジュースなんてわざわざ高い金払って買うことないさ、お前が今月厳しいことは知っているよ。その金は取っときな。さっきの悪い冗談は忘れてくれよな」

 

「こしのり……君って奴は……なんていい奴なんだ。さっきは悪魔みたいな提案をしておいてこの逆転はないぜ。僕が美少女学園マドンナだったらコロリといっちまってるところさ」

 こしのりはおばあちゃん子で本当はとても良い奴である。丑光はこしのりとおばあちゃんのやさしさに感謝しながらおいしいお茶を飲み、このおいしいお茶の葉を製造した農家さんにまで感謝した。感謝する心、忙しい世の中でもこのことは忘れてはいけない。

 

 二人がごくごくとおいしいお茶を飲んでいるその時、空から何かが降って来てドシンと音がする。


「ええ!何、あそこになんか落ちたよ」

 突然の飛来物にビックリして鼻と口からお茶を垂らした丑光が言う。


 二人から5メートル程離れた地面に成人男性の拳骨よりちょっと大きいくらいの石が落ちている。石の下にはノートの切れ端が敷かれていた。それをこしのりが拾って広げてみると字が書いている。


(二人で気持ち悪いやり取りしてんじゃないよ)

 紙にはそう書かれていた。


 「え、何コレ どうゆうこと」

 こしのりは謎に思い空を見上げた。彼が見上げた先には巨神兵の顎部分が見えた。

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