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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第三十八話 良い仕事をするなら、良い魂を持って行うべき

「いや~助かったよ。しかしお見事な腕前だったな」

「いえそれ程でも。お怪我はないようですね」

「ああ、なんてことないさ。数が多かっただけで単体ではたいしたことない奴らだったからさ」

 一時はどうなることかと思ったが、我らがこしのりはメイドの土上に助けによって五体満足で本日を終えられそうである。


「それにしても根岸君達は一体どうしてこんなところに?」と丑光が問う。

「ああ、今日は図書館に本を返しにいってたんだ。たくさんあったから重かったよ」

「それで私は坊ちゃんのお供をしておりました」


「お前らと別れて数日でもうこんな面白いと言うか、厄介なことに巻き込まれているとはな。たまたま通りかかってよかったよ」

「本当だよね根岸君。このこしのりはあんなチーマーを相手に喧嘩を売るんだから」

「おい丑光、それは違うぞ。俺は喧嘩に関しちゃ買取専門だ。しかも高価買取のみだぜ。深町をやったことで仕掛けてきたのは向こうなんだよ。で、こっちで高く買い取ったんだ。ちょっと作戦ミスだったけどな」

「全く根岸君達が通らなかったらどうなっていたことか」


 土上が言う。

「彼らはこのあたり一体を縄張りにする不良グループ『子子子子子子子子子子子子』の者でしょうね」


「は?ちょっと聞き取れなかったのですが、ゆっくりはっきりもう一度グループ名をお願いします」と丑光が言った。

「子子子子子子子子子子子子です」

「読めない……」丑光は困っていた。


「いいかお前ら『子』の字を十二個ならべて『ねこのここねこ ししのここじし(猫の子子猫 獅子の子子獅子)』と読むんだ。このややこしく長ったらしいのがあのチンピラ共のグループ名というわけだ」

 根岸はスマホに字を打ちながらこしのりと丑光に説明した。


「へぇ、そうなんだ。なんだか面白い言葉遊びだね。しかしさすがは文学青年。色々と詳しいね」丑光は物知り根岸少年を褒めた。

「いや、これは文学とか何とか言う概念が起こるよりも前の古き日本の嵯峨天皇という人がだな……まあその辺のことはいいだろう。ネットででも調べてくれ」


 根岸がここまで話終えたその時、港の一本道の向こうから走ってくる人物が確認できた。

 

「こしのり~!丑光!どこ~」

 伸びのあるよく通る声で叫ぶその人物はこしのり達には最初小さく見えていたが、すごいスピードで近づいて来てどんどん大きく見えるようなる。


「こしのり!丑光!あんた達大丈夫!怪我はないの?」

「あ、お前かよ」

「やぁスミレちゃんじゃないか」


 すごい速さでこしのり達を追ってきたためスミレは肩で激しく息をし、そろそろ成長してきた彼女の胸部の二つのお山が彼女の呼吸と共ににわずかに膨れて萎んでを繰り返すのが目で確認できた。そして頬を流れて首を伝いセーラー服の中へと消えて行く彼女の汗の輝きもよく見てとれる。そのセーラー服も走ったためにわずかに着崩れているのが天然にして健全なるエロスを漂わせてる。しかし、そんな艶っぽく見える彼女のイメージを一気に壊したのが彼女が右手に握る角材の存在である。こしのりが持ってきた角材があったのと同じ場所から勝手に拝借してきたようだ。しかも花の女子高生がそれを武器としてだ。

 

「やぁスミレちゃんじゃないわよ!」

 暢気な丑光に怒って彼女は角材を握った右手を振り上げた。

「ひゃあ!ごめんよ!やめてよ、それを降ろしてよ」

 角材にビビリまくって丑光が言った。


「お前どうしてここがわかったんだ。そして何だその物騒な物は。危ないじゃないか、降ろしたまえ」

 ちょっと前まで自分もその物騒な物を武器にして敵と闘おうとしていたのに何もなかったのごとく冷静にこしのりが言った。


「いつも学校が終わってもダラダラしているあんた達が一番に教室から飛び出すのはおかしいと思ったのよ。そしたら事情を知っててあんた達を心配したA君が私に全部教えてくれたの。で、助けに来たわけ」

 だとしても女子高生が迷いなく武器に角材をチョイスするのはいかがなものかとこしのりは思った。


「もう、終わったよ。俺たちもこれから帰るところさ」

「終わったの、よかった~」

 こしのりの言葉に安堵してスミレは角材を地面に落とした。


「おいおい勇ましい女だな。家の土上といいポイズンマムシシティの女は血の気が多いみたいだな」根岸が言った。


「ああ!スカートを穿いてる。じゃあこの人が根岸!それにあのメイドさんもいる」

 心配のあまり根岸と土上が眼中になかったスミレは落ち着きを取り戻してやっとその存在に気づいた。


くんをつけたまえよ」

「私は根岸家メイドの土上と申します。なかなか勇敢なお嬢様ですね。でももう安心して下さって結構ですよ」 


「まったくコイツはじゃじゃ馬だな」こしのりが言った。

「ふぅ、やっぱりスミレちゃんのこの感じが落ち着くよね」まったりして丑光が言った。


 皆がいたのは港の倉庫の前であった。そこからいかつくて顔の四角いおじさんが出て来た。

「あ、いた!おいお前ら大事な商売道具を勝手に持っていくとはどういう了見だ!」


「は?」こしのりはポカンとして言った。

「それだよ、それ。角材だ。ウチの若いのがガキが大事な角材を持っていっちまったと困って連絡してきたんだよ。早く返せ」


「これはこれはどうも失礼しました。すぐに返しますよ」こういう時にやたらとペコペコする丑光が謝った。


 それからちょっとの間、職人のおじさんの説教が続いた。


「お前らが喧嘩に使おうとしたこれはな、人様の住む家を支えるための大事な役割をする木なんだ。いいか、これは人の生活を支える物であって人の体を壊すのに用いるような下品な代物じゃないんだ。俺たちの商売を安く見ちゃ困るぜ」

「おっさん、まったくその通りだ。俺は純粋に深町の仇を取ることだけ考えて動いた。しかし、おっさんの話を聞けばこれはもう言い訳の余地なく全く俺が悪かった。この通りだ、勘弁してくれ」

「この通りで行くならまずおっさん呼ばわりは止めような。俺はまだ三十代前半だ。おっさんはちょっと胸にズキリと来るからな」

 おっさんは丁度ナイーブなお年頃であった。


「しかし、そっちの姉ちゃんは男を助けるために迷いなくコイツを持っていったとはな。そりゃ俺はこの角材が傷つくことでもあれば困るわけだが、姉ちゃんの肝っ玉のすわってるのにはちょっと感心しちまったな。こんな無茶も愛がなせる技か。はっはは~」

「はっはは~スミレちゃんは愛の人ですからね~」おっさんの調子に合わせて丑光が笑った。


「もういいだろう。俺は帰るぜ、またな」

「では失礼いたします」

 根岸と土上は引き上げる準備にかかる。


 去り際に土上がスミレに寄って来て言う。

「お嬢様の勇敢さには確かに感服いたしましたが、あなたはか弱いレディですからくれぐれも無茶はなさらないように、どうやらあなたは皆さんから愛されているようなので」

「はぁ……」スミレはそうとしか答えられない。


 そして根岸と土上は帰って行った。


「おい坊主共、いいのが入ったんだ。持っていきな」そう言っておっさんがこしのり達に渡した土産は大きな袋に入っ煎餅せんべいであった。


「ありがとう。良い家を作ってくれよ」こしのりが言った。

「へん、言われるまでもねぇ。そのために尽力するのが俺たちの仕事で生き様よ!」


 職業人の高潔さを目の当たりにして満ち足りた気分になったこしのり達は煎餅をバリバリやりながら帰に就いた。


 突き刺さるかのごとく顔面を照らす西日を手で遮りながらこしのりは言う。

「ああいう職人になるのも悪かねぇな……」


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