第三十三話 想い出パシャリ
「奥様、坊ちゃんをご覧下さい。ちょっと可愛いと思いませんか」
「あら、あなたもそう思いますか。実は私もそう思っていたところなの」
メイドの土上と根岸夫人は第四のミニスカ侍根岸少年を取り囲んでわいわいやっていた。
「やめろ、恥ずかしい!」根岸少年は照れて言う。
「やあやあ、遂に出てきたね第四のミニスカ侍。しかし僕としてはそろそろニューヒロインの登場を期待していたのだが、まぁ仲間が増えたのならこの際何でもいいね」丑光は能天気に言った。
「確かにミニスカ侍ってミニスカなのに今のところ男だけだな。そこのメイドさんの方がよかったかもな」根岸少年に聞こえないようにこしのりがコメントした。
「坊ちゃん、この際上も女性の服を着てみてはいかがですか。きっとお似合いになりますよ」
「ああ、土上さんそんな……いけないことの様な気がしますけど、息子のそんな姿も見てみたい自分がいるわ」
女性陣は根岸少年のミニスカ姿に思いの他盛り上がっている。器量の良い母親似の彼はちょっぴり女子寄りの可愛らしい顔をしているとも取れる。
「では根岸君、君も我々の仲間になったからには我らが怨敵巨神兵のメールアドレスを登録しておきたまえ」携帯を取り出しながら丑光が言った。
「は?巨神兵のメルアド?どういうことだ」根岸は常人なら抱いて当然の疑問をぶつけた。
そこへこしのりが割って入る「ああ、そこらへんの説明はしていなかったな。まあこういうことさ」
学はそれ程無いにしろ、ものの説明をするのは意外にも上手なこしのりは根岸少年が十分理解できるように巨神兵について色々と話して聞かせた。
「なるほど、どうも人間臭いところがある奴だな。謎が謎を呼ぶってのはこんあ具合を言うのだな。奴についての情報をもらっておいて余計に得たいの知れない奴だとわかったよ」理解が早い根岸少年はすっかり納得している。
「あ、さっき送ったメールがさっそく帰ってきた。なになに……」根岸少年は巨神兵のメールを読む。
(四人目だね、おめでとう。そろそろ陽も暮れて庭で騒ぐのは近所迷惑になるから片付けを始めた方がいいと思うね。 P.S.オマールエビは我も好き也)
「え、何コレ……」根岸少年ビックリ。
「でだ、話は変わるが、君はこれからは学校に来るんだろうね。僕らの本来の目的はそっちなんだよ」そう言えばそういう目的でこのバカ騒ぎが始まったことを気づかせる一言が丑光の口から発せられた。
「ん、まぁ適当に行くもの良いだろう。ある程度お前達と行動を共にしておかないと色々の情報が得られない。それにアイツを叩くならいつまでも家にこもってもいられない。とりあえず2017年の内はあの巨人の像を倒すという目的があるから、そのためなら動こう」
「聞きましたか奥さん。とりあえず今はミッション成功でよろしいですよね。来年から彼が学校に行くかどうかなんてことを今言ったところで鬼が笑いますよね、ははっ」暢気に笑いながら丑光が言った。
「まあまあお二人には随分骨を折ってもらってご迷惑をおかけしました」
「いえいえ奥さん、これからはお宅の根岸君を僕らの仲間としてお借りすることになるのでその辺りのことはどうぞよろしく」
「おいおい、お前の相棒は随分調子の良いお喋りをヘラヘラしながらペラペラとするじゃないか」根岸少年はこしのりにそう言った。
「まあな、それが奴のいいところさ。一見軽薄な感じに見えるが、捨て猫とか買ったばかりの襟のタグを取り忘れたままの服を着たはずかしいおしゃれさんなんかを見かけたら放っておかれない良い奴さ」丑光を良く知るこしのりがそう返した。
「確かに捨て猫とかタグつけっぱの人なんかは見つけたら放っておく方が罪悪感を抱くよな。かといってそこに手を差し伸べるにも勇気がいる行動だ。お前の言う通りなら奴は偉いよ」根岸少年はなかなか出来ない親切を行う丑光に対して親しみを感じた。
「では奥様、ミニスカ侍さん三人と私達で写真をとりましょう。きっと良い想い出になります」
「いいえ土上さん、既に今日のことは私の良き想い出になっているわ。若いお二人とお茶を出来たのも楽しかったし、息子が学校に行くことを約束してくれました。こんな良い日はありません。でも写真はちゃんととりましょう」
土上は三脚を用意し、その上には写真愛好家の根岸夫人お気に入りのちょっとお高いカメラがセットされた。
「よ~し、じゃあせ~ので右腕を上げてファイア~のポーズで行きましょう。これが僕らミニスカ侍流です」と丑光が言う。
「おい、何がミニスカ侍流だよ。今決めたんだろうが」こしのりが言う。
「俺は撮るなんて言ってないぞ」根岸少年は乗り気でない。
「坊ちゃん、さぁ真ん中にどうぞ」
土上に押されて仕方なく彼は真ん中に立つ。
「息子と写真なんて久しぶりかしらね」根岸夫人も貴婦人の割りには庶民的ノリに楽しげに乗っかってくる。
右から土上、丑光、根岸少年、こしのり、根岸夫人の順番で立った。そして根岸少年の足元には愛犬ドミニオンがカメラ目線で横たわっていた。
「来るよ来るよ、さあ、3、2、1、せ~の、ファイヤ~!」
丑光のカウントでドミニオン以外の皆が握り拳を作った右腕を高く突き上げた。その瞬間、陽も沈んですっかり暗くなった根岸家の庭がパシャリの音と共に一瞬明るく光った。記念の一枚の出来上がりである。