第三十二話 第四のミニスカ侍はベストセラー作家の卵
白い煙のその向こうには強火で焼かれる赤く硬いボディが見えた。その男は今、良く焼けたそいつの殻の中のジューシーな身を頬張っている。これにはクールな彼の厳しい相好も脆く崩れてしまう。
「うまい!」その男根岸は好物オマールエビの美味さに感激の一声を上げた。
「いやいや、いい食いっぷりだね。見ていても気持ち良いじゃないか」根岸の右側に立つ丑光が言う。
「どれどれ、俺も頂くか」そう言ってオマールエビに箸を伸ばす根岸の左側に立つ男はこしのりである。
根岸は思う。
……俺としたことが、土上の焼くオマールエビとスカート男の片割れが団扇で運ぶ良い匂いに誘われていつの間にか庭に出てきてしまった。そして今は知らないミニスカ男二人に挟まれている。コイツら誰なんだ
「坊ちゃん、こちらは奥様の落とした財布を拾ってくださったこしのり様と丑光様です。そして坊ちゃんのご学友の方々でもあります」メイドの土上が根岸少年に説明する。
土上め、また聞きもしないのに絶妙なタイミングで話かけてきた。びっくりするじゃないか。
「すいません坊ちゃん。坊ちゃんがこちらの方々が誰なのか不思議そうに見ていたのもので」
「はは、まぁそういうことで僕らは同級生なのさ、僕は丑光よろしく」
「俺はこしのりだ」二人は気さくに自己紹介した。
「僕らは会って間もなけいど、こうして同じ釜ならぬ同じ網の上の飯を食った仲なんだから、これからも仲良くしようじゃないか」丑光は実に友好的な男である。
「はは、お前坊ちゃんて呼ばれてんのか。てかエビうめぇ~」エビにむしゃぶりつきながらこしのりが言う。
「お二人はあなたのために来てくださいました。さぁあなたも自己紹介したらどうです」根岸夫人が息子に言う。
「さぁ、俺のために何をしにきたのか知らないが、まぁご苦労なこったな。俺は根岸。しかし何だってお前らはミニスカなんて穿いているんだ」
これにこしのりが答える「まぁそいつはこいつでも飲みながらゆっくり話すことにしようや」言いながらこしのりは片手で持った瓶のコーラをを根岸少年の前に差し出した。これに答えて根岸少年はコップを瓶に近づけてこしのりがコーラを注ぐのを待った。
「いやぁ奥さんにメイドさん、この肉にしろ野菜にしろ全部美味いですね。そうだ、お土産に持って帰ってもいいですか。室やスミレちゃんには食べさせてあげたいな」丑光は安定の図々しさを持ってそう言った。
「どうぞ、こちらで入れ物を用意しますから。財布を届けて下さったもう一人のお友達にもよろしくお伝えください」根岸夫人は丁寧に答えた。
それからこしのりはミニスカのこと、巨神兵のことを根岸少年にゆっくり説明し始めた。食べることに集中するばかりの丑光はたまに口を挟むのみであった。
「そうか、やはりそうだったのか。俺はあの巨人の像には何か秘密があるんじゃないかってずっと思っていたんだ。まさか破壊神であったとは。しかし2018年までそんなに時間がない。お前達に打つ手はあるのか」
「いや、いまのところは何とも。ただ、あと三枚あるミニスカの適合者を探しているんだ」こしのりがそう答えた。
「これは面白い。お前達が本当にこの事態を何とか切り抜けて無事に2018年の夜明けをこの街に届けてくれたなら、俺はいつかお前達ミニスカ侍の伝説を本にしよう」
「何?僕達が本に、伝説にだって!」肉を食いながら丑光が話に割ってはいる。
「ふふ、いいねそれは。僕もせっかく生まれたからには何か一つ伝説を作ってこの世を去ろうと思っていたところなんだよ。君が僕達のことを描く未来が来たその時には、君はベストセラー作家になり僕達は伝説になるわけだ。ああ、来る栄光の未来が楽しみじゃないか。あっ、メイドさん肉の追加おねがいします」
「かしこまりました丑光様」
テンションを上げて喋る丑光の横で土上は手際よく肉を焼いていく。
「じゃあ、栄光あるミニスカ侍に乾杯だ!」根岸少年がコーラの入ったコップを手に音頭をとる。
「じゃあ、あれやるぜ丑光」こしのりが言う。
「ミニスカ侍~」こしのりの掛け声に丑光が続く「ファイア~!」
そして三人はコーラで乾杯した。
気持ちよくコップがぶつかった音がそろそろ陽の隠れかかった夏の空に響いたその時である。一筋の閃光が空に走った。その光はすさまじい速さで空を駆け根岸家の庭に向かう。
「ん、なんだ、うわ!こっちに来る」驚いて後ろに倒れた根岸少年の胸に突き刺さるようにしてその光は空から落ちた。彗星のように光が尾を引いて空を走っているように見えたので先の尖ったものが根岸少年に刺さったかのように思ったその場の者達は一瞬ヒヤッとしたが、間もなく落ち着きを取り戻す。なぜならその光の正体が例の物だったからだ。
「おいおい、噂をすればだぜ。俺の家の蔵から飛んできたのかよコイツは」そう言ってこしのりが根岸少年にぶつかった光を指さした。それは光輝くミニスカであった。
ミニスカは金色の光をまとい根岸少年の周りを飛び回ってはドンとぶつかる行動を繰り返し行っている。いいから私を穿け、とでも強く主張しているように思える。
「なんだ、これは。俺の周りを飛んで離れない」根岸は困惑する。
「わかったよ根岸君」ここぞで分析力の冴える丑光がゆっくり口を開いた。
「君は先程僕らと乾杯したね。僕達が打ち解け合ってそれを行った時、着用者の僕とこしのりを介して二枚のミニスカが君を気に入り戦士として認めたんだよ。そしてこしのりの蔵に眠るミニスカをここまで呼び寄せた。そういうわけさ。どうだいマルッと納得のいく説明だろ」
「お見事です丑光様」メイドの土上は名推理にとりあえずお褒めの一声を入れた。
根岸少年が庭を走ってもどこまでもミニスカは飛んでおいかけてくる。
「ミニスカが『私を穿いて!』とでも言っているように思えるね。そいつは君に足を通してもらって君の股を覆い隠す役を担いたくて仕方ないって言っているぜ」丑光はアフレコしながらミニスカの気持ちの代弁する。
「さぁ、根岸穿くんだ。そうすりゃ俺たちの伝説を誰よりも近くで見れて、またお前自身もその伝説の一部になれるんだ。こんなに良い条件はないだろう」
「かもな、この先金を稼ぐ必要もない俺は既に人生ロスタイムの身だ。このくらいの刺激があれば退屈せずに済みそうだぜ」
彼が運命を受け入れたその瞬間、ミニスカがとてつもない強い光を放ち間もなく陽が隠れかかる状態だった空がまた一瞬だけ朝に戻ったかのように明るくなった。光が徐々に収まり空が暗さを取り戻したその時、根岸家の庭に勇敢に立つ第四の戦士の姿が確認された。