第三話 邂逅の崖より橋を架けよ
こんにちは、こしのりです。
不覚にも前話の後半では襲い掛かる睡魔に負けて寝落ちしてしまったことをまず反省して物語に入って行きたい。ごめんね。
昨日は途中から聞いていなかった俺のじいちゃんの手紙の内容のポイントをまとめておこう。
まずあのミニスカはとんでもないパワーを秘めていて、じいちゃんが言うには恐らく宇宙人からの頂き物であるらしいこと。巨人像の正体は破壊の限りを尽くす兵器「巨神兵」であるということ。ミニスカを穿いて巨神兵を倒せというのが死んだ俺のじいちゃんの願いだということである。
ジジイの妄言としか思えないこの話が本当かどうかを確かめるには巨神兵の前で「虻蜂取らず、俺はお前の熱きシュートを取らず」と唱えるとそこら辺の真実がはっきりするということである。それにしても結局何も取れていない空しい結果報告をしているこの呪文のセンスはいかがなものだろうか。
そしてじいちゃんのことについて一つ付け加えておこう。ばあちゃんに後でもう一度手紙を読んでもらうと手紙の最後の方でじいちゃんは追っ手に追われてどうのこうのと書いている部分があった。じいちゃんは追っ手に討たれて死んだのかとばあちゃんに聞くと全然そんなことは無く、じいちゃんは好き放題に余生を楽しんで天寿を全うしたとのことである。ばあちゃんが言うにはかなりの適当野郎だったじいちゃんは色々面倒臭くなり巨神兵のことは投げ出して手紙にも適当なことを書いてこの件はそのままにしておいたのだろうということである。
そういう訳でお前が何とかしなさいとばあちゃんに言われた。不運にも巨神兵討伐の件は孫の俺にお鉢が回ることになった。あ、そうそうお鉢が回るって嫌なことの順番が回ってくるって意味で使われているけど元々は嬉しいことの順番が回ってくる時に使われていた言葉らしいよ。ばあちゃんが言ってた。
「おい、こしのり 先ほどから君は黙りこくってまるで頭の中で長々とした言葉を連ねているって感じの顔をしているように見えるぜ」
急な山道のためにはぁはぁと息を弾ませながら丑光が言う。
勘の良い奴だな。こしのりはそう思った。
こしのりと丑光の二人は昨日の手紙に出て来たこしのりと祖父と謎の宇宙人とされるじいさんが出会った崖に向かっていた。その崖は普段からゲームばかりして運動不足な二人には十分に堪える山道を登った先にあった。ここへは暇すぎる丑光の提案により出かけることになった。
「暑い……結構高い所まで上るんだな」
額に汗してこしのりが言う。
「もう疲れたのかい? 君は少々体が鈍っているようだぜ」
自分はまだいける感を演出して喋っているが、内心ではもう疲れたのでここに来ることを提案したことに後悔している丑光であった。
そして10分ほど経った。
「やっとついたぜ いや~気持ちが良いな~ 高ければ高いほど登った時は気持ちいもんだってどっかで聞いた歌の歌詞の通りだな~」
ちょっとした達成感に気持ちよくなりながら丑光が言う。
「すごく高いな。確かにここに落ちたら上ってこられないだろうな。というか死んじゃうだろうな」
「そうだねこしのり それにしても底がやっと見えるかどうかのこの高さの崖におしっこして下から上ってこられる橋を描くってことはだね、かなりの時間でかなりの量を出さないと無理だよ。そう考えると君のおじいさんはえらく盛大に出したわけだね すごいじゃないか」
「だな。どうだろう、俺達も一つじいちゃんに挑戦するということでここから派手におしっこをしてみるってのは」
「こしのり~ 君って奴は齢15にもなってもまだそういうノリでいるってのはどうかと思うぜ~ でもそのノリ嫌いじゃない 乗った!」
そして二人は大自然の中でズボンを下ろして崖下に向けて発射する。
「うわ~ こうも高いとおしっこが途中ではじけたようになって消えちまうぜ。風のせいとかもあるのかな。量もそうだが勢いもよくなくっちゃ橋は作れないぜ 君のおじいさんはもしかすると万人にはなし得ない大事業をやってのけたのかもしれないぜ」
「ああ~ 俺も崖底からここまでの一直線の橋は作れない。確かにあれをやってのけたってのはすごいじいちゃんなのかもしれない」
二人の検証によりこしのりの祖父は結構すごいことを成していたとわかった。
「よし、謎のスカートをゲットした場所である崖の見物は終わったし 次は巨神兵の謎を説く番だね」
すっきりした丑光が言う。
「そうだな。虻蜂とらず、俺はお前の熱きシュートを取らずっていう呪文で巨神兵が何か反応をしめすとか書いていたな」
すっきりしたこしのりが返す。
「まあ、しかし……ね」
丑光がこしのりに向かって言う。
「まあ、そうだ……な」
こしのりが丑光に向かって返す。
「今日は帰ったほうがいいな」
二人が同時に言う。そう、体力無き二人は崖に来ただけで疲れていたので今日は帰って休みたいと願っていた。
「いや~ こしのり気が合うね」
「お前こそ 丑光」
「一日で二箇所回るなんてどうだろうね。楽しみは後に取っておかなきゃ ね、こしのり」
「そうそう 丑光」
互いの意見の一致を確認して二人は山道を下りこしのりの家に帰ることにした。
情けないことに体力が無い二人は、巨神兵討伐のための貴重な一日を無駄にし、そしてこの物語も一話分を無駄にしてしまった。
二人と巨神兵の対面は次回に繰り越すこととなった。