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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第二十八話 そちらが引きこもるなら、こちらも押すことを止めて引くというのも一つの手

「引きこもりを引っ張り出す方法ってのはですね結果これに限るんですよ」

 丑光が得意げに言う。


「まぁそれと言うのがですね、昔見た引きこもりを題材にしたとあるアニメで習ったことなんですが、餓えさせることですよ。腹が減れば飯が食いたい、水が飲みたいとなるでしょう。だったらそのためには外に出るしかない。金が無いのなら飯を得るために無職の者もしぶしぶ働くわけですよ。堕落の末引きこもった者ってのは、まだ余裕があるからその位置にいるんですよ。引きこもっていられないくらいに追い詰めれば人は外に出てきます。穴倉の中に隠れた奴を引っ張り出すなら、中に火でも放てば外に出てくるしかないですからね」


「しかし、それでは……」

 根岸夫人が言い出す。


「可哀想。だと」

 丑光が先に言う。


「そうです。餓えさせるなんて私にはとても……」

「でしょうね。そう来ると思っていましたよ。僕が小学校の頃にお父さんが僕達息子に向かって『これから何が起こるが分からないけど、何があってもお父さんはお前達を餓えさせることだけは絶対にしない』と言ったことがあったんです。僕は子を持っていなければ親でもないのでお父さんの言葉の真に意味するところはまだわかりませんが、どうやら親にとって子を餓えさせるほど恥じる行為はないということは伝わったんです」

「そうですね。丑光さんのお父様の伝えたいことはまさにそれだと思います」

「なので、僕は奥さんが悲しむこの手段は封じて、こしのりの協力の下、僕オリジナルの方法で根岸君を引っ張り出すことにしました」


 「で、俺は何をすればいいんだい。こんな格好をさせてよ」

 学校の体操服に着替えたこしのりが不満そうに言った。


「いいかい。相手は引きこもりだ。こうなった時点で話合いによる正攻法なんてのは無駄と考えた方が良い。少々強引にも外に出る流れを作るんだよ。流れをこっちで作れば後は向こうがそれに乗って流れて気づけば気ままにお外でエンジョイライフってわけさ」

「なるほど、理屈はわかった。でもそれを具体的にしたのがこれって俺にはちょっと自信がないんだけど」

 こしのりは手に「ヒッキー」と書かれた画用紙を持っている。


 それでは、対引きこもり戦略エキスパート丑光の立てた根岸引っ張り出し作戦を分かりやすくまとめよう。

 まず、体操服姿のこしのりがなるたけ息を切らし、超急いでいる感を出して階段を駆け上がって根岸少年の部屋に突入する。そして「ヒッキー」と書かれた紙を前に掲げ「お願い、ヒッキーをお願い」と言って借り物競争の態で根岸少年を見事レンタルし、彼の手を引いて学校まで走って連れて行くという作戦である。こんなありえない闖入者に根岸少年はまず驚き、驚いて力が抜けたままに手足の動きをこっちが引っ張るに任せるはずと丑光が予測してのことである。


「いける」

 丑光がガッツポーズをする。

「そうか、なんか俺もそんな気がしてきたぞ」

 こしのりも何かやる気になっている。

「こしのり、理論的にはコレでいけるという風に決着がついている。あとは君の演技しだいだな。なるべく必死な感じで迫ってくれ。根岸君はきっとノリに任せてこっちの思い通りに動いてくれる」

「まかせな。俺は『南小のトロル』と呼ばれた男だぜ」

 こしのりは毒蝮南小学校出身者で、五年生の学芸会では「三万匹のトロル」という劇に登場する怪物トロルを快演した。その演技力は学生並びに保護者から絶大な支持を受けたのだ。


「じゃあ行ってくる。お前は先に外に出てな」

「こしのりさん、お願いします」

 根岸夫人はこんなおかしな作戦に対しても大変真面目に向き合ってくれている。


 こしのりが二階へ続く階段を駆け上がる。体力の無い彼のことなので、演技をするまでもなく本当に息があがってくる。

 夫人に聞いた通りに根岸少年の部屋の前まで来て、こしのりが今その部屋の扉に手をかけた。


 ガチャり。

 根岸少年の部屋扉が勢い良く開いた。

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