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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第二十七話 その男、また根岸

 俺の名は根岸、もう覚えただろう。

 俺は本や映画が好きだと前に話したが、音楽も嗜む。ポップスとかロックとか歌謡曲とかアニソンとかクラシックとか何でも聞く。音楽の良し悪しは、聞いてから耳に心地よい曲かどうかで決まる。だからジャンルで好き嫌いが分かれることはない。俺の音楽的な趣味はあくまでもリズム先行で決まる。音を楽しむで音楽だ。まずは音自体の楽しさが重要なのだ。詩とかアレンジとかは二の次だ。

 そして、今は食後の憩いの一時という訳で、メイドの土上のバイオリン演奏を聞いてはその美しい音色に酔いしれている。コイツは色々と俺と合わない部分もあるが、このバイオリンの腕前だけは最高だ。ついでに今日の昼飯のグラタンもこの土上が作ったのだが、コレは中々に美味であった。


「お褒め頂き光栄でございます、坊ちゃん」


 だから、何で口を開いてないのにこっちの胸中が割れてんだ。


「それでは坊ちゃん、これで失礼させていただきます」


 土上は出て行った。


 ふう、中々優秀な奴だが、どうも付き合いづらい奴でもある。アイツは可愛い顔をしていると思うが、笑わないんだよな。何か人間味に欠けるところがあるように思える。まさか、ロボじゃないだろうな。


 俺は、食後のコーヒーを味わいながら、読書の続きを楽しむ。本は良い。なんで良いかって?それはな、俺はラッキーなことに平日昼からこうものんびり平和に過せる人生を送っているが、こうなったのは本当にラッキーなことで、もしかしたらこうなる以外にもいくつでも今と違う人生を味わえたかもしれないと思うだろう。そこらへんの「if」の部分をこうして本の登場人物に自己投影することで、俺は違う人生を味わった気分を楽しんでいるのだ。小説家が本を度々書くのは人生が一度きりであるということへの反発心からであるとどっかの誰かが言ってたような気がするが、その気持ち、俺には少し理解できるぜ。


 あ、陽が隠れたな。

 お昼のこのくらいの時間になると、それまで部屋を明るく照らしていた陽の光があの巨人の像によって阻まれてしばらく部屋が暗くなるんだ。しかしなんでまたあんなデカい像が街の真ん中にあるのだろうか。俺はあの像を見ると何と言えばよいのか、気味が悪いような、とにかく不思議な感覚に陥るのだ。それは子供の頃からだ。あの像には何かあるような気がするんだ。それが何かは全然分からないのだが……


 ん、ピンポンが鳴っているな。一体誰だろうか。また、悪徳セールスでも来たかな。

 なんだ、俺と同じ歳くらいのアホ面の男が二人、しかもアイツらズボンの上からスカートを穿いてやがる。俺の知り合いではないし、おふくろの知り合いにあんなおかしいのがいるとも思えん。物乞いか……とにかく真っ当な奴らには思えん。

 まぁ、いいか。家に入って何か変なことでもすれば、土上が黙らせるからな。ああ、あいつはあんな可憐な見た目をしているが、目茶目茶強い。え~と何て言ったか忘れたが、アイツはどこぞの軍隊で用いられる特殊な格闘術を心得ているので、そこいらのチンピラがアイツに挑んだところで体のいずれかの骨を折られて終わりだ。

 これはアイツが始めて家へ来た時に、一応は年頃の男の子である俺に向けての万が一の注意点としておふくろから聞いたことで、当時はまさかこんな女がそんなに強いわけがないと思っていた。しかし後日、アイツが買い物に行った時に、まぁ男から見れば十分に良い尻としているものだから、待ち行くクソ野郎によって痴漢の被害にあいそうになった。その際に痴漢から防衛を行ったことは正当な行為であるにしても、その防衛の内容については少々乱暴が過ぎるということで正当の域をちょっと出ていた、というややこしい供述が痴漢の犯人とそれを捕まえた警察によって行われた。犯人は尻を触れもせず、腕の骨とおまけして肋骨も数本折られたとのことである。


 ん、17時のサイレンが鳴っている。もうこんな時間か、本を読んでいるとあっという間に時間が経つ。

 数時間読んだだけでは一冊の半分くらいしか読めない。この世には一体何冊の本があり、その中に一体何冊名作と呼べる面白い本があるのだろうか。俺は叶うことならこの世に出版された全ての本を読みたいと思う。俺は学校にも会社にも行かない。だから、一般人と比べて本を読む時間はたくさんある。それでも、俺の人生においておそらくこの願いは叶えられないだろう。このことを考えてからというもの、俺は一日一日がとても愛しく尊いものに思えるようになったのだ。俺が恐れるものは有限の刻のみだ。終わりがあると最初からわかっているって当たり前なようでよく考えると恐ろしいことなんだよな。

 と、なんだかちょっぴりおセンチな感じになったな。そういや腹が減った。体を動かすわけでもないのに本を読むとどうゆうわけが腹が減るんだ。土上の作る飯は実に上等なものだ。さぁ今日は何が来るか楽しみだ。


 ん、誰かが階段を上ってくる。土上か、随分急いで何だと言うんだ。腹は減ったが飯が来るには時間がまだ早いぜ。


 ……これは、アイツじゃない。誰だ! 

 部屋の前まできやがった。扉が開く!


 誰だ!お前は!

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