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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第二十六話 その男、根岸

 俺か、俺が誰だって?そんなことが貴様に何の関係がある。というか俺に名を聞く前に貴様が名乗ったらどうだ。俺は中卒だが人に名を尋ねるなら、まずは自分が名乗ってからだという事くらいは習っているぞ。まぁ良かろう、貴様が己の名を叫んだ所で俺にその声は届かんよ。なんせここは物語の中、俺から貴様にメッセージを発することが出来てもその逆は不通であることは言うまでもないな。

 まぁそういうわけだから俺の方から名乗ろう。俺は根岸。上から読んでも下から読んでも根岸、にはならないが、まぁ根岸だ。俺は現在15歳で、学校に行ってれば高校一年ということになる。学校に行ってればと言ったのは現在俺は学校に行ってないからだ。正式なことを言うと学校に籍はまだあるらしいが、入学早々に通うのを自主的に辞めたのだ。

 なぜ辞めたのか、せっかく入ったのに勿体ないじゃないかと思う奴もいるだろう。そこら辺の説明も簡単にしておこうかな。

 まず、人はなぜ高校に通うと思う?義務教育の九年間よりも更なる専門性のある学問を修めたいとか、もうこの段階で仕事に通ずる知識と技術を手に入れたいからとかいう至極真っ当な目的を持って通う者達がいるだろう。そして、嘆かわしいことに決して少なくはないこういう理由で通う奴もいるだろう。それというのが中学を出てから惰性のままに、あってないような緩い試験をくぐって次なる学び舎に目的もなく根を張る奴である。仕事をしたくないという他に特に何の希望も持たない奴はとりあえずここでもう三年間だらだらやっているようである。三年間学校にいて何も学べず、何も掴めずならとりあえず五体満足な内にさっさと仕事に出れば良いと俺は思ったりもするが、そこら辺は個人の自由だな。たわいもない「無」の時間こそを好むような酔狂者もきっといるはずだ。俺もそっち方面には少なからず理解がある。

 そういった色んな事情で義務教育後は各人それぞれの進路を取っているわけだ。で、肝心な俺が学校に行かない理由は何かってことだったな。それは学校に行く理由がないからだ。そもそも義務教育が九年もあったので学校にはもう飽きている。

 え、学校に行く理由がないというそこら辺の訳が知りたいって?理由がないと言っているのを更にそれのない理由を聞きたいとは、何だが哲学めいた問いと言えないこともないではないか。よし、それでは順を追ってそこら辺のことを話していこう。

 俺には爺さんがいたんだが、そいつはこの春には死んでしまった。爺さんは一体何をやったらこんなに儲けられるんだって程の財産を有していた。それをたっぷり残したままこの世を去ったんだ。で、爺さんは生きている内にはとても使いきれなかったその引く程たっぷりある財産を、なんと俺に相続させると遺言を残していたのだ。俺は、それまで特に金に固執するような奴ではなかった。なんせ、俺の家は金持ちだったから、そこの子である俺も金に困ったことはなかった。しかしこの巨額の富に対してはとても無関心ではいられなかった。俺は金を手にしたのをきっかけに人生について色々考えた。その行程をとっても簡単に説明しよう。

 

 人は金を手にしたいと思う者である。

 人は勉強する→良い学校に入る→そこを出て良い仕事に就く→そして良い仕事で良い額の金を手に入れる→計画通り金持ちになる。

 俺の中でこういう図が完成した。


 辿り着くべきは豊かな暮らしを送るための豊かな財産を手にすること。ならば俺は爺さんの死によって舞い込んだラッキーにより、全ての過程を素っ飛ばして人生ゲームの頂点に達しているわけだ。爺さんの残した額が具体的にいくらかは、知られた色々危険かもしれないのではっきりとは言えない。しかしだ、死ぬ程の贅沢をするでもなく、あくまで普通に暮らしていくとすれば、一生働かなくても良いくらいの額はある。じゃあ、俺は働かない。であれば働くことに通ずる学びも行わない。というわけで俺は仕事はおろか、学校にも行かない。目的がないならそこへ足を運ぶのは無駄でしかない。映画愛好家の俺がいつぞや視聴した映画の中で「時間を無駄にすることは大罪だ」というセリフがあった。俺はコレにはとても納得した。

 そんなことを偉そうに言ってはいるが、もう人生安定しちゃった身である俺は、今後これをやろうなんて目的はないままに今日を暮らしている。目的なく無駄ならせめて楽しく過そう。前向きにそう思った。だから今はとにかく自分にとって楽しめることをずっと行っているのだ。

 俺は本を読むのが好きだ。映画も好きだ。いつかは本を書いたり、映画を撮ることをするのも良いなとか考えながらも今はとにかく楽しんでいる。

 

 ん、部屋をノックする音だ。


「坊っちゃん、お食事をお運びしました」

 俺が入れと指示すると家のメイドが部屋に昼飯を運び込む。このメイドはこの春から家に勤めていて名前は、木下とかいったかな。


「私、メイドの土上どのうえと申します」


 え、何、今声に出てた?心の中の声のつもりだったが……まぁ良い、こいつは名前を土上といって、見た目は恐ろしく美しい女だ。ここポイズンマムシシティでこいつより顔立ちの整った女は見たことがない。こいつの前のメイドは恰幅の良い、いやデブと言ったほうがいいかな。そんな感じのおばさんだった。それが諸事情によって辞めて次に来たのがこの木下で


「坊っちゃん、わたくし土上と言います」


 あれ、おかしいな今回は確かに俺は心の中で名前を言って間違えたのだが、この女、なんか急に自己紹介してきたぞ。なんだか妙なタイミングで言うからちょっと怖くなってきたじゃないか。それと坊っちゃんと呼ぶなって何回も言ってるのに一向に改める気配がない。 


「坊っちゃん、奥様からは坊っちゃんのことは坊っちゃんとお呼びするように言いつかっています。なので坊っちゃんのことをファーストネームやニックネームなどでお呼びするわけには行きません。ゆえに坊っちゃんのことは一貫して坊っちゃんとお呼びさせていただきます」


 まただ。こいつ心を読む術でも心得ているのか。ていうか坊っちゃん言い過ぎだわ。まぁこの土上は見た目は俺より少し上くらいに見えるのだが、俺がこういう年頃の男の子だから、コイツのような胸のデカい若い女が同じ家にいたら刺激が強いから何とかしてくれないかとおふくろ言ったところ、そのくらいのことで心が揺らぐようでは駄目だ、女の一人や二人くらい平気で相手が出来なければいけないと言われた。そういうわけで俺を女に慣れさすためにもおふくろはこの土上を続投させることにした。


「それと坊っちゃん、奥様がおふくろではなくママとお呼びするようにと仰っていました」


 こんな感じだから俺はコイツがちょっと苦手なんだ。わかるだろ。

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