第二十三話 僕がもし壁をすり抜けられたら……
次の日のお昼くらいのことである。
「お~い、こしのり~こしのり~」
ミニスカを靡かせながら大きい声をして丑光がこしのりの家へやって来た。
こしのりは暑いのでホースを手に庭を水打ちしていた。
「何だ、うるさいな。俺に迷惑だろうが」
「ああ、ごめんよ。でもでもすごいんだよコレはマジで!」
丑光は大変興奮気味で喋っている。
「ほら、昨日君が風使いになったって言っただろう。あれと同じで僕も異能力者として覚醒したんだよ。本当についさっきわかったことなんだ」
「へぇ、そいつはまた俺の予想通りのタイミングで能力に目覚めたものだな。で、何ができるの?」
「まぁまぁ、コイツばかしは本当に百聞は一見に如かずの言葉通りなんだよ。まぁちょっとそこで見ててよ」
丑光はこしのり家から向かって左隣にあるスミレの家の壁の方へ歩いていく。
「うんうん、時間と場所で・・・・・・ここら辺か」
「え、壁に向かって何をやってんだ?」
こしのりは隣の家の壁に向かってぶつぶつ言ってる友人を不思議がって見る。
「よし、ここだ。こしのり見ててよ、いくぜ」
言い終わると丑光はスミレの家の壁に向かって走り出す。そしてぶつかることも恐れずジャンプして頭から壁に突っ込んでいく。
こしのりは友人のこの自滅行為を見て「暑さで頭がどうにかなったんだ、あのスピードで突っ込んだら打ち所が悪ければお陀仏だ。丑光終わったな」と心の中で呟いた。
丑光が壁にぶつかって怪我をするか、下手をしたら死んでしまうのではないかと思って見ていたこしのりは次の瞬間驚くべき光景を目にする。なんと、ぶつかるとばかり思っていた丑光の頭が壁の中に潜り込んでいく。壁はどこも壊れていない。頭から動体も潜り込んで、丑光は突き刺さる形で壁の中をすり抜けていき、両の足のみは壁の外側に出ていた。
「うわ!壁をすり抜けてやがる!」
これには平生クールボーイを装うこしのりも驚きの声を上げてしまう。
壁の向こう側はスミレ宅の脱衣所であった。
「あれ、ちょっとしくじった。風呂の一歩手前じゃないか」
するとガチャっと音がして扉が開き、着替えを手に持ったスミレが廊下から脱衣所へ入室してきた。
洗面所の横にいつもはそこにないはずの丑光の顔を確認した時はさすがにスミレも驚いた。
「わっ! あんたそこで何やってんのよ!」
「やべぇ・・・・・・やぁスミレちゃん御機嫌よう。今日もしっかり汗をかいたね、よく流すといいよ」
「あんたに言われるまでもないことだから早く出て行きなさいよ」
壁の外の庭にいるこしのりには状況が見えていない。
「おい丑光、いつまで壁に刺さってんだよ」
「・・・・・・」
反応がない。
こしのりは壁の外側に出ている丑光の両足を引っ張った。
「あれ、動かない」
こしのりは腰を入れて再び気合を入れて引っ張った。
「ふんっ!」
すると次はいとも簡単にスポッと丑光を引っこ抜くことが出来た。
勢い良く引っ張ったのでこしのりは尻餅をついた。丑光はうつ伏せで地面に倒れている。
「おい、丑光どうしたのよ?」
丑光の顔を見ると両の頬に赤々とした手形がついている。
「コレは・・・・・・スミレだな」
そして五分後、こしのりの家の縁側に腰掛けて二人は話込む。
「痛いなぁ・・・・・・いやいや、これは失敗したな」
「お前なぁ、風呂を覗こうとしたのはまずいよ」
「う~ん、この時間だとスミレちゃんが部活から帰って来て、清か水のごとく肌を伝う汗を流しにお風呂に入ると睨んでいたんだ。しかしだね、時間はちょっとばかり早かったし、ダイブする場所もミスして浴室でなく脱衣所だったんだよね。丑光ドンマイ」
「お前止めろよ、その気持ち悪い例え」
丑光の能力は壁をすり抜ける能力だということが判明した。
「しかしね、こしのり。僕はこの能力を更に色々と調べたんだ。それでわかったことがまず、障害物のすり抜けが行えるのは二秒までだ。厚い壁なんかだったら二秒立って向こう側に抜けられなかった場合は壁の中でストップしないといけないんだね。そしてこの能力が再び使えるようになるまで一分かかるんだ。どうだい、ここまでのことをすぐに調べられた僕の分析能力は」
「ああ、それでさっきはお前の足を引っ張ってもすぐには抜けなかったのか。なんだかみみっちい能力だな、二秒じゃ使えないだろ」
「そうなんだな。便利だと思ったけど、さっきは壁にはまって逃げられなくなってスミレちゃんの攻撃をモロにくらっちゃったしね」
せっかくの異能力だが、我らがミニスカ侍二人に目覚めた能力は方や微風を起こし、方や壁をすり抜けるというなんとも慎ましく、そしてしょぼいものであった。