第二十一話 めくれたら きっと見る見る スカートの中
「ふ~ん、で、手から風が出るようになったんだ」
「ああ、そうなんだよ。俺は平成の風使いになったんだよ」
恐らく平成に入ってから既出ではないはずの肩書きと異能力を身に着けた我らがこしのりは、しっかり修理を終えた自転車を前にし、縁側にスミレと並んで腰掛けてスミレからもらった炭酸飲料をゴクゴクと飲み下している。もしも「平成の風使い」なんて通り名を取る人物をご存知の方がいれば是非私にご一報頂きたい。
汗をかいてカラカラになった彼の喉は一気に潤った。
「ああ、染みやがるぜ~。喉でプシュプシュって泡が弾けてやがる。これくらい炭酸感の強いのがいいよな」
「こしのりは昔から炭酸が好きだよね」
こしのりは三歳の時から500ml缶の炭酸飲料を一回で飲み切る程に炭酸に強く、そしてなにより大飲み野郎であった。対してスミレはスポーツマンなので炭酸は控え、体に極めてピースな乳白色の飲料水を飲んでいた。
「この能力はきっとこのスカートのせいだ。考えてみれば室がスカートを穿いてからゆるキャラ風に変身して言葉を話せるようになったという例があるのだから、俺達にも何か特殊能力が目覚めてもおかしくはないはずだ。となると丑光にだって何かあるはずだ。アイツのことだから明日くらいには何かに気づいて俺の所に飛んでくるだろうな」
彼らがまだ知ることのない少し先の未来をばらしておこう。こしのりの予想通りに翌日になってから丑光は自分が得たある能力に気づくことになるのだが、それはもう少し後でわかる。
「よし、ちょっと試しに自転車に乗ってみろよ。空気が抜けるとかはないと思うけど一応な」
「うん、わかった」
自転車に跨りスミレは庭をぐるりと一周する。彼女は髪を縛ってポニーテールにしている。自転車を漕げば彼女の項に触れていた尻尾が風に乗って彼女の後頭部から水平に伸び、彼女の項は隠すものを無くして露になる。風にポニテを靡かせる彼女の姿はそれは優雅であった。
その時悪戯な風が吹き、再びスミレのスカートを捲った。風がなくともスカートで自転車に乗るのは色々と大変なので女性諸君は注意が必要である。
スミレは自転車から降りてこしのりを見て言う。
「今……やった?」
「やったって言うな。そりゃ見たよ、見たけどやってない」
こしのりは裏山の方を指差して言う。
「今のは山から吹いた風の仕業。人をスカート捲り野郎みたいに言うんじゃないよ」
ラッキースケベとでも言うのか、本日は二回も目の保養となる乙女の秘密を覗いたこしのりであった。ちなみにこしのりの方もミニスカが風で煽られて下に穿いたパンツをスミレに見られた。
かくして微風ながら指先から風が出るという能力に気づいたこしのりであった。これからは空気入れなくして自転車とか浮き輪に空気を入れることが可能になったので、彼は生活に便利なビックリ人間となった。
こしのりとスミレの一連のやり取りを元来垣間見好きなこしのりの祖母は、舐めた指を障子に突き刺すことでわざわざ指サイズの覗き穴を拵え、その穴の向こうから我が孫の青春をこっそり覗いていた。
「しとるの~ 青春しとるの~ それにしてもスミレちゃんがああいうのを穿いているとはねぇ……」
このババアは覗き見とか立ち聞きはもちろんだが、それ以上に孫のことが大好きであった。素行に品があるとは言えない人物ではあるが、こしのりは祖母が大好きであるし、私もこういう老人は嫌いでは無い。
「あ! お母さん、何やってるの、障子に穴なんか開けて」
「ひぇ、すまんよ。後で塞いでおくから」
覗きババアはこしのりの母に怒られた。障子に穴を開けてはいけない。