第二話 おばあちゃんの子守唄
「さあ開けるぜ」
丑光が勢い良く葛篭を開けた。
「これは!何だ」
丑光は葛篭の中にあった光輝く不思議な何かを手にとってこしのりに近づける。
「これは間違いなくスカートだな。しかもミニだぜ」
こしのりはスバリ言い当てそして話続ける。
「しかし、こんな所に何故こんな物が……そして何故こうも光り輝いているのか」
「こしのり、同じスカートがまだ五枚はいっているよ。こっちは光っていない。それにホラこのぼろい紙切れをごらん。どうやら手紙のようだぜ」
目敏い丑光は葛篭の中身をすっかりチェックし終えていた。
「なになに、これは汚い字だな。しかも長い。すごい枚数だらだらと書き込んでやがる」
「こしのり、ここじゃ暗くて字が読みづらいよ。それにコイツを読んでいくのには相当時間がかかるぜ。ここはこのままにしておいて一旦君の部屋に帰って熱いお茶と小洒落たお菓子を用意してゆっくり読み解いていこうよ」
「お前、なんか図々しい奴だな。」
そう言いながらもこしのりは丑光の意見に賛同し離れの蔵を後にして自室へ引き返すことにした。丑光の要望に答え、熱いお茶と小洒落たお菓子である落雁をこしのりの祖母が部屋まで運んできた。
「こしのり、丑ちゃん あんたら一体何を読んでいるんだい」
独特なだみ声をしたこしのりの祖母が二人に問う。
「ばあちゃん、これが蔵の中から出てきたんだけど字が汚いし紙もボロボロで何を書いているかわからないんだよ」
「おばあさん今日のお茶もおいしいですね。それにこの落雁、最高だな~。僕はこれが大好きなんですよ。これなら毎日八個は食えますね」
丑光は甘党であり和洋問わずのスイーツ男子である。
「こしのり、あんたこれをどこで!?」
「いや、だから蔵の中でとさっき言ったよね」
こしのりの祖母は忘れっぽい&人の話を聞かないところがある。
「これは間違い無い。死んだ爺さんの字だよ。あの人は元々字が汚いに上にくせのある字を書くから読みづらくて仕方なかったんだよ。結婚届けをお役所に持って行った時も何を書いてんだかわからんと役人に言われたよ。でもね、心は天然水のように綺麗に透き通った人だったよ」
婆さんはなにやら遠く過ぎ去った美しき日々の記憶に酔いしれている。
「……いや、いいからさ で、それに何て書いてるのさ」
「ああ、おいしいな。おばあさん お茶のおかわりいいですか?」
「あっそれじゃ俺もおかわりを頼むよばあちゃん」
「ああ丑ちゃん、あんたは今日もいい飲みっぷりだね。ちょっとお待ちよ。お茶のおかわりを用意してから手紙を読んであげようね」
それから二人はお茶のおかわりをしっかり飲んだ。その後、良い具合に腹が出来上がって眠くなりながら婆さんが手紙を読むのを聞くこととなった。
以下こしのりの祖父による手紙の内容を記載する。
手紙の書き方に拙い箇所がいくつか見られるかもしれない。実家で持っている田畑の上で鍬を振るうこととストリートバトルで自慢の拳を振るうことで青春を潰してきた彼が学に乏しいのは当然なので、そこの所はご理解頂いた上で読み進めてもらいたい。
それからちょっと長めな内容になるのでトイレに行くなら今だよ。
「ワシの名はかたのり。これからここに重大なひみつを書く。といっても言いたいことがたくさんで何から話せばいいかちょっと混乱している。とりあえず今日親せきにもらったどーなつとかいう名の真ん中に穴があいたおかしがとてもうまかったんだ。まずそれを書いておこう。しかしなんであれには穴があいているのだ。あんなにおいしいのにあそこの穴の部分だけ何もないのはもったいない。穴の部分もどーなつにすればもっといっぱいたべれるではないか。今度あれを作ったしょく人に意見を言ってやりたいな。ああうまかった。あんなうまい物ははじめてくった。ワシはとても感動しておる。
おっと、関係の無い今日のおやつの話をだらだらと書いてしまった。肝心なことをこれから書こう。まず、このスカートについてだ。このスカートはただの布きれではない。選ばれし者がはくことで無限のぱわぁを生むとんでもない代物なのだ。誰が作ってどうゆうわけでこんな特別な力を持っているのかは知らん。
ある秋の晩、ワシが自慢の拳で不良共を夕暮れの冷たい畑の土の上に沈めてから家に帰る道の途中でこんなことが起きた。ワシは家まで我慢できなかったので崖の上からその……いわゆるあれだ……おしっこをしたわけだ。飛ばしたおしっこはきれいななあーちをえがいて空中にかかる橋のように見えた。夕暮れのせいもあってかワシが柄にもなくちょっとろまんちっくなことを考えていた次の瞬間信じられんことが起こった。ワシの作った世界に一つしかない橋、それも間もなく消えてあの幻のあとらんちすのごとくもう見ることができない遺産になるであろうその上をなんとおかしなジジイがすきっぷして上ってくるではないか。水の、いやこの場合はおしっこの上を駆け上がってくるなど人間技ではない。今ならこう思うのだがあのジジイはきっとうちゅう人だったのだろう。
そのジジイは「いい橋をかけてくれたな。お前さんのおかげでこの崖を上ることが出来たよ」とワシに言った。その謎のジジイは何年も前に崖の下に落ちてずっと上れずにいたと言う。そんな時にワシが橋をかけたもんだからこれは天のお恵みだと思って駆け上がってきたらしい。ワシだって仲間からおかしいやつだと言わることもあるがこのジジイの話はその比じゃないくらいぶっ飛んでいる。そのジジイは助けてくれたお礼だと言ってこの丈の短いスカートをワシにくれたわけだ。
ここからがもっと重要になる。そのジジイはこのスカートを穿いてとある仕事をするはずだったのだ。しかし、まぬけなことに崖の下に落ちて何年も閉じ込められたためもうその元気も無くなったと言ってワシにこれをよこした。その仕事というのがワシらの母なる郷どくまむしの中央に立つあの巨人の像を倒すことだと言うのだ。ジジイが言うにはあれは巨神兵というとんでもない破壊兵器だということなのだ。あの像はじっと大人しくしているが実は動きまわって世界をぶっ壊すことができると言うのだ。それを止めることができるのはこのスカートのパワーだけだと言うのだ。六人の選ばれ者を探して巨神兵を倒さないと世界は終わるのだ。
巨神兵に命があると誰が思う?ワシもこのジジイの話は信じなかった。しかし後になってこいつの言う事が真実だと知ることになる。巨神兵の前で あぶはち取らずお前は俺の熱きしゅうとを取らず と唱えると巨神兵が反応を示す。ワシはこのわけの分からん呪文を唱えて現に巨神兵と話をした。郷の守り神とされていた奴はその逆で破壊者だったのだ。
あれがなぜ攻撃をはじめないかというと今はその時では無いということであるらしい。しばらくは今の暮らしを続けられるだろう。しかしあいつが動き出せば今までの平和はそれまでだ。ワシは立ち上がり奴を倒そうとは思ったが、今では追っ手に追われる身となってしまった。逃げるで手一杯で巨神兵のことどころではないのだ。え、追っ手ってのが何かって?それは詳しい事は言えないがとにかく逃げなきゃやばいんだ。なのでここにこうして手紙を添えてスカートを閉まって置く、きっと未来にこれを見るであろう選ばれし者のためにな。一つ心配なのがワシが死んだあとに、整理をてきとうにしてしまうワシの嫁がこれをどこかに閉まったままにしてその存在に誰も気づくことなく先に巨神兵に手を打たれることだ。なんとか巨神兵よりも先にこのスカートが発見されワシの悲願が叶うことを願う。
それではここらへんでさようなら。 かたのり」
「というわけで手紙は終わりだよ」
そう言ってこしのりの祖母は手紙を床に置いた。
祖母が顔を上げるとこしのりは机に突っ伏して寝ていた。丑光はと言うと、横になりこしのりのタオルケットを体にかけて鼾をかいていた。こしのりの方は寝ずに話しを聞こうと努力した気配が少しは見られるが、丑光の方はわざわざ部屋の端まで移動して寝ているので眠気に屈して完全に話を聞くのを放棄したのが分かる。
「あらあら、良く眠っているね。」
こしのりの祖母は寝こけている二人を暖かく見守り、空になった菓子の受け皿と湯飲みを台所に下げた。