第百四十三話 青空の下、君と餅
一時はもう見られないと想っていた2018年最初の朝陽が昇った。その時刻にはミニスカ侍達は解散してそれぞれの家に帰っていた。
あれだけの戦いの中で各々が力の全てを出し切った。そのためによって起こった体への反動は長時間の睡眠であった。彼らは新年の第一日目を寝て過ごし、2日の昼前まで寝ていたという。
「南無三、寝過ごした!年末だけでなく、正月の楽しい番組までも見逃した!ああ、この一日の遅れは痛いぞ!」
24時間以上ぶっ続けての眠りから覚めた丑光は、起きて早々に反省の言葉を口にした。
「ヤバイ、とんでもなく腹が減っている。久しぶりの日本の食事と行くか」そう言って丑光は元気よく布団から出た。
自宅二階の丑光の自室から一階の居間に降りると彼の家族が談笑していた。
「丑光!やっと起きたのか!お前がいつまでも起きないからもしかしたら死んだのかって皆騒いでいたんだぞ!」
兄の馬男は弟との再会に喜んでいた。
「兄さん!良かった!平和な世界で兄さんにまた会えてよかった。あんな想いまでして戦った甲斐があったよ」
丑光は歓喜のあまり兄の手を取った。
「丑光、丁度お父さんとお母さんに話していたところなんだけどね……」
「なんだよ兄さん照れた顔しちゃって、僕ら兄弟の間に遠慮は無用さ、言いたいことはさっさと言ってよ」
「実はな。入れて来たんだ、籍」
「籍って、カスミ姉さんとかい!」
「カスミちゃん以外と入れたら事だろう」
「わぁ!すごいぞ!めでたいなぁ!おめでとう兄さん!と、それからお母さん、これまでの人生で経験したことがないくらいに腹が減っているんだ。何かこう胃に入れてハッピーになる何かしらのご馳走を一つお願いしたい」
兄の幸せを喜んで声を上げては、また一段と腹が減った丑光であった。
そして所変わってこしのりの家の庭である。
「というワケで、馬男兄さんとカスミ姉さんが正式に夫婦になったってわけさ。僕はそれを聞いてからは腹が減って腹が減ってかなわなかったよ」
「おめでたくて腹が減るわけ?」とスミレが聞く。
「そうだね。帰って来てさっそく世界を救った成果が出たじゃないか。いい年だよホント。こしのり~餅まだ?」
「お前はさっき家で餅を5個も食ったんだろう?もう十分だろうが」
こしのりは庭に七輪を出して餅を焼いていた。
こしのりとスミレもだいたい丑光と同じくらいに目が覚めた。こしのりが腹を満たすために餅を焼いていると、家の窓からそれを見たスミレも外に出てきたのである。丑光は暇だしまだ食べたりないので遊びに来ていた。
「それにしても新年の餅焼き大会に出席者は三人かい。こしのり、他はどうしたんだい?」
「ああ、室は冬眠しちゃったし、堂島は留美にべったりで、根岸は新年はどこか外国に行くってさ。それから田代さんなんだが……」
ここでこしのりが少し言葉を溜めた。
「田代さんがどうかしたの?」とスミレが問う。
「うん、それがさぁ。食い物を持って誘いに行ったんだけど、無いんだよ。あのダンボールの家が」
これに対してスミレと丑光は「え、家が?」と口を揃えて返した。
「仕事に行って留守ってのなら分かるけど、家ごとないってのはどうしたんだろうなって想ってさ」
「う~ん、引っ越しとかじゃないかな。正月だし」と丑光は推理した。それに対してスミレは「あの騒ぎの後で引っ越しってのも急じゃない?」と返した。
三人は田代の行方について少し考えてみた。
「まぁ田代さんのことだ。またひょっこり元気に顔を出すだろうさ」
こしのりは空を見上げて言った。
「それよりこしのり、紅白は録画したかい?」
「いや、皆で見たけど録画はしてない。白が勝ったけど」
「ああ!何で言うのさ!ああ、見たかったな。僕なんて、新年だけでなく年末まで留守だったから皆より損してるよ」
「ブラジルなんかに遊びにいってるからでしょ」
「ううっ、それを言われちゃキツイよ、スミレちゃん」
「よし、焼けたぞ~。皆、皿と醤油の準備……ってお前らは喋ってるんなら俺が焼いてる間に気を利かせてそれくらいやっとけよな」
こしのりはブツブツ文句を言いながらも、美味しい餅を焼いては幼馴染に食わせることに喜びを感じていた。
仲良し三人組は、無事に新年の青空が拝めたことを喜びながら餅を食っては舌鼓を打ったという。それも三人ともズボン姿でのことだ。彼らはミニスカを穿くことなく青春を謳歌できるようになったのだ。