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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第百四十二話 彼らの帰る場所

「巨神兵がいなくなったことで街の真ん中にぽっかり飽きスペースが生まれちゃったわけじゃないか」

 歩きながら丑光が軽口を叩く。その続きをどうぞ。


「だったらさ、次はその巨神兵を見事倒した僕の像を建ててはどうだろうか」

「見事倒した僕のって、お前は戦ってる時の大半はブラジルで油売ってたんだろうが」と透かさずこしのりは突っ込む。

「そうそう、それに倒したってなると、一応スミレってことになるんじゃないか?」と堂島は言う。

「せやったらあそこにはブルマ姿の姉ちゃんの像が立つってことかいな?」

「いやよそんなの。ブルマは今日っきりで卒業だから」

 スミレはブルマ卒業を宣言した。これには少し寂しい気もする。


「お前その格好寒くないのか?」とこしのりが問う。

「そう言えばだんだん寒くなってきた」とスミレは返す。

「ミニスカを返したわけだから、ミニスカの保温能力が失われつつあるんだ。確かにだんだんと下半身に寒さを感じるようになった」

 根岸がこのように言った通りで、ミニスカを穿いている間は真冬に足を出していてもミニスカの効果でポカポカして寒さを感じることは無かった。しかし今の彼らは普通の人間の身。それで褌やブルマ姿なわけだから寒さを感じて当然な訳なのである。もう彼らはミニスカ侍ではない。ただの人間、あるいはただの熊なのだ。

 そうなれば、ただの熊に戻りつつあるむろには一番変化が見られた。


「そういやワイ、だんだん喋り辛くなってきたで」

「んっ、室、背が少し伸びたような……」田代は隣を歩く室の体の変化に気づいた。


 室はミニスカの能力によって獣の身でありながら人語を介すことができ、そして見た目も小さくゆるキャラっぽい熊になっている。元の彼は体長二メートルを越すマジな熊なのだ。


「となると皆お別れの時やな。なんか眠くなってきたで、元の熊に戻ったらワイも家族と一緒に冬眠やな」

 

 そんな彼の一言を耳にして一同は足を止める。


「室……」こしのりは言った。

「なんやこしのり。湿っぽい感じ出すなや」  

 

 室はスマホを取り出した。

「根岸の坊っちゃんにはコレ返さんとな。まぁいつまでもこんな生活が続くとは想ってなかったけど、人間の皆との生活はおもろかったで。ありがとな」

 そう言って室は根岸にスマホを返した。


「それにしてもさぁ、いきなりすぎやしないか!もうちょっと段階を踏んでお別れと行きたいよ」涙ながらに丑光が言った。

「そんなん言うても仕方ないやろうが。ミニスカが無くなればワイらは解散や。まぁええやないか、あの巨神兵に負けてたら段階も何もない内に世界ごとおさらばやったんやから。丑光、ハッピーエンドで泣くんやない」

「泣いてるもんか!」と威勢よく答えた丑光の目には完全に涙が溜まっていた。彼は泣き虫だ。


「ありがとう室。君と共に戦えたことを私は誇りに想うよ」

 そう言って田代は左手を差し出した。


「田代はん、ワイこそアンタには感謝や。ワイの山を火事から救ってくれてありがとう。アンタに関してはミニスカ侍云々抜きにしても英雄や」

 

 ミニスカ侍6人と和尚も含めて全員が順番に室と握手した。


「それじゃ皆元気でな。大変だったけど皆とミニスカ侍やって楽しかったで」

 背中を見せたままバイバイしながら室は林に向かって歩いて行く。そして歩く内にもどんどん身長が伸び、二足歩行から四足歩行へと切り替えた。完全なる熊に戻ったのだ。彼は彼の家族が待つ山へと帰っていった。


「くぅ……元気でな室。それじゃあ、こしのりの家に行って色々なご馳走にあずろうか。あっ、それより先に僕は親や馬男兄さんに顔を見せに行かないといけないか。何せここの所行方不明だったわけだし」

 

 一同が盛り上がる中、田代が口を開いた。

「皆、私は明日の朝が早いのでこれで失礼するよ。こんな大仕事の後でも、私のような生活をしている者には正月をゆっくり過ごすなんて余裕はないからねぇ」

「田代さん帰るのか。じゃあまた何か食い物持って遊びにいくからさ」

「ああ、ありがとう。待っているよこしのり」

 こう言うと田代は一同と別れた。


 田代は疲れた体を引き摺ってダンボールで出来た癒やしのマイハウスに帰って来た。

「やれやれ、君達もう出てきていいよ」

 田代は闇の中へと声をかけた。田代のこの声を受けて闇の中から二人の男が姿を現した。


「先程の戦い、お疲れ様でした」

「さっそくですが、約束の件がありますので……」


 二人の男は田代の前に出てきてもまだ闇の中にいる時同様に黒く見えた。なぜかと言うと、この二人は黒いスーツに身を包み、サングラスをかけていたからだ。

  

「ふぅ、確かに年が明けたらという話だったが、何もこんなに早く来るとはねぇ。まだ年が開けて40分くらいしか経っていないよ」


「えぇ、しかしテレビでご活躍を見させてもらったので、起きていられるなら早い方がよいかと……」


「テレビなんかに映るとすぐに居場所がバレて不便だねぇ」


「ええ、そうでなくてもあなたは何かと事を起こしては有名になられていますね。ミニスカを穿こうが脱ごうが、結局あなたは名前と顔が売れてしまう。これも運命ですよ」


「みたいだねぇ……じゃあ行こうかね」田代はそう言うと数歩足を踏み出す。そして振り返ると「この家、住心地が良かったのにねぇ。やはり片付けないといけないかい」と言った。


 黒スーツの男の片方は「ええ、こういった物を建てることは何かとルールに引っかかるものと思われます。やはり片付けておかないと。これからあなたにはしっかりとした床と壁と天井のある場所に住んでもらいますから」

  

 田代は黒スーツの男二人に左右を挟まれた状態で通りまで歩いていった。そこにはいかにも高級そうな車が止まっていた。

 黒スーツ男の1人は速やかに後部座席のドアを開けた。

「では、お乗りください社長」


 こうして田代は、新年が明けて最初のお日様が昇るのを待たずして、彼の愛したポイズンマムシシティを後にすることとなったのだ。

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