第百三十六話 世界最後の5分間をあなたはどう生きますか。
ポイズンマムシシティへの上陸を封じられた巨神兵は、丑光の僅かなスタミナが切れるその時まで海で待つことにした。
巨神兵の頭上には内田達が乗り込んだヘリが再び戻ってきた。ヘリに乗る連中はすばらしいガッツを見せてくれたのだが、ミニスカ侍達にはそれに答えるべきガッツの伴う行動を起こす体力はもはや無かった。
「あ、7人揃っている!それに巨神兵の体が元に戻っている。どちらにも動きがないけどどうしたんだろう」
しばしの間戦況を確認出来ない状態にあっ内田には謎な点があった。
「うっちゃん、カメラ回すからね。気合入れて実況してよね」
「はい!」
カメラマンのやっさんの合図で実況中継が再開された。
万策尽きた丑光は、仰向けになって港に転がるとスマホをいじり始めた。
「へぇ~色々書かれているね~。あの女の子はどうして紫のミニスカだけ無視したんですか。女の子は巨大化しないんですか。巨大化したら上の服は裂けて裸になるんですか。女の子の赤黒チェックのブルマってどこで売ってるんですか。最後に出てきたピンクのミニスカは何だったんですか。ふむふむ、僕が聞きたいよそんなの」
丑光はネット内でミニスカ侍に関してあれこれとつぶやかれているメッセージのいくつかを読み上げた。しかもブツブツと呪文でも唱えるようにだ。
この状況で異様なリラックスモードに入った友人を見ると、さすがのこしのりも一言挟まずにはいられなかった。
「なぁ、丑光よぉ。そういう態度はよくないだろう」
これに対し丑光は、向こう五分間は人類に対して何の干渉も行えない巨神兵を指さして「何さ、あと五分で僕らはアレにやられるんだ。最後の僅かな時間くらい僕らしくいたっていいだろう」と返した。
「それがお前らしくいる状態なのか?」と根岸は突っ込んだ。
「ふむふむ、32本。現在発表されている今年放送予定の新作アニメが32本もあったんだ。この数はイコールして僕の未練の数さ。他にもまだあるよ。やりたいゲームや読みたいラノベもあった。僕はたった15年しか生きていない。15年で人生を終えることに未練がないヤツがこの世に何人もいるものか!」
こう言った時、丑光はめっちゃ泣いていた。
「丑光、そこまで悲観的になる?まだそうと決まったわけじゃ……」とスミレがここまで言うと丑光はすかさず返答を飛ばす。
「うるさいな!君は15年目をきっちり終えて16歳になっているじゃないか!15年間を完走しきれずに終わるヤツの気持ちなんて分かるものか!」
「いや、アンタとは一ヶ月くらいしか誕生日変わらないでしょ」
ミニスカ侍の内5人は高校一年生で、12月が誕生日のスミレのみは16歳を迎えていた。後の4人は1~3月生まれでまだ15歳であった。
「……じゃあスミレちゃん、借りてた500円無しにしてくれる?」
「いや、それは別の話だから無理」
これを聞いて丑光は皆に背を向けて横向きにゴロンとなった。
「ふふ、あの世で働いて返すことにするよ」
「スミレ、今のはきついだろ。チャラにしてやれよ」
「駄目。じゃあこしのりが代わりに払う?」
「はは、どうして俺が?どうしても取り立てるってんなら、今度は丑光が本棚の奥に隠してある牛の貯金箱を割れば良いじゃないか」
幼馴染二人の会話を聞いた丑光は「君たちは人でなしだ」とつぶやいた。
田代は戦闘の際に港にまで飛んできた数個の空き缶を拾い集めた。
「もしあの世にいっても、またコレで食いつなぐかな」
堂島は「やめろよ田代さん。そんなの聞くと何か泣きそうになるだろうが」と突っ込んだ。
「なんや、あの世に行ってまで働かなあかんのかな」
「ふふ室の言う通りかもね。向こうでは仕事をしなくてもいいのかもしれない」
「あーあ、あと3分くらいかな僕の能力が持つのも」
「そうだ!丑光、こないだテレビに出た時にさ、お前の好きな内田アナのサインをもらっておいたんだよ」
「なんだって!それは本当かいこしのり?」
ここで丑光の反応が明るいものとなった。
「本当本当、ほら写真を取っておいたんだ」
そう言ってこしのりはガラケーの画面を見せた。
「こしのり~。これ、嬉しいんだけど、名前のところ……」と言って丑光は画面を指さした。
そこには「紐三くんへ」と書かれていた。「丑光」と書くのが正解だが、漢字があまり得意でない上に丑光という字がどんなのか知らない内田は「丑」を「紐」と間違え、「光」も「三」と間違えていた。
「そうか、どうせ僕は内田アナにとっては紐三ってワケだ」
言葉の意味はよく分からないが紐三もとい丑光は明らかに落ち込み始めた。
これに対して巨神兵はLINEで(紐三とかウケる~)とメッセージ発信した。
こんな具合で丑光の能力の発動限界時間である5分、また彼らにとってはこうして他愛のない話を出来る最後の安息の時間である5分が過ぎ去ったのである。
巨神兵は海から上げた自分の足裏が陸地に接地する感触がした時、ニヤリ笑ったように見えた。