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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第百三十五話 スケスケの街、僕らの街

「借金のことはひとまず置いといて、まずは世界を救おう」

 500円の負債よりも大事なことがある。そう悟った丑光は、世界救済に尽力するよう脳内チャンネルを切り替えた。

 巨神兵からLINEメッセージが更新された。

(丑光君おかえり。そしてさようならだ)


「確かにね。君とは今日一日でお別れになるわけだから」と言って丑光がスカしている所へ、極小に範囲を絞った巨神兵のビームが打ち込まれた。

 丑光の足元に爆発が起き、港の一部に穴が開いてしまった。

「うわっち!びっくりしたなぁ!もう!」

 丑光は尻もちをついて倒れた。

「ああ!年末にありがちなあちこちの工事が完成したと言うのに、年明け早々になってもう新たな穴をあけちゃったよ。この調子じゃ今年の市民税は余らないぞ!」

 丑光は何だかローカルあるあるっぽいコメントをした。

 これに対して巨神兵は(ハッピーニュー穴(あな~)てね。テヘペロ)という謎メッセージをLINEで発信した。

 巨神兵のご機嫌メッセージに対して堂島は「何だこれ、上手くはないなぁ……」とコメントした。


 巨神兵はまっすぐではなく、やや上方向に前ならえの姿勢を取った。するとぴしっと揃った巨神兵の左右の指10本から次々と岩が発射された。それは宙を舞い、やがて街の上へと落ちていく。

 ミニスカ侍達は岩が街に落ちたらヤバイと思いながらも、もう能力が使えないので打つ手がなかった。

 何も出来ないでいたこしのりは「ヤバイ!誰かアレを撃ち落とす技だせねぇのかよ」と言って皆の顔を見たが、やはり一同はもう能力を発動することができなかった。

 こしのりは歯を食いしばって、重力のままに落下して岩を見送るしかできなかった。この時こしのりは、ボールを目で追えているのに、体の反応が追いつかないために見送り三振してしまうバッターの気持ちがちょっとだけ分かったという。

 スミレは岩が落下するのを見ていられず、目を伏せていた。

 やがて街には残酷な岩の落下音が響くはずだった。しかし待てど暮らせど落下音がミニスカ侍達の耳に届くことはなかった。

 

「アレ?」

 獣の耳を持つむろにも何の音も聞こえない。

 

 これには巨神兵も首を傾げた。巨神兵はとりあえず第二派として、両目から発射されるビームを空高く打ち上げた。ビームは空中で拡散され、街のあちこち目掛けて降り注いだ。

 時間的に「ドンドン」と音を立ててビームの命中音が響くはずなのに、やはり今回も何も音がしない。

 巨神兵にミニスカ侍達も含めた皆が不思議に思っていた中、ブラジル帰りのこの男だけは不敵に笑っていた。そう、笑みの発せられた元は丑光の口であった。

 こしのりは、いつもの気持ちの悪い笑いを懐かしいとも想いながら後ろを振り返った。

「あっ、丑光!お前……」この時、こしのりが何故驚いてそう言ったのかというと、丑光のピンクのミニスカが光輝いていたからだ。

「ふふふ……これが進化した僕の力さ!」

 街に被害が出なかった理由は丑光が握っていた。


「説明しよう!僕が最初に目覚めた壁抜けの能力、あれは本当にしょうもなかったが、そんなあれを応用して今の攻撃を無へと替えたのさ」説明好きの丑光は勝手に喋り始めた。

「読めたぞ。修行してパワーアップしたお前は、自分自信だけではなく、特定の対象物をも壁抜けさせる能力を得たというわけだな。さっきのは、巨神兵の攻撃に壁抜け能力を持たせたんだ。だから岩もビームも街を通り抜けた」読みの良い根岸は丑光より先に答えを言ってしまった。

「むむっ!根岸くん、君ってヤツは侮れないなぁ。正解だよ」少し悔しそうに丑光は言った。そしてまだ続ける「しかし、それよりもっとすごいこともやっている。まぁ見ているといいよ」


 ミニスカ侍が手をこまねいてる間に巨神兵はもう陸に近づいていた。そして今、ヤツの片足は海から陸へと上がる瞬間を迎えていた。しかし、陸に接地するはずの巨神兵の足裏はスルッと地面をすり抜けて地下に隠れてしまう。ビックリした巨神兵は足をスルッと抜いて、また両足で海に立った。

「え!何今の?気持ち悪い。陸に上がったと思ったらまた海に戻ったぞ」目の良いこしのりは、距離が結構離れていても巨神兵のアクションの違和感をしっかり両目に捉えていた。

「ふふっ、これさ!いいかい、ヤツにとって今この街はどこからどこまでも全てすり抜ける。これは巨神兵オンリーに対する効果だ。街にいる人は普通に立っているよ。この能力を発動している間、巨神兵だけは上陸も出来なければ街に射程攻撃を加えることもできない」丑光は勝ち誇ったようにして説明を終えた。

「つまり、今はずっとこちらのターンで、相手の攻撃を気にせず済むという無敵状態ということだね」

「その通りだよ田代さん」


「皆!そういう訳だから、今の内に総攻撃をかけてよ。ヤツを倒すなら今しかない」

 丑光の号令を聞いた6人は黙り込んだ。

「……どうしたの?早くしなよ。破滅はすぐそこだよ。グズグスしている場合じゃないよ」

 丑光の言うことは分かりきっていたが、それでも6人も動けなかった。何せ6人共もう攻撃するだけの元気が残っていなかったのだから。 

 やる気十分な丑光に、メンバーを代表して根岸がこれまでのことを説明した。根岸は、ちょっと本を読めば猿でも分かる程にやさしく説明した。それを聞き終えた丑光はこう言った。

「うん、じゃあ僕らの負けだ。今発動中の能力は、考え方によると反則級な大掛かりなことをやっているんだ。こんなことがそう長く行えるはずがない。誓って言うよ、僕のこの能力はあと5分と持たない。5分が過ぎたら、僕らは回避も防御も行えず、巨神兵のやりたいままに破壊活動を受けるしかない」

 丑光はあっけからんとしてこう言ったが、両の目にはしっかり涙を浮かべていた。

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