第百三十三話 始動!史上最大の15分間からの延長
ポイズンマムシシティ上空は煙というか雲に覆われ、これが晴れるにはまだ時間がかかる。スミレが落とした折鶴の爆発力はそれだけに強力なものであった。今、6人のミニスカ侍は上半身が吹っ飛んだ巨神兵を見上げている。
こしのりは残った足でしっかり立ったまま動かない巨神兵を見て「おいおい、これ勝ったのかな。もう終わりかな」と言った。
「大人しく往生してや。もうこっちはヘトヘトやで」
「おいスミレ、もう大丈夫そうならミニスカを返してくれないか。褌一丁はちょっと……」と恥ずかしそうに根岸が言った。
「あんた達……」スミレは室以外の褌連中を見る。「どうしたのそれ?」
「これはあの和尚にもらったのさ。お前にミニスカを渡してパン一にならないようにな」と言った堂島は両手を腰にに当ててオレンジの褌がよく見えるように立っていた。
「それってパン一と何か大差あるの?」とスミレは返す。
「ははっ、無いかもね~。でもコレは良い色してるだろ」緑色の褌が気に入った田代が答えた。
「お前も和尚になんだっけな、女版の褌みたいなのもらったんだろ?」
「ブルマよ!褌じゃない!」
こしのりはブルマを知らない世代だった。彼らが小学校に上がった段階には既に女子学生の体操着はハーフパンツになっていた。スミレは今回人生初のブルマ着用となった。
ここでこしのりの携帯にメールが入った。
「誰だ誰だあめおめ(明けましておめでとう)メールを送って来たのは~」と言ってこしのりが携帯をパカッっと開くとそこにはビックリなメッセージが表記されていた。
(明けましておめでとう! 皆がこんなに頑張るから、年内に全部終わらせるつもりがついに年を越しちゃったね! という訳でここから試合再開だよ! あけまして巨神兵)
こしのりはこのメールを読んでワナワナ震えながら海上の巨神兵を見た。丁度この時、年を越えて2018年を迎えたのであった。
「どうしたこしのり?」根岸がそう声をかけた。
「おい……まだ終わってないらしいぜ。再開だとよ。それから……明けましておめでとう」こしのりはそう言って巨神兵を指さした。
こしのりの言葉を聞いて五人は巨神兵に目を向けた。巨神兵の上半身は吹っ飛んで、上から覗くと中が空洞になっている。残された臍から下部分のその空洞からキラキラ光る何かが浮かび上がってきた。それは菱形をしていて車一台分くらいの大きさに見えた。ネタを明かして置くとコレがヤツの核なる部分である。その巨神兵の核が一際強く煌めくと、何と巨神兵のふっ飛ばされた上半身が見る見る元通りになっていった。その風景は、まるで砂が舞い踊っているような幻想的なものであった。
「あ……あ」これを見たこしのりは驚きで口が開いてしまった。
「マジかいなぁ……」室はさすがに肩を落とした。
根岸が奪った片腕、こしのりが奪った片腕、そしてスミレがふっ飛ばした頭と胴体のほとんどがすっかり元通りになり、巨神兵だけが紅白の放送が終わったあの時に戻ってしまったみたいであった。
(サービスだ。本の少しだけ新年を見せてやる。でもサービスはそこまで、夜明けはもう見れないものと思え。 2018年の巨神兵)
港から怨敵の復活劇を何から何までをすっかり見てしまった6人は絶望を顔から隠せなかった。
6人いても5人はもう動けない。そしてスミレだってあれだけのことをした後ではタダでは済まなかった。
「くっ、もう一度鶴を落とすわ!」スミレは地面を蹴って空に浮いたと思ったら、次の瞬間には地面に落ちてしまった。
「飛べない……そんな」
スミレのミニスカが一瞬光ると、4つの光が飛び出した。それらはスミレのミニスカが取り込んだ4人のミニスカ侍のミニスカそのものであった。4つの光はそれぞれ持ち主の元に帰った。こしのり、根岸、堂島、田代は再びミニスカで褌を覆い隠すことになった。
根岸が口を開き「スミレも限界か……万策尽きたってわけだな」と言った。
「姉ちゃんはあれだけのことをしたんや。ようやってくれたでホンマに」室はそう言うと地面に腹ばいになって倒れているスミレの肩にポンと手を置いた。
スミレは俯いて「ごめん、私もう……」とだけ漏らした。
復活を遂げた巨神兵は海の中を進み、港にいる6人に近づいて来る。
6人が頑張って頑張って2018年まで時間を繋いだが、このままだとこの年はニュース一つないまま終わりを迎えそうであった。