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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第百二十一話 海のクマさん

 港近くではミニスカ侍達と巨神兵との壮絶な闘いが未だ続いていた。

「室~そいつを何とかここから遠ざけてくれよ俺の家の前でドンパチやられたら気が気じゃないぜ」堂島は巨神兵と室とが争うことによって我が家が吹っ飛ばされないかを危惧していた。 

「海だ。街の被害を無くすには海に引っ張り込めばいい」賢い根岸は海を指差してそう言った。

 これに室は大きく頷いた。堂島の家から海は近い。室はとりあえず奴との戦いの場を海に移すことにした。

「田代はん!頼みまっせ」

「はいはい分かったよ」

 室の呼びかけに答え、田代は気を集中する。田代の緑のミニスカが光輝きだした。すると空にはまた無数の空き缶の姿が見えるようになった。空き缶は地面目掛けて次々と落ちてくる。それが巨神兵を狙うかと思いきや、全ての空き缶の目指した先は室であった。空き缶は室の全身にくっついて行き、室の全身を覆っていった。この作業は実に早く、ものの10秒もたたぬうちに室は空き缶の鎧を纏うに至った。頭には兜も忘れてはいない。室の毛深い顔の一部のみが覗くだけで、あとは頭からつま先まで空き缶の鎧で覆われていた。

「はっは~フルアーマ室、プロデュースバイ田代の完成や!」

 これには一同驚愕するばかりであった。田代が鎧に用いた空き缶の数は万単位に昇る。世界にはこれだけの空き缶が転がっているのだ。室の全身を覆う数の空き缶が飛ぶ様を見た堂島と根岸は口を開いて驚くばかりであった。

「すっすごい……」と根岸が言い、堂島は「確かにすごい……けど、ダサイ」と田代の空き缶鎧を評価した。そう、実際に見た私としても堂島には同感してしまう。それだけに空き缶鎧のデザインがダサいというか、どこか間の抜けた感じの見た目であったのだ。

「う~ん、私は図工とか美術の成績はよくなかったからね。時代劇を思い出して作ったんだが、若者諸君には受けが悪いようだね。でもね、見た目はどうあれ、あれで室はしっかりパワーアップしているよ」

 空き缶戦士の室は巨神兵の両肩を掴んだ。そしてあの巨大な巨神兵をゆっくりと持ち上げ、次に彼は全身に力を入れ、勢い良く巨神兵を海に向かって投げ飛ばした。巨体が宙を舞うのを一同は目で追うばかりであった。

「ああ!あんなのを投げ入れたらまた大波がおこるだろうが!」と堂島はまた波が来るのを心配した。

「その心配はいらないよ堂島君」と田代は答えた。

 巨神兵が海に落ちる間際、水面すれすれに大量の空き缶で出来た足場が出来上がった。これは巨神兵の落下地点を計算して田代が作ったものである。巨神兵は一旦は空き缶で出来た足場にぶつかる。田代の力をまとって組まれた空き缶の足場は巨神兵が落ちても崩れることはない。田代が直ちに空き缶の足場を解くと、巨神兵は静かに海に落ちた。その時には室の足はもう海の中であった。

「頼むぞ室。ここで倒してしまえば街は無事だ」願いをこめて根岸が言った。

 田代の空き缶で身を覆われたことで、室は更なるパワーアップを果たした。室と田代の合わせ技を披露したことで戦況が大きく変わることが期待された。

 室は海の中に倒れる巨神兵に歩み寄っていく。これを遠め目に見る堂島は「これじゃまるで怪獣映画だな」とコメントした。

 巨神兵はいつまでも倒れてはいなかった。奴は直ちに立ち上がり、近寄って来る室に向かって目から発射されるビームをお見舞いした。ビームは真っ直ぐに室に向かって伸びて行き、室の胸部に当たると爆発を起こした。海にはビームの爆発音が響き渡る。

 爆煙が室と巨神兵を包んだ。程無くして爆煙をかき分けて室の手が伸び、そのまま巨神兵のボディにしたかな一撃を喰らわした。そのまま室はワンツーパンチをかまし、最後には体重を乗せた強烈な右パンチを巨神兵の頭上に落とし、再び奴を海面に沈めてしまった。彼の猛攻は、さながら怒れる破壊神を想像させるものであった。

 先程ビームが当たった室の胸部からは煙が上がっていたが、その部分はしっかり空き缶の鎧に守られて室はノーダメージで済んだ。

「どうした、もう立てねえのかこの野郎」

 海面に顔を沈めた巨神兵はただ「ゴボゴボ」と返すのみであった。

「勝てるぞコレは!」堂島は元気付いた。今日ほど皆の目に室が頼もしく映ったことはなかった。なんせ普段の彼ときたらこしのりの家で菓子を食ってゴロゴロやっているばかりである。皆にはその認識しかなかった。

 巨神兵は勢い良く海面から飛び上がり、室のあごに自らの固い頭部をぶつけた。

「うおぁ!」と言って室は三歩ほど後ろに下がった。

 巨神兵の目は光っている。巨神兵は残った左手を上げ、陸を指差した。

「ん?」室は不思議に想い、奴の指差す先に目をやった。そこにあったのは、根岸との戦いによって地面に落とされた巨神兵の右腕であった。

 巨神兵が指差した後、巨神兵の右腕の残骸はまるで粘土のようにぐにゃっと形を崩し始めた。そしてその粘土はプツプツとちぎれて行く。落とされた右腕が小分けにされ、それら一つ一つはなんと、あのミニサイズの巨神兵、通称「小神兵」へと姿を変えた。街には数十体の小神兵が姿を現した。

 これを目にしたガス欠の根岸と堂島は絶望の表情を浮かべた。あれが街に散らばればとんでもないことになる。しかし彼らは先程記した通りのガス欠状態である。

 それに加え、更なるピンチがミニスカ侍達を襲うことになる。

「ううっ!」と呻き声を上げて田代が地面に屈んだ。今は真冬だというのに彼の額はべったりと汗で覆われていた。

「まさか……」根岸と堂島は同時にそう言った。

 そうそのまさかで、田代にも限界が迫りつつあった。

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