第十二話 男でも女でも心地良きは勝手知ったる仲
8月13日、この日もポイズンマムシシティはとりあえずの平和を保っている。ただクソ暑いのが困り物である。
その日の昼、我らが愛するミニスカ侍のこしのりと丑光の両名はこしのりの家の縁側に腰掛けて、冷たい水が入った盥に素足を浸して西瓜を齧っては種を庭に吐き飛ばしていた。現代人から見ても電気をまったく使用しない二人の涼の取り方は最高に贅沢な物だと思える。私は第三者目線で二人を見て、実に風情がある良い光景だと思った。ちなみに二人は上はシャツを着ているが下はミニスカを脱ぎ、パンツのみである。
おっと、西瓜と言えばで思い出した面白エピソードが一つ。
私の古い知り合いの爺さんが悪さばかりをしていてた若い時分に、親やその他の親戚の策にかかって図らずも自衛隊に入れられて厳しい規則の下で生活することになった。そこでは満足行く量の飯にありつけなかったため、彼は深夜に屯所の柵を越えて最寄の畑から西瓜を泥棒したことがあったと言う。「もう時効っしょ」と笑いながら彼がつい最近、私に話してくれたエピソードである。この話については、もう今後一生思い出さないかもしれないので、この機会にここに記しておくことにした。
では話を戻そう。
「いや~ 僕は夏なんて暑いだけで好きじゃないんだけど、この西瓜って奴は格別だね。カラッカラの喉から五臓六腑にまで、この心地良い冷たさが染み渡るじゃないか」
雑食のため基本何を食ってもご機嫌な丑光が例によって例のごとく饒舌に食リポを始める。ウザいけど私は彼のお喋りが嫌いではない。
「ああ、コイツは裏のシゲさんからの差し入れさ。何たって俺達は救いのヒーローだぜ。それにしても五臓六腑ってどことどこのことなんだろうな」
シゲさんにはこしのりの祖母を通じて、こしのり達ミニスカ侍の話が伝わっている。
「そういやどこのことを言ってるかは知らないな。日常会話で使用しておきながら意味がよくわかっていないとはこれ如何に、だね。こしのりからは学ばされることが多いね。今日帰ったら調べてみるよ。ネット検索でね」
丑光は日々生活から学びを行う人間である。我々現代人が忘れてはいけない生活スタイルである。
丑光が話しを続ける。
「そう言えば、裏のシゲさんってお爺さんはスッポンを捕まえては売り捌いて金にするというじゃないか。どうだね、儲かるものなのかい」
「さあね、実際に捕まえたところは見たことないし、今度聞いてみようかな」
「もし、シゲさんがこしのりの家にスッポンを持ってきたら僕にも食べさせてくれよ。あれはまだ食べたことがないんだ。一体どんな味なのか一つ味見したいじゃないか」
「え、それよりもお前の兄さんだろう。あれが必要なのは」
「兄さんはそんな元気をつける必要は無いさ。今頃はもうカスミ姉さんのお腹に命として数得られないほどに小さな新しい命を宿らせている頃さ」
「お前は高校生にしてもう叔父さんになるんだな。いやいや早いもんだな」
知っているかい、スッポンを食うと体の色んなところが元気になると言う。
「それにしても盥の水が温くなってきたね」
「だな。温いわコレ」
この気の利いた盥はこしのりの祖母が用意した。祖母は孫とその友人にあれこれと構うのがどうやら楽しいらしい。皆さんも歳を召せばきっとこしのりの祖母の気持ちがわかるであろう。
二人がパンツ姿で涼を取っているところに不意の訪問者が現れた。お隣のスミレちゃんである。ちなみにこしのりの家の向かって右隣が丑光の家、そして左隣がスミレの家である。
「あっ!アンタ達なんて格好でいるのよ」
回覧板を持って来たが、ピンポンを押しても誰も出ないので気心知れたお隣さんのスミレちゃんは庭の方に回ってきたのだ。こしのり家の皆さんはそれぞれの用で皆外出中であった。
「やあやあ、こいつはスミレちゃんじゃないか。君もこっちに来てこいつをお呼ばれしちゃどうだい。ご機嫌な甘さだよ」
「おおスミレ、こっちに塩もあるから好きに使いな」
彼女もこのパンツ姿の二人の男子と同じ歳の15歳の少女である。この三人は保育園から始まり小・中・高とずっと一緒のところへ通っている。
そんな花も恥らう乙女を前にしてパンツ姿で平然と話かける二人は色々配慮が足らないとも思えるが、男女間でもこのオープン具合でまかり通る仲の三人であることも事実である。
「うんうん、コレおいしいね」
ほんのちょっとの動揺の後、スミレも縁側に並んで腰掛けて西瓜をパクついている。今日日の女子高生は男のパンツの一枚や二枚で無様にうろたえたりしない。
「スミレちゃんも食いっぷりがいいね。僕も次を貰おう」
「お前、良く食うよな~ じゃあ俺ももう一つ」
そして二人は西瓜を食っては種を飛ばす。スミレも加わり三人揃って種を飛ばす。縁側から地面まで黒い、たまに白も混じった橋が架かる。
「はい、こしのり回覧板」
「はいはいご苦労さん」
こしのりはスミレから回覧板を受け取る。
スミレは縁側に脱ぎ捨てられた二人のミニスカを見た。
「本当にコレしか穿けないようになったんだね」
「まぁね。夏は涼しいもんだよ」
すっかりミニスカに慣れた感じでこしのりが答える。彼がミニスカ生活を始めてまだ三日と経っていない。
「アンタ達、変な趣味に目覚めたんじゃないでしょうね」
「スミレちゃん、それは無いよ。このミニスカ生活も今年一杯だけのものだよ。来年からはケミカルウォッシュだってチノパンだって何でも穿き放題さ」
「そう言えば昨日、スカートを穿いた熊らしきものを見たんだけどアレもあんた達の仲間?」
「ああ、アイツは室って言って俺達とは一蓮托生の仲さ。ミニスカで広がる種族を超えた友情ってやつだ」
「ああ、そうだよこしのり。何と言っても僕は今日、その室についての話を聞きに来たんだ。昨日はトンカツを食った後に秋刀魚まで食って幸せ一杯だったから、そんなことはどうでも良くなって帰って風呂にしたんだが、あの熊を仲間にした話の詳しいところを僕はまだ知らないんだよ」
「何!お前トンカツなんていう月一回あるか無いかの上等な物を食っておきながら、俺の秋刀魚まで食ったのか!何て奴だ。だったらアレは分けずに俺が食っておけばよかったぜ」
「まぁまぁそんなことを言わないでくれよ。昨日は兄さんからの驚きの報告で一気にカロリー消費しちゃってトンカツでもまだ足らなかったのさ」
「馬男兄ちゃんの結婚とお前の腹事情はどうやっても結び付かんだろうが」
昨日の秋刀魚を巡って二人は揉めだした。
スミレはアホくさい男子二人を呆れて見ているが、この幼き頃から見慣れた光景を見てどこか心落ち着くものを感じもした。スミレは二人を良く知る今も昔も心優しい少女である。