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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第百十九話 気張るぜお坊ちゃま

「こしのり~まだ~」

「まだ~」

 こしのりはまだトイレから出ることが出来ない。トイレにこもるこしのりと屋根に立つスミレの間で会話が行われていた。

「スミレ~外どうなってる?」

「……想像を絶することになっているわよ」

 こしのりのいるトイレの窓からでは巨神兵の姿を見ることが出来なかった。

「動き出した巨神兵は港の方に向かったわ。それからさっきすごい音がしたでしょ。あれは根岸君が特大の紙飛行機を巨神兵の上に落としたのが爆発したのよ」

「へえ~根岸の使えない紙飛行機の能力が攻撃に役立つようになったんだな。で、どうよ?」

「それが、巨神兵の片腕を落とすことはできたんだけど……どうやら相手はまだ元気みたい」

「やっぱり根岸の紙飛行機じゃそれが限界か~」

「あんたねぇ……皆頑張ってるんだから早く出てきなさいよ!」

 こんな感じで今回のお話でも、こしのりのトイレの外での出番を見ることは叶わないのであった。


 スイーツ店『堂島』の前では尚も巨神兵とミニスカ侍達が対峙していた。

「おい根岸、あいつまだ元気だぞ。さっきのデカい紙飛行機をあと5、6個ぶつけてやってくれよ。そうしたら何とかなるだろう」という堂島の声を受けて根岸はスムーズに回答することが出来ない。そしてよく見ると様子がおかしい。それに気づいた堂島の愛すべき妹の留美は「根岸さん……どうしたんですか?」と声をかけた。立っている根岸の膝は笑っていた。

「すまない堂島。その希望には答えられない。さっきの紙飛行機はあれ一つきりしか作れない」

「えっ、何でさ」  

「……スタミナ切れだ」

 根岸のこの回答に堂島は絶望の色を顔に出した。

「おいおい!これどうするんだよ。俺はこの通りもう砂糖しか出せないぞ」

 ちょっと前まで引きこもり(ヒッキー)だった上に、甘やかされた環境でぬくぬくと育ってきたお坊ちゃまの根岸には元々たいしたスタミナなど備わってはいない。それがあそこまでのパワーアップをしただけでも評価してあげたいものだが、この後に及んでスタミナ切れとは情けないと想うのもまた事実であった。

「まぁでもお前ほどガス欠ではない。さっきの紙飛行機は作れないけど、ちょっとは闘えるさ」

 堂島のピンチに根岸が駆けつけたが、それでもまだピンチを抜け出せない。ミニスカ侍達がこんな調子でも、破壊者の巨神兵はそんなことはお構いなしで次の一手に出る。

 腕を落とされた奴の次なる攻撃は、両目から出すビーム光線であった。巨神兵の目が一瞬光ったかと想うと、真っ直ぐに光線がミニスカ侍達に向かっ伸びて来た。

 堂島は「うわっ」と言いながらも妹に覆いかぶさることで、攻撃から守ろうとした。堂島が静かに目を開けるとビーム光線はぶつかる直前で止まっていた。

「はぁ~間に合った」と根岸が言った。根岸は空中に小さな紙飛行機を三つ飛ばしていた。それぞれの紙飛行機は青白い光で繋がれていて、三つが配置された関係から空中に三角形のバリアが張られていた。

「おお!こんなことも出来るのか!」

「はぁはぁ……」

 堂島が安心したのもつかの間、根岸は肩で息をし始め、遂には膝を折ってしまった。この疲れ具合は先ほど堂島に見られたのと同じであった。

「おい……根岸……どうした?」

「分かるだろうが、更なるスタミナ切れだよ」

「おい!しっかりしろ!ここには留美たんもいるんだよ!お前が倒れたら皆終わりだろうが!」

 巨神兵の目から放たれるビーム光線は尚も止まない。これを耐える内に根岸の体力はどんどん持っていかれる。

「おい、砂糖を食え!これで少しは回復するだろ!」堂島はそう言いながら先ほど体内から噴出した砂糖を手づかみして根岸の顔の近くまで持っていった。

「いや……それだけは……無理……」

 思い返すと、堂島の能力に対して「人から出てくる砂糖は無理」という意志を我先に示したのは根岸であった。そういう訳で、今回もやはり彼は堂島産の砂糖を拒否した。それから砂糖を食った所でミニスカ能力の回復はありえない。

 根岸の張ったバリアは今にも割れそうであった。

「あ~もうだめか~!くそぉ~何日も寺にいたんだから、こんなことなら念仏の唱え方でも教わっておけばよかったぜ」堂島はもう死ぬと想って念仏を唱えようとしたが、全然しらなかったのでそれは叶わない。

「だったら明日にでも陀身安和尚だみあんおしょうの所に行きな!」その声は堂島達が死を覚悟した瞬間、空から聞こえてきた。それから間を置かずにまた次の瞬間、巨神兵の横っ面に巨大な黒いが影が突撃した。あまりの衝撃に巨神兵は体勢を崩し二、三歩後ろに下がった。そして根岸への攻撃が止んだ。

「はぁ…助かったぁ……」安堵のため息と共にその一言を放った直後、根岸はゆっくりと地面に倒れた。

 堂島と留美は何が起きたか分からずに空を見上げた。そこにあったのは巨大な人っぽい影。闇夜の中、目を凝らしてそれをじっくり見ると、影の正体は巨大化した熊のむろだと分かった。

「おお!室かぁ!!でっかいな~!」

「はっは~、なんやお前念仏唱えようとしてたんかいな。まだまだそれには早いで。そんなもんを習いに行くなら2018年に入ってから何回でも行くとええがな」

「なっ、誰があんな寺に念仏の唱え方を習いにいくか!」

 留美は室と堂島の会話を笑いながら聞いていた。

「お~い、良かった。皆無事みたいだね」室に少し遅れて田代も合流した。

「あっ、田代さん、他はどうしたよ?」

 堂島のこの問いに対して田代は「うん、ちょっとね、まだ合流まで時間がかかるようだよ」と返した。

 室は先ほど打撃を加えた怨敵に向かい直って次のように言った「お前、よくもワイのマイホームと愛しい家族をあんな危ない目に合わせてくれたな。覚悟せえや」

 巨神兵を睨む室に対して、体勢を持ち直した巨神兵もまた光る両目に室を捕らえていた。  

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