第百十八話 割れる常識、生まれる非常識
「皆さん今年最後のこんばんは。現場の内田です」そう言った実況女子アナの内田は、現在実況用ヘリに乗り込み、ポイズンマムシシティの上空からこの世の終わりとも言えよう巨神兵とミニスカ侍達による聖戦をリポートしていた。
「私も本日ばかりはお休みを頂くはずだったのですが、そうもいかなくなりました。私が緊急にも関わらず現場に引っ張り出されることになった原因、それがこちらです」内田がそう言うと、カメラはポイズンマムシシティ全域を引きの画で映した。そこには動きだした巨神兵、消えて間もない山火事の後、大津波を防ぐ巨大な金平糖とマカロンという世にも不思議な光景が映し出されていた。
「ノストラダスムス……そう、世紀末に話題となったノストラダムスの大予言、あれは私がまだ幼い頃に流行ったオカルティックな騒動でした。あの予言が遅れて本日やって来た、そんな終末を予感させる画です。皆さん、いいですか皆さん、これはCGではありません。現代の日本で、ここポイズンマムシシティで実際に今この瞬間に起こっていることなのです!」
カメラの前ではいつも平常心、それを座右の銘にしている内田もさすがにこの予想だにしない光景を前にしてやや興奮気味であった。
「街中央にあった巨人の像が二足歩行して現在は港付近に移動しています。信じられません。長年私達の日々の生活を見守ってきたように思えたあの巨人の像が、破壊活動を行っている模様です。……うん、あれは、巨人の像の近くに人が……あれは、オレンジの……あ!オレンジのミニスカートを穿いた少年の姿が見えます」
ヘリは地上からかなり離れて飛んでいたが、闇夜でもそれと分かる程に堂島のオレンジ色のミニスカは光輝いていた。
「これは、ひょっとすると昨日取材にあたった7人のミニスカ侍の一人ではないでしょうか。オレンジ色の彼の姿は昨日の収録では確認できませんでしたが、どうやら察するにあの巨人の像と闘っているように思えます」
内田は、昨日のミニスカ侍生取材でこしのりが荒唐無稽なことをあれこれとほざいていたのを絶対嘘と決め込んでいたが、今になってどうやらあれは本当だったと悟った。
「信じられません。昨日取材したミニスカ少年の言った話は真実だった……ならば早急に残りの6人にも終結してもらわなければなりません!」
実況を行う内田は、ここは空の上だと言うのにヘリの外から「お~い!」と言う声がするのに気づいた。
「お~い!危ないからヘリをもう少し向こうに寄せろ!潰されるぞ!」
「え!なんでしょうか。空から声が……あ!あちらです。あちらをご覧ください。今度は黄色いミニスカートを穿いた少年が空を飛んで……というかあなたはいつぞやインタビューした可愛いメイドさんを連れていた方では?」
内田と接触した空飛ぶミニスカ少年は根岸であった。
「ああ、そんなこともあったかもな。まぁいいからもう少しヘリを向こうに寄せるんだ。それから、この騒ぎを知ったからと行って、戦闘機や戦車なんかを出すことはするなと国に向かってテレビで伝えてくれ。あの怪物相手には通常攻撃は効かないからな。貴重な国庫の財産を塵に変えたくなかったら俺の言うことを聞くべきだ」
巨神兵に対抗できるのはミニスカの能力のみ、それを知る根岸は無用な援護が入らぬよう先に手を打つことにした。
根岸の指示通りにヘリコプターが移動すると、程なくして雲を割って大きな影が下りてきた。これは根岸が作り上げた特大の紙飛行機である。「ゴゴゴ」と音を立てて紙飛行機は地上に向かって真っ直ぐに落ちていく。根岸の指示がなかったら内田達の乗り込むヘリは無事に済まなかったであろう。
「これは……またまた信じられません。今我々の目の前を巨大な紙飛行機が通過していきました。人間は慣れていく生き物と言いますが、これだけ次々と信じられないことが起きてもまだ私の感覚はこれらに慣れることが出来ません。これではまるでSF映画を見ているようです」
内田のリポートがのってきた。カメラは落下して行く紙飛行機を映したままである。
「あ!紙飛行機はあの巨人の像目掛けて飛んでいるようです。そしてもうすぐにもぶつかりそうです」
巨神兵は頭上の紙飛行機に気づき、右手を天にかざした。次の瞬間、紙飛行機は巨神兵の右腕にぶつかり大爆発が起こった。
「ドーン!」という轟音は街中に轟き渡り、新年到来を待たずにいつも通り床に着いていた一般人の方々をたたき起こすことになった。
「あ…あ…」生まれてこの方爆発というものを目にしたことのなかった内田のリポートも一旦途切れることになった。
これをほぼ真下で見ていた堂島は「……これヤバくない?警察とか消防とか来るんじゃない?」と口から漏らした。
堂島のいる地点に舞い降りた根岸も「うん、こんなにデカい爆発が起きるとは想わなかった」と言った。
この根岸の紙飛行機の能力は、かつてこしのりの口からかなりの文句を叩かれたくらいに使えなく、戦闘向きでなかった。それがこの度の修行によってここまでの破壊力を引き出す成長を遂げたのである。
「お前、あのメイドさんと一体どんな修行をしたらこんなことが出来るようになったんだよ。ちょっと前までマジで使えない能力だったじゃないか」
「うん、まぁかなりスパルタなトレーニングを受けたな。もう一生あんなことはしたくない。というかお前だって人のこと言えないくらいに使えない能力だったろうが」
二人の頭上には爆発によって起きた煙が広がり、巨神兵の姿は煙に飲まれてまだ見えない。二人はあの怪物のことだから今のでも倒せていないことを予想し、まだ緊張状態を解いてはいなかった。
やがて煙を割って巨神兵の大きな手が姿を現した。手はどんどん煙の外に姿を現す。肘の先が見えようかと想ったその時、その先がふっと途切れた。そして地面に巨神兵の右手が落ちた。この時にも大きな音がし、大地が揺れた。
「あ、巨神兵の片腕だけ落ちたぞ」と堂島が声を上げる。
「くそ、あれだけデカいのをかまして片腕のみしか持っていけなかったのか」根岸がそう言った時には煙も大方晴れ、巨神兵の光る目が二人のミニスカ侍に向いていたのが確認できた。奴はまだまだ元気であった。