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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第百十六話 空飛ぶ空き缶

「こしのり!こしのり!あんた急ぎなさいよ!」こしのりの家の屋根の上からスミレが怒鳴っている。彼女の声はトイレの窓からガンガン入ってきた。一方トイレのドアからはドンドンという音が響いていた。これはこしのりの母が「はやく出なさい」と言いながら扉を叩いているのだ。

 窓と扉から急げという声がしてこしのりを焦らせる。こうして踏んばる者を焦らせることがお腹に良いことかというと、そういう訳ではないのである。こしのりはかされてイラ立つばかりであった。

「うるさいな!かして何とかなる問題じゃないだろうが!」

 こしのりがトイレでの闘いを行っている間、街では巨神兵によって津波と火事が起きていた。ミニスカ侍達は恐怖のダブルパンチに翻弄されていたのである。

 火事が起きた毒蝮山には室と田代が向かい、津波が押し寄せる港付近には堂島の家があり彼は在宅中である。そこい今根岸が向かっている。

 各人がばらけて行動するのを、私は第三者目線で確認し記憶している。同時刻に違う場所にいた彼らの行動を全て知っている私がゆっくりと各人の行動について語って聞かせよう。

 まずは火に焼かれる毒蝮山に焦点をあてることにしよう。ここに今、むろが到着したところである。室の家族が住み、現在は冬眠している穴があるあたりにも火が周っていた。穴は深いのですぐに火で焼かれるとは思わないがのんびり構えている時間はない。

絹子きぬこ田吾作たごさく!」彼は嫁と息子の名前を呼ぶが返事はない。とにかく火を消さないことには安心ならぬ状態である。これだけの樹木があれば火は元気良く燃え広がっていく。しかし火を消そうにも水は用意できないし、ここまで消防車が来るのを待っていたら彼の家族は焼け死んでしまう。もう室にはゆっくり考える時間はなかった。彼はここで早くも今回の修行の成果を見せることになる。

「考えている時間はねぇ。とっておきを使うぜ!」室は気合を集中しミニスカパワーを開放した。彼の紫のミニスカが光輝くと、次の瞬間室の体がどんどん大きくなり、ものの数秒で彼の身長は山のどの木の高さも越してしまった。室の会得した能力は巨大化であった。

 巨大化した室は大きく息を吸い込み「ふう~」と一息に吐き出した。燃える木々は弓なりにしなり、火が一層大きくなっただけで消化には至らなかった。むしろ火が横に流れて被害が広がったような気もした。消化活動は室の想像通りにはいかなかった。

「ゼェ……ゼェ……」室は息切れを起こしていた。

 こうなったら火を踏んで消そうと決めた室は山の上でどんどん跳ねて見た。これによってものすごい揺れが起き、丘になった部分が土砂崩れをおこした。火が消えても木が折れて森を破壊するばかりであった。しかもごく僅かな範囲しか消化できていない。

「あれ?」そう言って彼は首をかしげた。あれもだめ、これもだめとなると彼の頭ではこの策に行き着くしかなかった。それというのがこれである。

「よし!もうおしっこしかない。丁度出そうだし」

 そう言って室は放尿の準備に取り掛かる。確かにこれだけ大きくなった彼が放つ小便ならば十分な消化効果が期待できそうだ。しかし消化のメリットがあっても、その後が最悪なことになるということも予想が出来た。


「お~いむろ~!」ここで遅れて田代が到着した。「室!はやまってはいけないよ。その手段はおす

すめ出来ない」

「でも速くしないと山が燃えるし、こっちも漏れるで!」 

「まぁそこは我慢するんだ。小便で火事を消した人物の代表としてガリバーが上げられるが、彼はそれをやった後は周りからかなり酷い目にあわされたんだ。なんたって消化に使う液体が液体だからね。火を消した英雄的行為を台無ししにしてしまう程に消化方法が不味かったんだね。だから君は想い留まるべきだ」

「確かに。家や家族をおしっこまみれにしたら後が大変だ」室は尿意を殺した。

「じゃあどうするんや?」

「まぁまぁ私に任せなさい。ホラ、空をご覧」そう言って田代が指差した西の空から、無数の小さな物体が飛んでくるのを室の両の目が捕らえた。

「あれは……空き缶や!」

 そう空飛ぶそれは空き缶であった。田代の能力は空き缶のみを呼び寄せる力である。彼はミニスカを穿くことによって空き缶だけを引き寄せる磁石人間となったのだ。

「しかし、なんちゅう数や!」

 空飛ぶ空き缶の量は半端ない数で、下から見ていると小さいものがたくさんあって気持ち悪くなる光景であった。これには蟻の行列を見て気持ち悪くなるあの感覚が蘇った。

「こいつを山の上で一斉にひっくり返すとね……」そこまで言うと田代は空き缶をコントロールし、全ての空き缶を逆さまにして見せた。すると次の瞬間、山に大雨が降った。

「こうして大雨になって火が消えるってわけさ」

 田代が引き寄せることが出来るのは本当に空き缶のみで、まだ開いていない新品の缶を飛ばすことは出来ない。全ての空き缶には池ですくった水がはいっていた。 

「池の水だからね、ちょっと汚れて臭いかもだけど、まぁ現状では最善策だろうね。海水やおしっこよりはマシだと思うよ」

 なんとこの緑のミニスカを穿くホームレスの田代は二度も火事現場で世のため人のためになる活躍をやってのけたのだ。

 毒蝮山を覆う炎は一瞬にして鎮火され、室は「ありがとう!おおきに田代はん!わいの家と家族が救われたで!」と言って田代に駆け寄った。

「おいおい、その体で走らないでくれ。揺れすぎだよ」

 さすがは田代、こんな古今東西に例のない騒ぎに面しても冷静に行動できている。私は彼程の男が何でホームレスをやっているのかが謎でならない。 

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