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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第十一話 七輪と秋刀魚と熊

 丑光が知らない内にこしのりはちゃっかり仲間を見つけていた。その名はむろ

 さぁさぁ室という奴が一体全体どんな奴なのか、この私も気になって仕方ないところだぜ。

 今夜、そんな室の謎が明かされる。


 

 その姿を始めて見た時には「なんだこれは、宇宙人のアイテムか!」と筆者がコメントした最新料理器具のIHクッキングヒーターもそこそこに一般家庭に普及している2017年の世に、我らがミニスカ侍が一人こしのりは古風にも七輪で秋刀魚を焼いていた。七輪に似合わないミニスカ姿で。

 七輪で秋刀魚を焼いて食った経験がある人は現在の世にはそうはいないだろう。七輪童貞の諸君に経験豊富な私が告げよう。七輪で焼く秋刀魚の美味さはダンチ(段違い)である。


 そんな七輪少年こしのりと向かいあう丑光少年の後ろに今、我々が気になって仕方がない室なる人物が立っていた。

 というところからこの第十一話は始まります。ちなみに私の家はまだガスコンロです。



「丑光、後ろ」

 丑光はこしのりに言われて後ろを振り返る。


「え・・・・・・・」

 おかしい。先程まで自分の後ろには肌を貫通するのではないかと思うくらいに眩しく強い夕暮れの太陽光線が射していたのに、あれは気のせいだったのか。丑光がそう思ったのも無理は無い。彼が振り向くとさっきまでの赤く輝く夕方の光景は消え、代わりにただ黒くて暗い光景が広がっていた。彼はたまに、本当にたまにだが、立ったまま寝ることがあった。一瞬で夕方から暗闇に変わったので丑光は、自分はまた立ったまま寝てしまったのかと思った。

 しかし、それは間違いで彼はしっかり起きていた。丑光が暗い空を見上げると彼の頭上50、60cm程の高さに暗闇に光る目が見えた。丑光と暗闇と、いや、言い換えると丑光と室とで目が合った。

 丑光は即座に脳内検索を行った。さすがにネット検索の情報量とスピードには劣るものの彼だって人間の中ではかなりコンピューターに近い処理能力を有している。そして彼がむろの異様な姿から検索して弾き出した答えがコレだ。

 

「こいつは、熊だね」

 正解、答えは熊である。

 我らが待ち望んだ第三のミニスカ侍の正体は食肉目クマ科の生物、学者先生だろうとただの一般人だろうと皆が決まってそう呼ぶ「熊」であった。

 丑光が見たところ、目の前の二本足で立った黒い毛の熊は体長2メートルを越えていると推測出来た。


「て、うわぁー!何でこんな所に熊が!」

 冷静に熊と言い当てた直後になって、丑光にとっては新世紀が明けてから一位の驚きが襲い掛かった。謎のスカート、メールや年末の音楽特番をたしなむ巨人の像、そして急な兄の結婚報告とここ数日で彼の周りでは驚くことばかりが起こった。しかし、そのどれよりも熊との遭遇による驚きの方が強烈であった。

 21世紀一位の驚きに面しても冷静沈着な丑光は無様に取り乱したりはしない。このあたりがそこらの10代と彼との大きな違いであった。

 丑光は脳内で考えを巡らす。

 

 以下、丑光の心の声

「熊、僕はこれまでとあるアニメ作品においてデフォルメされた毛の黄色い熊なら何度となく見て来た。しかし、リアルの方は例えテレビであってもそう見ることはない。ましてや実際に本物の姿を視覚に捉えるなんてことは初めてだ。この場合は死んだフリでやり過せなんて良く聞くが、同時にあれは効果が無いとも聞く。結局熊に会ったら最後、何をやってもごまかしは効かない。熊と遭遇して無事に帰る方法、そいつはあれこれと策を弄するまでもなく単純明快なことだ。力でねじ伏せる、それだけだ」

 先程、自分は臆病者だと叫んだ彼が取った臆病者の名に似合わない勇気ある策が次の通りである。


 丑光は腰を深く沈め、右手を後ろに引いた。

「くらえクマ公が!」

 その一声と共に丑光は目の前の巨大な熊の腹にありったけの力を込めた掌底打ちを放った。

 その一撃は狙い通りの場所に見事に決まった。


 それから3秒が経過した。


 丑光の攻撃は熊に全く効いてなかった。


「ですよね~ 降参します」

 丑光は一歩下がって土下座した。彼は他と比べて特別に運動能力が劣るという訳ではなかったが、夏休みに入って日々だらけた生活を続け、今ではすっかりモヤシっ子になっていた。そんなモヤシの掌底の一発や二発で熊が倒せるわけがなかった。


「おいおい、室はお前を襲ったりしないよ。俺達の仲間なんだぜ」

 七輪の前で団扇うちわをパタパタさせながらこしのりが言う。団扇の風で彼が穿いているミニスカもちょっとめくれてきている。


「お~い室、秋刀魚焼けたぞ~」

「ンゴンゴ」

 室はこしのりにそう答えた。

 熊なんてそこら辺を普通に歩いてる動物ではないので皆さんは熊の姿はおろか鳴き声にだって親しみがないであろう。実際の熊の鳴き声はこんな感じである。覚えておきたまえ。 


「室、その姿でうろついていたら人に見られた時不味いことになるぜ」

「ンゴンゴ」

 室はどこから取り出したかミニスカートを手にしていた。

 そしてそれを穿こうとする。


「おいおい、こんなに大きな熊さんがあんなスカートを穿けるもんか。スカートが裂けちまうぜ」

 先程まで室にビビリまくっていた丑光であるが、自分に危害を加えないとわかった途端に馴れ馴れしく調子をこいたいつもの口調に戻っていた。

 室が器用にも両足をスカートに通し始めると、なんと不思議なことにスカート生地が柔らかいゴムのように伸び、室の大きなウエストに合わせて変形していく。


「あれ?裂けるどころかスカートがでデカくなっている。そう言えばこいつは出所でどころ不明の謎のスカート、こんな芸当が出来ても不思議ではないという訳だ」

「なぁ不思議だろ。ああやって室に合わせて伸びるもんだから絶対に破けないんだよ。あとコレはお前がいない間に試したんだが、このスカートはえらく丈夫で引っ張たらどこまでも伸びて破けない、はさみを入れようとしてもぐにゃっとなったり、またカチカチに硬くなったりもして絶対に切れないんだ。そして最後には火を起こしてその中に放りこんでみたんだが、これも無駄。点火出来なきゃ焦げもしない」

「君、ダメじゃないか。無事だったから良かったものの、もし簡単に破けたり燃えたりしたら対巨神兵用の隠し玉が台無しのところじゃないか、乱暴な奴だな」

「はは、これっぽちのことでどうにかなるようなら対巨神兵用の隠し玉だなんて名乗れないぜ。それよりも不思議と言えば、ホラ、室を見てみろよ」

「ん、何々」

 室はしっかりミニスカートを穿き終えたところであった。

 それを丑光がずっと見ていたら室の体に変化が起こる。2メートルを越える程に大きかった室の体がみるみる小さくなり、150㎝くらいまでに縮んでいく。そして顔もリアルな熊からどんどん間の抜けた感じにデフォルメかかって行く。


「やや、コイツは漫画から抜け出たような熊に仕上がったもんだ。変身して体が伸び縮みするなんて『不可思議なエルモ』みたいじゃないか」

 丑光は目の前の不思議な光景を見て再び夢でも見ているのかと思った。


「お前って物事を何かの作品で例えることがあるけど、それ俺にはわかんないからさ」

「ああ、悪かったね。こっちの世界じゃメジャーな作品なんだけどね」

 こしのりもアニメやゲームなどを楽しむが丑光程詳しくはない。


「おっ、秋刀魚焼けてんじゃねぇか。頂くぜ」

 そう言って室は七輪から秋刀魚を一匹掴んで縁側に座ってパクパクと食い始めた。


「やや、遠慮のない熊だね。美味そうにパクパクいくじゃないか」

 丑光は興味津々に室を見ている。

「ああ、コイツは友好の証みたいなもんで室のために焼いたのさ 俺達も一緒に食おうじゃないか」

 こしのりは丁度三匹焼いていたので自分の分と丑光の分を皿に取った。


「丑光もこっちに座って食おうぜ」

 丑光はトンカツ弁当を食べたばかりであったが、一日何をするわけでなくともカロリーを大量に必要とする若さの盛りである齢15の少年の体は早くも次なるご馳走を求めていた。

「じゃあ、遠慮なく頂こう」 

 そして、まだまだ暑い8月12日夕方の縁側には縮んだ熊と二人の少年が並んで腰を下ろし、仲良く談笑しながら秋刀魚を食っていた。こんな平和な光景が世知辛い平成の世のあちこちで見られるだろうか。答えは否、彼ら2人と1匹は地球の平和な未来を背負う戦士だが今日のこの時間は本当に心穏やかに過すことが出来たのだ。


 あと、一言のみだったが熊の室が急に人語を操ったことに関して、それを今日始めて知った丑光だが、彼はとにかく順応が早いので、これだけ不思議なことが続けば熊が喋ったってありえることだろうくらいに思っていたのでわざわざ驚きのていを現したりはしなかった。皆さんも驚く程に多様化していくこの社会と円滑に関わって行きたければ、彼のように少々のことに負けない強いハートと柔軟な順応力を身に着けることだ。以上、丑光から学ぶ人生流々講座でした。

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