表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
107/144

第百七話 あいてくれ!

 ミニスカ侍達の厳しい修行も数日が過ぎたある日の晩のことである。

 毒魔夢寺どくまむじ山中陀身安やまなかだみあん和尚は額に青筋を立ててうなっていた。風呂から上がってそれを目にしたこしのりは和尚に何をしているのかと尋ねた。

「私はこの瓶を開けたいんだよ」

 和尚が唸っていたのは瓶をあけるために手にたっぷり力をこめていたからだ。瓶の中には大量の梅が漬けられていた。

「梅干か。どうするんだよ?」

「これは格別美味い梅だ。これで今晩は梅酒を頂きたかったんだ。しかし開かない」

「そんな物が開けられないようなら和尚も歳だな。貸してみろよ」

 こしのりは瓶の蓋に手を添えて「こういうのはな、こう力をね、一気に、ぎゅっとね!」と言って力の限り蓋を回そうとした。

「ん……ぷあっ!なんだコレ!2mmだって動かないぞ」

 なぜ2mmという数字を選んだかは謎だが、とにかくこしのりでも全く蓋を開けることができなかった。

 二人が瓶を囲んで悩んでいると、「プリンがほしい」と言ってコンビニへ出かけて行った丑光が丁度寺に帰ってきた。

「やあやあ二人して悩ましげな顔をしてどうしたんだい?」

 暢気に声をかけてきた彼が手にした袋に入っていたのは、当初の目的とは違う桜餅であった。どうやら陳列棚を見てから気分が変わったようだ。丑光にはよくある心変わりである。

「ふむふむ、瓶が開かないと。なら僕に任せなよ。全く、大の男が二人して何を悩んでいるかと思えば……しかも片方は偉いお坊さんと来ている」

 丑光は偉そうにそう言うと、両手をブラブラさせて手首のストレッチを始めた。そして首を回して「よし!」と言うと瓶の蓋に手を添えた。もう皆さんにもオチがわかったことだろうと思うが、丑光ごときではこの瓶の蓋はとても開けることができなかった。

「はぁはぁ、なんてこったい。全く、2mmだって動きはしない。ああ、たった小指の爪の長さ程向こうに梅があるのに触れることが出来ないなんて歯痒いね」そう言うと丑光は回れ右して机の前に座り、桜餅を食べ始めた。

「どうする和尚、諦めるか?」とこしのりが聞いた。

「いや!今日はどうしても梅酒が飲みたいんだ!これが開けば君たちにも梅サイダーをご馳走してやるぞ」

「何!梅サイダーだと、そいつは美味そうだ」

 二人は盛り上がっていた。

 そこへ次は、「ランニングをして来る」という嘘を付いて、歩きで実家近くまで行き、窓越しに妹の姿を覗いていた堂島が帰ってきた。修行を行う上で邪念になるということで、彼は愛する妹との接触を禁止されていた。しかもこれは妹からの提案である。

「ふぅ、良い気分だぜ(留美たんを見れてな)」

「あっ、堂島。コイツはお前に任せよう」こしのりはそう言って、堂島に瓶の蓋を開けるように頼んだ。

「ふふ、俺のパワーを見せてやる。これでも俺はかつて『子子子子子子子子子子子子ねこのここねこ ししのここじし』の頭を張ってた男だぜ!」

 ご機嫌にそう言って堂島は蓋に力を加えた。すると「キュッキュ」とだけ音がして結局蓋は全然動かなかった。

「……で、昔は何の頭を張ってたって?」皮肉たっぷりにこしのりが言った。

「いや、参った。これは本当に参った。この俺が2mmだって動かせない蓋だぜ。こいつマジもんだよ」

 あの堂島が降参した。これでいよいよ瓶の蓋を開けるのは無理かと思われた。

「ああ~梅酒が飲みたい!もうこうなったらしかたない。割る!ハンマーだ!」

「おいおい和尚、何もそこまで……ちょっと落ち着きなよ」

 瓶を叩き割ろうとする和尚をこしのりがなだめていた。桜餅を食いながら丑光は「これが本当に徳の高いお坊様かい」と思ったが、梅酒ソーダは確かに飲みたいとも思ったので、ハンマーで割るのに賛成であった。

 開かない瓶を前にやや乱心気味のこの陀身安だみあん和尚はその道では本当に偉い人で、お坊さんの階級では大僧正という位にいる人物である。詳しいことは分からないが、大僧正というのは専務よりも偉いと私の父が言っていた。

 梅の瓶を前にちょっとした騒ぎが起きている所に、風呂上りのスミレがやって来た。うるさいから何だと思えば、男が4人集まって瓶の蓋が開かないと騒いでいるので彼女は呆れ顔になった。

「ちょっと貸してよ」

 スミレは瓶の蓋に手を添えた。

「スミレちゃん、僕たち屈強な男が開けられないソレを、か弱い……の範囲は越えていても女子の身の君に開けられる訳がないだろう」と桜餅をもぐもぐしながら丑光が言った。

 しかし次の瞬間、か弱いの範囲をちょっとだけ越えた彼女の手によってそれは簡単に開けられた。

 開いた蓋を片手にした彼女は「で、誰が屈強な男だって?」と言って一同を見渡した。

 男性一同はポカンと口を開けて見ていた。

「……世にはまだ不思議なことが溢れている。人生日々修行、苦行と発見の毎日だ」それっぽいことを言って和尚は場を締めた。

 かくしてその晩、和尚は梅酒を、未成年のミニスカ侍達は梅ソーダを堪能したのである。厳しい修行の合間の一杯は格別美味かったそうな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ