第百三話 Water surface walker
一同は真っ暗な地下室から明るき地上に戻ってきた。やはりお天道様の下が一番。暗いところが怖い丑光は特にそう思ったのである。
「それにしても、このミニスカは水の上を歩くってのと縁があるみたいだね。こしのりのお爺さんの話でも、おしっこで出来た橋の上を走った人が出てきているじゃないか」
丑光が言ったこの話については第二話を参照して頂きたい。
「あっ、そう言えばそうだったな。待てよ、ということはこのミニスカを穿くと、もれなく水の上を歩けるんじゃないのか」
こしのりは意外なことに気づいたぞ。
「それは試す価値があるかもしれない。言われてみると、水の上なんか歩こうと思ったこともない。やってみると浮くかもしれんな」と堂島が言った。
「いや、ないだろう」と言った根岸だが、ファンタジー小説を読んで「水に浮けたらきっと楽しい」とは思っていた。
「おっ、丁度いい所に池があるじゃないか。それでは浮くのか沈むのか試してみようじゃないか」と丑光は言った。
話を聞くと、皆かつて経験したことのない「水に浮く」「水の上を歩く」ということに興味を持った。
というわけで、スミレ以外のミニスカ侍6人は池の前に横一列になった。
「じゃあ、いくぜ皆」とこしのりが合図を出す。そして次の「せ~の」の掛け声の後6人は同時に一歩を踏み出し、ドボンと音を立てて池の中へと沈んでいった。しかし水しぶきは五つ見えたのみであった。賢い根岸は、話を合わす振りだけして一同が浮くかどうか確認していた。案の定皆池に落ちたのでやっぱりチャレンジしなくて正解だと思っていた。
「まぁこうなるわな~。わいは川で水浴びとかするから浮かないってわかってたけどね」
森の住人である室は既にお試し済みだったが、面白そうなので黙っていた。
「あ~最悪だコレ。寒っ!」そう言いながら堂島は一番に上がってきた。今は十二月である。池に入るとかどうかしている。
「それにしても、美味そうなのがいるじゃないか」ジュルリとよだれを啜りながら室が見ていたのは池の中のコイであった。
「おいおい、それは和尚の可愛がっているコイだよ。食べてはだめだよ」そう言いながら田代はびしょびしょになった緑のミニスカを絞っていた。
「あんた達って本当にバカね」私も同感してしまう一言を放ったのはスミレであった。
「お~いスミレ~ちょっと手貸して、水で濡れて重くってさ~」こしのりがそう言うのでスミレは仕方ないと思って手を伸ばしてやった。
「ふっ!かかったな!お前も濡れ濡れになっちゃえ!」恐ろしいこの男は、うら若き乙女をこともあろうに真冬の池の中に誘おうとしていた。こしのりが手を引っ張ったので、スミレの足は地面を離れ池の中へと向かっていく。
「わぁ!スミレちゃん!」丑光はスミレの足が水面に設置にする瞬間に目を閉じた。池に落ちるスミレのことを気の毒に思った。
皆が次の水しぶきが上がることを予想していた。しかし、スミレが池に落ちたドボンという音は聞こえない。
「あれ?」とこしのりが言った。スミレの足は間違いなく水面に設置している。しかしそれ以上彼女の足は池の中へと潜っていかない。
「これは、完全に浮いておる!」陀身安和尚が声を上げた。
「おお!すげ~」こしのりが声をあげると一同騒ぎ出した。
「スミレちゃん、ちょっと歩いてみてよ」
「うん、わかった」そう言うとスミレは一歩二歩と歩き出した。完全に歩いている。
「まさか……」絶対に無理だと思っていた根岸は驚いていた。
「わわっ!すごい!浮いてる」奇跡の体験にスミレは嬉しそうである。
「スミレちゃん、次はジャンプしてよ」丑光のリクエストに応えてもスミレは全く沈まなかった。
和尚は「まさか、この子が一番ミニスカの力を使いこなしているのか……」と言った。「皆も鍛えればきっと浮けるようになる。そして更なる力にも目覚めるだろう」
スミレは水上でご機嫌であった。だいたい水に浮いて、無関心、無感動でいられるような者などいないだろう。皆がスミレを見て騒ぐ中、堂島はそれに気づいた。
「おい!スミレちょっとこっちにこい」と堂島は言った。
「は?何?何で?」
「いやいや、いいから早く池から上がれって!」
「何よそれ」
「だからね~」
「はっきり言いなさいよ」
「写ってるんだよ……水面にお前のが」堂島は遂に言ってしまった。スミレは顔が赤くなった。
それを聞いて丑光、こしのり、室は「何だって!」と言って水面を覗いたがスミレの行動がやはり速い彼女は既に地面に帰って来ていた。がっかりした三人の後ろに実は和尚もいた。和尚だって男の子である。
妹がいる堂島は女子に気が遣えるフェミニストボーイである。
堂島の指摘を受けると瞬時に地面に戻ってきたスミレは堂島に「見た?」とだけ聞いた。
「見えてないと注意できないだろ」と堂島は返した。確かにそうである。
田代は「ミニスカだから気をつけないとね」と言ってこの場をまとめた。
その後、スミレを見て自分も浮けるかもしれないと思った根岸は改めて池に浮くことに挑戦したが、ドボンと音を立てて池に落ちてしまった。
冬に池に落ちたミニスカ侍達だが、ミニスカのすばらしい能力によるのか、それともすこぶる健康だったためか、はたまたバカだったためか、とにかく誰も風を引かなかった。