第百一話 100年前のビッグウエーブ
ミニスカ侍の七人と陀身安和尚は寺の蔵の地下室に来ていた。じめじめとした真っ暗な地下空間を蝋燭で照らすと、そこには黄金のミニスカートがあった。一同は目の前にある謎の遺産に驚くばかりであった。
「これは、金箔がついている」実家が金持ちのため、一同の中で誰よりものその色を目にすることに慣れていた根岸が言った。
「そうだ。このスカートが何なのかもう検討はついておるだろう」和尚は皆の方を向いてそう言った。
「まさか……俺達が穿くコレと同等のものだと言うのか」と堂島が答えた。
「恐らくそういうことになるな」
田代が「和尚、皆に説明を」と言った。
「うむ」和尚はそう言って頷くと、黄金のミニスカを覆うガラスケースの蓋を取った。ミニスカのすぐ横には仮綴された薄い書物が置いてあった。和尚はそれを手に取った。
「なんだコレは。なんて書いているか読めない」こしのりは和尚の手に取った書物をちらと見てそう言った。紙はボロボロだが、びっしりと何かが書かれている。
和尚は「ああ、これは梵字だね。読めなくとも無理はないさ」と答えた。
「ここに重大なことが書かれている。いいかい、これは私の祖父による記録だ。日付は大正6年で、西暦でいうと、え~、ちょっとすぐにはわからんな」
「1917年だ」計算が速い根岸がそう言った。
「そうだね。100年も前の話だ。この記録によるとその100年前に、ここポイズンマムシシティは大津波に見舞われたと書かれている。この情報によると、堂島さんの息子さん、君の家だって飲まれていたくらいだよ」
「なんだって!俺の家はその昔海水に浸かっちまったのか!」ミニスカ侍の中で最も港近くに住んでいる堂島は驚いてそう言った。
「まぁ本来ならね。しかし、そこで不思議なことが起こり、君の家どころか、誰の家も被害を受けずに事が済んだんだね」
「ほぅ、聞こう」堂島はなぜか偉そうに言った。
「私のお爺さんの記録には、信じられないことばかり書かれているが、まぁ最後まで聞いてくれたまえ」
ここから先は和尚の話が始まるのだが、和尚にずっと喋らすのも面倒なので、和尚に代わって私が語らせてもらおう。
和尚の祖父もまたこの寺で坊主をしていた。
和尚の祖父は、迫り来る津波から一人でも救おうと想い、民を逃がすために奔走していた。先程までまだ遠くに見えていた津波は、少し目を離すともう陸のかなり近くまで来ていた。そしてその高さが半端なものではなく、少し走ったところで波に飲まれることは回避できないものであった。祖父はもう助からないと想い、逃げるのを諦めてしまっていた。
そんな時、彼は驚くものを目にした。祖父に迫る津波の上を見ると一人の人間が立っていた。そいつはボードも何もなしに直に足で立って波乗りをしていた。祖父は死を前にしておかしな幻を見たのだと想った。遂に自分の上に波が覆いかぶさり、街は海に浸かると想ったその瞬間、津波はピタと動きを止めた。そして、波乗り野郎が回れ右をして祖父の方にお尻をむけると、ありえないことに時間が巻き戻るようにして大波は海の方へと戻っていった。高い波は徐々に低くなって行き、海の中を20メートル程戻っていった時には水面はいつも通りの穏やかなものとなっていた。
和尚の祖父は、いくら自然が勝って気ままをする未知なるものだとしても、こんな現象を起こすことは絶対にありえないと想った。そして彼は穏やかになった海をしばらく眺めていた。すると、丁度波が消えたあたりからばしゃばしゃと音を立てて誰かがこちらに泳いで来るのが見えた。ちなみにバタフライ泳法であった。
「ややっ!アレは!男だな、うん?おかしな水着を穿いているな」
祖父が視界に入れた人物は先程の大波に乗っていた奴であった。その男は浜に上がってきた。祖父は気になりすぎて男の近くに駆け寄った。
「ふぅ~。おいハゲ、お前はさっさと逃げれば助かったものを、どうして最後まで残っていたんだ」
海水でびしょ濡れの謎の男は、和尚の祖父に向かってそう言った。謎の男は上半身にはボロボロの布切れを纏い、体系は小太りであった。あと、祖父をハゲ呼ばわりしたその男の方がハゲていた。
「私はこの街の寺で住職をしている。仏の教えに従って困っている民はなるたけ助けなくてはと想い行動したまでだ」
「その心意気や良し!よし、良き心を持つお前にはコレをやろう」そう言って男は、祖父がおしかな水着と想っていたものを脱ぎだした。「受け取るがよい!」そう言って男が差し出したものこそ、あの黄金のミニスカであった。
「はぁ、なんですかこれは?」和尚の祖父はミニスカを見たことがなく、何なのか分からなかった。
「それはミニスカだよ。そうだな~世紀末に迫ったくらいには流行りだすと想うニューファッションだな」
「はぁ~ハイカラな召し物ということかな?」
「そうそう、れそれ!ハイカラ、ね!」そう言って男は祖父の肩をポンと叩いた。「そいつを大事に取っておくんだ。100年くらい経ったらそれが世界のためになる、かもしれない。いいか、間違っても売ったりなんてしたらダメだぞ」男はそう言うとまた海に足をいれた、と想うと足は水面に浮いていた。
「じゃあな、精進するんだそ」男はそう言うと祖父に尻を向けた。男はミニスカの下に褌を穿いていたが、尻ははみ出ていた。男の足の周りに小さな波が発生し、男は立ったまま波によって沖へと運ばれていった。男の半ケツは祖父からどんどん遠ざかって行き、時期に見えなくなってしまった
「私が見ているコレは何なのだろうか、夢か幻覚かそれとも活動か……こんなおかしなことが大正の世にあっていいものかのぅ……」